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魔王の信奉者



 王城、玉座の間にて。

 〈タイガ団〉として人々の依頼を解決していた大河たちに、女王からの招集命令が下った。

 

 俺は呼ばれていないのだが、大河に連れられここまで来ている。仲間は一緒という大河の強い意志のためだ。

 そして俺たちの部屋から出て行った駆もここにいる。あいつ、今まで一体どこで暮らしてたんだろう?

 

「よくぞ参られた、大河殿。今日はそなたたちに頼みごとがあります。遠出にはなるが……勤めを果たすように」

「また亜人の村に行くんですか?」

「この国を守るための、大切な仕事」


 女王はそう言った。

 といっても、魔王は封印されててこの地にまで魔物がやってくることはないんだけどな。困るのは森に住む。亜人だけ。そして女王は亜人を蔑視している。

 都合のいいときだけ国の一員扱いして、何かあっても助ける気はないだろう。


「西の森――モルガ=モリル大森林には亜人の村が点在しています。そしてその中には、この国に従わず魔王を信奉する不届き者も存在しまして。大河殿には魔王を信奉する亜人の村を焼き払ってもらいたい。この国に仇なし、ひいては人類を苦しめる魔王の手先。これに同情の余地はありません」

「お待ちください女王陛下」


 言い切ったはずの女王の言葉に反論する大河。

 お前……まさか……。


「亜人の村が、と仰られましたが、村の全員が魔王を信奉しているとは考えにくかと。まずは聞き取りを行い、国に従わない者だけを捕らえれば良いのではないと思います。村を焼くのはやりすぎです! この国のためを考えるのであれば、少しでも犠牲を減らすべきかと」

「なりません。たとえ善意の者が数人いようと、村全体がこの国に歯向かい人類を脅かしたことは事実。許されるものがいるという前例を作れば、緊張感が揺らぎさらなる魔王信奉者を生み出すでしょう。村の罪は村人すべての罪。すべてを焼き尽くしなさい。それがわらわの命令っっ!」


 怒りを孕ませたその声は、これまでのどんな言葉よりも感情がこもっているように聞こえた。


「俺は人殺しじゃないっ! あんたは俺に人殺しをしろって言うのかっ! それも罪のないかもしれない人をっ! そんなことできるわけがないだろっ!」


 大河……お前……。


「亜人は人のなりそこないっ! 人未満の生き物っ! そのような未完成品を思いやり、わらわに歯向かうというのか? 今の発言、訂正しなければ反乱と捉えるぞ! わらわに歯向かえばどうなるか、思い知らせてやろうか! 誰のおかげで満足な生活が送れていると思っている!」

「俺たちはもうあんたに頼らなくても生きていけるっ! それが望みなら、今すぐあの建物から出て行ってもいい! 犯罪に加担するつもりはないっ!」


 これは……かなりの高いレベルでの反発だ。反乱というほどのことではないが、明確に反抗心を示している。


 俺も、そして他のクラスメイトたちも、冷汗を垂らしながら二人の様子を見守ることしかできなかった。


 どうなる?

 例えば、怒り狂った女王が俺たちを皆殺しにしようとしたら? 

 かつて、女王は勇者とともに魔王と戦っていたと聞く。その魔法で勇者と助け、時には魔族を打ち滅ぼしたと伝えれている。少なくとも魔法を齧った程度の俺を圧倒できるレベルだろう。

 そして彼女の背後にはこの国の兵士たちが控えている。たとえ特別なスキルをもっていなかったとしても、完全武装で多少の魔法を使える戦士たち。戦えばただではすまない。


 しかしそれでもなお、大河にはそれを跳ねのけるだけの自信があるのかもしれない。〈白雷〉と呼ばれるそのスキルは兵士たち……そしてこの建物を破壊することもできる。瑠奈のスキル――〈聖光〉は回復したり結界を張ったりバフデバフをかけたり攻撃したりと、攻守ともに万能の魔法を使える。

 そして他のクラスメイトたちも、もちろん俺も含めてそれなりの戦闘要員だ。ただでやられるつもりはない。


 女王も、大河も、黙ったまま視線で火花を散らしている。

 ちりちりと、まるで真夏の蒸し暑い部屋みたいな空気が……この場を支配していた。

 俺たちの未来は……。


「最初に話をしたが……わらわはそなたたちと敵対するつもりはない」


 深くため息をついたのち、女王がそう呟いた。


「他に適任がいないのも事実。ここはそなたに任せることとする。方法は問わない」

「ありがとうございます女王陛下っ!」

「だが忘れるな勇者たちよっ! そなたたちはわらわに呼ばれ、そしてこの国に住んでいる。もし国に不利益を被る結果となれば、その時はわらわも全力をもってそなたたちを叩き潰す! たとえどれだけ有用で、強力な力を持っていたとしてもっ!」


 女王が、一歩引いた。

 怒りに任せてこちらを攻撃するよりも、冷静に利する方を取った。

 大河は自分たちの力と〈タイガ団〉の実績を盾に、女王から妥協をもぎ取った。

 大河の勝利、とまではいかないまでも、あの気難しい女王と交渉することができた。


 大河……、お前、すげー奴だよ。

 俺にもこれだけの勇気と度量があったら、アリスともっとスムーズに結婚できたかな?

 いや、余計なことを考えるのはやめよう。


 後日、二回目の遠征が行われた。

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全力で叩き潰すって言われて折れたって? いやいや、それ折れたって言わないような
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