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女王との交渉


 魔物退治は何の問題もなく終わった。大河のスキルがあまりにも強力だったから、魔物なんていていないようなものだった。

 俺たちは問題なく首都へと戻ってきた。

 だがここからが真の戦いだ。

 スラガ村のドワーフ。彼らと約束した待遇改善を……女王に呑ませなければならない。


「長旅ご苦労であった勇者殿。無事で何より」


 何の気持ちもこもっていないただの社交辞令。最初のころと違い口調も随分と冷たい。

 もう、反抗的で扱いづらいと思われてるんだろうな。何を言っても警戒されてしまいそうだ。

 先に駆たちが戻っている。そして捕まえるはずだった亜人たちもいない。女王だって薄々報告の内容を察しているはずだ。


 声を出すのは大河のはずなのに、俺まで胃が痛くなってしまった。


「女王陛下にご報告申し上げますっ!」 

 

 激しいプレッシャーを感じているはずの大河であるが、その声には淀みがない。自らの行いを正義と疑っていない証拠だ。


「俺たちは交渉の末に、すべての亜人たちを改心させることに成功いたしました。もうあの村の民は皆この国に忠誠を誓っています。問題はすべて解決しましたっ!」


 あまりにも……詭弁。

 女王は魔王の信奉者を殺すつもりだった。村自体を滅ぼすつもりでもあったし、仮にここまで連れてたとしたら、見せしめのためにも死刑にするつもりだったかもしれない。改心したから許されました、なんて話になったら他に示しがつかない。


「亜人たちは税の重さから魔王に加担したようです。女王陛下、どうか彼らに寛容な処置をっ! 負担が軽くなれば、今後新たな信奉者がでることはないでしょう。俺は彼らとそう約束しました。だからお願いしますっ! 彼らの負担を軽くしてあげてくださいっ!」

 

 あまりにも正攻法。無茶もいいところだ。


 だけどな……大河、俺も同じ気持ちだ。

 もし、このあと女王から攻撃されたとしても、俺はお前と一緒に戦ってみせる。俺だけじゃない、瑠奈だって他のクラスメイトだって、きっとみんなお前のことを――


「許可する」


 と、女王は言った。


 は?

 それ……だけ? 

 それでいいのか? 


 下手をすれば反乱扱い、そうでなくても激しい拒絶を想定していた俺にとって、その返答は予想外にも拍子抜けで……驚くべき結果だった。

 この女王、随分と亜人を馬鹿にしていたはずなんだが、本当に……それでいいのか?


「よ……よろしいのですか?」

「たしかにわらわは亜人を馬鹿にして見下している。それゆえにあやつらのために時間を割くこと自体が無駄。このような話をすること自体が時間の浪費。あの村の税を下げよう、大河殿。しかしそれはそなたの比類なき働きを期待しての……いわば前祝い。この恩を忘れず、今後も一層の働きを期待する」

「は、はいっ! ありがとうございますっ! 女王陛下っ!」


 俺たちのことじゃないのに恩に着せられるってのもおかしな話だ。変なプレッシャーと引き換えに、お願いを聞いてもらったってことか。

 やれやれ、これはあとでこき使われることになりそうだな。俺たち、大丈夫なのかな?


 こんなので……いいのかな?

 エルガ村の税も、話をすれば簡単に引いてもらえたのか?


 なんだか……もやもやするなぁ。

 


************


 大河と女王が減税の取り決めをした、一時間後。

 すでに玉座の前から大河たちは立ち去っていた。その場に残っていたのは女王と……、一足先にこの地へと戻った駆であった。


「ほほほほほほほほほほほほっ!」


 女王の笑いが、静かな部屋に響く。

 すでに大河たちは城から出ている。この声が彼らの耳に入ることはないだろう。


「馬鹿な勇者っ! 愚かな男っ! 亜人を庇い、あのような妄言を口にするなどとは……全くの予想外であった。まったく、失望を通り越して哀れみすら覚えてしまうよ、あの男には……」


 笑みを抑えきれない女王。


「あの村が、もう存在しないとも知らずにっ!」


 スラガ村、滅亡。


 突如として巨大なかまいたちが村人を切り裂き、逃げる間もなくすべてのドワーフが切り刻まれ……そして殺害された。


 もちろん、これは自然のものではない。大気を操る駆が成した……人災であった。


「お気に召したようで嬉しい限りだ女王陛下。現場で臨機応変に下した判断ではあるが、やはり間違っていなかったようだね」


 あの日、大河は魔物を狩りに行き、駆は兵士を引き連れて先に帰還した……ということになっている。

 しかし実際、駆はその場にとどまり、スキルを使って村を滅ぼした。

 兵士たちにはその様子を見せつけ、確かな証人として女王にこの件を報告したのだった。

 

「くくくっ、大河のやり方は非効率的で無駄が多い。私なら初めから村を焼いていた。女王陛下、あなたは正しい。大河のような愚か者にはそれが理解できないのだよ。つくづく愚かな男だ。何も知らず、何も成せず、騙されたままこの国のために働くといい。それがあいつの……運命だ」

「おお……駆殿。そなたは素晴らしい男であるな。あの文句ばかりの〈白雷〉の勇者とは大違い。その立ち回り、決断力、そしてわらわへの忠誠。そなたこそまさしく、わらわが望んでやまなかった人材っ! 何か欲しいものはあるか? そなたになら褒美は惜しまぬよ」

 

 女王の申し出に、駆が笑う。


「私は女王陛下の忠実な下僕。たとえば……貴族のように兵権や権力を与えていただければ、もっとお役に立てることも増えましょう」

「ほほほほほほほ、貴族になりたいとな。俗物的で良い。あの勇者のように変な正義感を振りかざさないところが特になっ! よろしい、駆殿。今日よりそなたはこの国の貴族。後日爵位と領地を与えよう」

「ありがたき幸せ。くくくっ、くくくはははははははっ!」

「おほほほほほほほほほほほっ!」


 大河のいない、この場所で。

 二人の笑い声が、いつまでもいつまでも響き渡った。


ストックが切れたのでこれから一週間おき程度の投稿頻度になります。

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