表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/112

運命の決着


 死の運命を感じ、未来を切り開こうとするアルフレッド。

 そんな奴の怨念を一身に受け、すぐにでも殺されてしまいそうな俺。

 

 どちらが先に倒れるか分からない。最後の最後の決着は、どちらの勝利になるのだろうか?


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 アルフレッドの声が響いた。

 その瞬間。


「う……」

「あ……あ……」

「ギイエアアアアアアアアアアアアッ!」


 叫び始める味方の亜人たち。正気を失い、目を血走らせている。


 〈狂神〉。


 広範囲の精神攻撃。すべてのものを狂わせ、殺人と暴虐へと誘う恐るべき技。

 奴が……〈災厄〉としての力である〈狂神〉を発動させた。

 

 だが、俺は無事。

 一度この技から復帰したために抗体ができたのか、あるいはアルフレッドの言う運命によるものなのか。どちらかは分からないが、まずは奴の攻撃を一つ潰せた。

 

 そしてかつての俺がそうであったように、この技はかかるまで少し時間がかかるようだ。仲間たちはかなり危ない瞳をして狂い始めているが、それだけだ。こちらに襲い掛かってくる気配はない。

 まだ、猶予はある。


「来栖、頼む……」

「来栖、私たちのことはいいから……」


 同じく〈狂神〉から復帰したクラスメイトたちも、正気を保っているが苦しそうにしている。やはり俺が特別なのだろうか、それとも俺だけ数十年も治療期間がかかったせいなのだろうか。

 ともかく、前に進まなければ……。


「ちっ! お前はどこまでも」

「倒れろっ!」


 俺は再び針状にした木の枝を放ち、アルフレッドに攻撃した。

 だが、それはすべて当たらない。

 これまでと同じだ。俺たちの攻撃がすべて避けられてしまう。まるで奴が死なないことこそ運命であるかのように。


 勝てる気がしない。

 だが、直接攻撃したら通るのか? 俺がこの手で持ち、直接武器を叩きつける。この方法はアルフレッドが〈災厄〉化してから試していない。もし奴が言うように運命がどうとかいう話なら、俺自身が直接止めを刺すこの方法なら……通るかもしれない?

 いずれにしても、このまま味方を狂わせておくわけにはいかない。俺は俺自身が危険な目にあったとしても、こいつをここで叩き潰さなければならない。

 

 そう思い、俺は剣を構えて走り出した。


「まだだああああああああああああああっ! まだ終わらねぇえええええええええええええええええええええええええっ!」

 

 そんな俺の様子を見たアルフレッドが、再び叫び声を上げた。


「ぐううううっ!」


 瞬間、俺は激痛を覚えた。


 左腕の骨が折れた。

 右足の骨が折れた。

 あばら骨が折れ、頭蓋骨にひびが入る。

 

 おそらく過去改変によって俺を傷付けたのだろう。

 

 だが致命傷には至らない。

 〈森羅操々〉によって体に植物を纏わせた俺は、ごく少量の力だけで動けるようになっている。生身ではもはや歩けない状態だが、たとえどれだけこの体が痛もうと、意識さえ失わなければ……前に進める。

 まだ歩ける。

 まだ戦える。


「止まれええええええええええええええええええっ! 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれええええええええええええええええええっ!」


 体中から、悲鳴のような音が聞こえる。骨が折れた音なのか、肉を引き裂かれた音なのか、それとも何かの血管や臓器が潰れてしまった音なのか。それは分からない。

 俺は生きているのか? それとも死んでいるのか? いや考えらえるということは生きているということ。ただ、植物の力に身を委ね意思のみを繋いでいるこの体では、生の実感がわかない。

 意識を繋ぎ、俺はアルフレッドの目の前に到達した。


「受け……入れる。アルフ……レッド。終わりを……」

「なんだ……と」


 ずぶり、と俺の剣はアルフレッドの心臓を貫いた。

 そこには全くの抵抗がなかった。まるでそれが、運命であったように。

 毒の影響なのか、自らの死から逃れられない〈災厄〉の宿命なのか、アルフレッドは……致命傷を避けることができなかった。


「お……俺は、神だぞ……最強だ……ぞ。こんな……ところで、こんな……奴に、終わりを……認めたくは……な……」


 それが、最後の言葉だったのだろうか。

 アルフレッドの瞳から光が失われ、ゆっくりと……床に崩れ落ちてしまった。


「…………」


 これまで、アルフレッドに攻撃が効かなかったのはなぜだったのか。なぜ俺の攻撃が、今になって通用したのか? 直接攻撃したからか? 俺の意思が強かったからか?


 時が訪れた。

 そう……理解してもいいのかもしれない。

 〈災厄〉は己の運命を変えられない。なら、今、このタイミングで止めを刺されるというのが、奴にとっての運命だったということだろう。


 原初の〈災厄〉、いろは、そしてアルフレッド。先代の〈災厄〉を消すことによって、新たな〈災厄〉へ交代した。

 なら、俺は?

 アルフレッドを殺した俺は、〈災厄〉になるのだろうか?


 何かの拍子にそうなってしまう可能性はある。しかし、俺の理解としては『そうならない』と思う。

 いろははスキルを進化させて〈災厄〉に至った。アルフレッドはスキルで〈災厄〉を取り込み〈災厄〉化した。俺にはそう言った明確な理由がないから、ただ奴を滅ぼすだけで済むのではないかと思う。

 まあ、仮に〈災厄〉となることを知っていても、俺はアルフレッドと戦うのを止めなかったがな。


 そんなことを考えながら、俺は。

 アルフレッドの死を確認して、そこで気力が尽きてしまったようで。

 とうとう、意識を失ってしまった。



 こうして、俺は。 

 災厄アルフレッドを倒し、この世界に平和をもたらしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ