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過去改変


 俺は〈緑神〉を召喚した。

 アルフレッドと戦う。そのことを思い出したからだ。


「おいおい、お前、まだ俺と戦うつもりなのか? ま、その気概は嫌いじゃねーな。だがなクリフよ。お前はまだ分かってねーんだよ。目の前にいる俺が、神に等しい至高の存在であることを。俺の敵は〈災厄〉だけ。お前はもう俺の敵じゃねーんだよ」

「いけっ!」


 構わず、俺は〈緑神〉を突っ込ませた。

 それと同時に、俺の後ろに控えていたクラスメイトや亜人たちも動き始めた。思い思いの攻撃を加えていった。


「分かるかクリフ。何が起こったか」


 激しい攻撃だった……はずだ。

 だが、アルフレッドは無傷。すべての攻撃が、奴を避けてしまっている。


 これまでも、俺たちはずっとアルフレッドを攻撃してきた。奴は最強に近い存在で致命傷を与えることはできなかったが、それでも傷ついたり触手が潰れたりと、なんらかの戦果を実感できていた。

 でも、初めてだ。こうまで手ごたえを感じないのは。

 まるで、空気に拳を打ち付けているかのような……そんな感覚。


「〈災厄〉は時を超えることができる。俺はお前らの攻撃を避けちゃいねーぜ。ただ未来に存在する俺という運命に矛盾しないよう、お前たちの攻撃がすべて逸れた。俺は数秒後の未来に存在している。ゆえにここでは死なない。これが神と戦うということだぜクリフ。分かったらさっさと泣いて許しを請うんだな。ま、許さねぇがな」


 どうすれば……いいんだ?

 俺たちの攻撃が全く効いてないぞ。

 こいつ、本当に最強というか、神になったんじゃないのか? 攻撃して初めて理解してしまった。これは勝てる相手じゃない。逆らっていい相手じゃない。

 俺たちは……。


「さてと、余計な邪魔が入ったが、始めるとするか……」

 

 そう言って、アルフレッドが指をパチンと鳴らした。

 その瞬間。


「痛っ!」


 突然、枝の剣を握る俺の手に激痛が走った。


「これは?」


 手、というよりは、指の痛みだ。

 指の骨が、折れた。

 俺は何もしていない。動いてすらいなかったはずだ。だが俺の左手の薬指があらぬ方向に曲がっており、信じられない激痛を伝えてくる。


「数分前の精神にリンクし、俺は過去を変えた。クリフ、お前は俺との戦いで左指を負傷した。俺がこうして前にいなければ、お前は過去が改変された事実にすら気が付かなかっただろう」

「なん……だと……」


 もし本当にそうなのだとしたら、それはあまりにも衝撃的な事実だ。

 実際、小指程度潰されたところで大したことはない。まだ戦うことはできる。だがもし、これが親指や腕、あるいは首の骨に及んでしまったら致命的。俺はアルフレッドに殺される。


「分かるかクリフ。もう俺はお前と戦ってねぇんだよ。俺の唯一の敵は、お前を守り続けていた先代の〈災厄〉。膨大な過去干渉を回避しお前を叩き潰す。それが俺の戦い。残念だったな、お前に何かできる余地なんてねーんだよ。勝負は決した」

「そんな馬鹿なっ!」


 即座に植物の針を飛ばし、アルフレッドに攻撃する。

 だがやはり奴には届かない。回避とかいう次元を通り越して、異次元の神に攻撃しているかのような手ごたえのなさだ。目の前にいるのに、どうやって殴りかかればいいのか全く分からなかった。


「クリスっ!」


 絶望する俺の前に、クリームヒルトが出てきた。


「こいつの言うことなんか信じなくてもいい。あたしたちは魔王を倒せばいいんだっ!」

「英雄殿を守れっ!」

「来栖、俺たちもっ!」


 そう言って、クリームヒルトたちは突撃した。

 何度も何度も攻撃を食らわせた。

 だけどその苛烈な技はアルフレッドに全く当たらず、何をどうしても奴が傷つくことはなかった。

 そして――


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 叫んだのは、俺。

 再び足に激痛が走った。どうやら足の指を折られてしまったらしい。

 すぐさま植物で即席のギブスを作り上げ、足を保護する。これで足指に力が入ることもなく、動くことはできると思うのだが……。 


「ははははっ! 加護が切れてきてるぜクリフっ! もうすぐだ、もうすぐお前をこの手で葬ることができるっ! 悪いなっ! 俺がじわじわ嬲り殺してるみてぇになっちまってよぉ。先代の〈災厄〉がいなけりゃ、すぐに止めを刺してやれるのになぁおいっ!」

「くっ……」


 攻撃の全く当たらないアルフレッドは、余裕綽々と言った様子で俺にそう語り掛けてきた。奴にとって俺以外の奴など歯牙にもかけない存在なのだろう。

 だがもし、俺が死んでしまった後なら、きっと奴は目障りな亜人や人間を皆殺しにする。俺がいなくなってはならない。それは……分かってるのに、どうやって……この苦境を……。


「がはっ!」


 その、瞬間。

 血を吐き苦しみの声を上げたのは、俺ではなく、かといって味方の亜人やクラスメイトたちでもなく、完全な予想外の人物。


「な……ん……だ……?」


 アルフレッドだ。

 アルフレッドが、血を吐いていた。


「なんだ……これ……は? 俺が……傷、ついた?」


 呆然自失。自分でも信じられないと言った様子で、血に汚れた自分の手を見つめているアルフレッド。

 俺も何が起こっているのか分からない。俺たちの決死の攻撃がとうとうアルフレッドに届いたのか? それとも〈災厄〉は寿命か何かなのか?


「俺の……未来、神としての……人生が……」


 呆然とした様子から、やがて何かに気が付いたように顔を上げるアルフレッド。しかしその様子は尋常ではない。


「ない」


 焦点の定まらない目が、縦横無尽に動き回っている。

 口をぽかんと開けながら、体を震わせている。

 恐怖、混乱、悲しみ、絶望、複数の負の感情に押しつぶされた様子のアルフレッドは、俺たちの知らない何かを理解し始めているのかもしれない。


「ない、ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 アルフレッドのその悲鳴は、演技でも何でもなく心からのもののようだ。奴は何か決定的な敗北を悟った。そうに違いない。


「なぜだっ! なぜ未来に干渉できないっ! あの女が何度も干渉してくるから、気づきもしなかったっ! なぜだっ! なぜ未来の俺に干渉できないっ! いや、なぜ俺に『未来』がないっ!」


 未来が、ない?

 それが、アルフレッド混乱の理由なのか?


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