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大河の悩み


2023/7/3 19:30

間違えてこの後の話を先に投稿していたため、割り込み投稿を行いました。


 女王陛下への直訴が認められて、一か月後。

 俺は今、大河とともに女王にあてがわれた住まいの中にいる。

 二人きりだ。


「なあ大河、お前……どうしたんだよ?」

「…………」

「一昨日あたりからさ、様子がおかしいぞ? 顔は真っ青で、独り言も多くて、ぼんやりしてることも多い。何かさ、悩みがあるんだろ? 俺じゃ解決できないかもしれないけど、話をすれば少し楽になるかもしれないぞ。なあ、話だけでも聞かせてくれないか? 悪いことにはならないからさ」

「…………そう、だな」

 

 青い顔をした大河が、蚊の鳴くような声でそう返事をした。一体こいつに何があったっていうんだ? 


「あの村が、なくなったって噂を聞いて……」

「え……? あの村って、お前が減税を直訴したスラガ村のことだよな? なくなったってどういうことだよ。洪水か何かで流されたのか?」

「女王が滅ぼした、って……」


 女王が……滅ぼした?

 

「俺のせいだ」

「大河……」

「俺のせいで、女王があの村を潰したのかもしれない。待遇改善なんて言ったから、恩を忘れるなって言ってたけど、本音では腸が煮えくり返る気持ちだったのかもしれない。自分に逆らった村を丸ごと潰して……俺のせいで……あの村が……」

「お、落ち着けよ大河。まだそうって決まったわけじゃないだろ。噂だけだ、噂。それに村がなくなったって、村人はどこか別のところに逃げたかもしれないだろ」


 と言いながらも、俺は内心で逆のことを考えていた。

 同じ人間である俺をあれだけ馬鹿にしていた女王だ。亜人ともなれば国民とすら思っていないはず。

 少しイラついた程度で殺してしまってもおかしくない。


 だけど、そこまで……やるのか?

 落ち込む大河とは違い、俺は怒りがわいてきた。

 かつて税のために働いていたエルフ時代を思い出した。

 そこまでして、亜人を差別するのか?

 俺たちに……未来はないのか?


「俺が行ってくるよ」


 気が付けば、俺はそう言ってた。


「村のことが気になるんだろ? だったら俺が確認してきてやるよ」

「いや、違うんだ来栖。そんなつもりで打ち明けたんじゃない。行くなら俺が……」

「大河は大将だ。強いスキルだって持ってる。そんな奴が不審な動きをすれば、絶対に感付かれる。女王はこの件を隠してるんだろ? だったらお前は動かない方がいい」


 実際、大河はそのスキルと人望によって有名な存在だ。民も、そして兵士たちもその一挙一動に注目している。無断で外に出ることなどできない。仮に上手く姿を隠して外出したとしても、いないとわかればそれだけで大事だ。


「俺なら警戒されてない。大したスキルを持ってないし、女王だって奴隷か何か程度にしか思ってないはずだ」

「だけど来栖。お前……大丈夫なのか? 俺たちと違って、スキルが……」

「俺も〈緑手〉のスキルに慣れてきてな。いろいろと植物系の魔法を応用できるようになってきた。今の俺なら……遠くの村に行く程度ならどうってことはない」


 これは本当の話だ。

 俺だって馬鹿じゃない。弱小スキルとは言われたけど、魔法だって考えて応用すればそれなりに使えた。

 だから俺は植物系の魔法をさらに進化させ、様々な応用技を身に着けていた。


「俺が調べるから大河はおとなしくしててくれ。反抗的な態度を見せるのはまずいから、たぶんそれが一番だ」

「そう……だよな。俺じゃ、無理なんだよな」


 うなだれる大河。

 こんな調子で外に出たら、猛獣に後れをとってしまうかもしれない。今の大河には休息が必要だ。


「でもさすがに村人たちと話はできないからな。通訳のいろはを連れて行かなきゃならないと思うけど」

「来栖……すまない。こんな頼みごとを……お前にしなきゃならないなんて。でも俺は……あの村の人たちと約束したんだ。だから……結果を知る義務がある。許してくれ、肝心な時に頼りにならない俺を。お前に責任を押し付ける俺を……」

「気にするな大河。俺だってずっとみんなに庇われてばっかりで、少しは恩返ししたかったんだ。瑠奈には明日お前から伝えておいてくれ。俺が言ったら、止められるかもしれないからな」


 と、殊勝なことを言いながら、俺は別のことを考えていた。


 これ……チャンスなんじゃないか?

 うまくいろはと俺だけ外出できた。いろはがいれば亜人語を理解できる。つまり、俺がエルフだったころのあの村――エルガ村に行けるということだ。


 いろはには悪いが……少しだけ付き合ってもらう。


 俺はアリスを救いたい。

 そのためには……


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