覇神刀
動き出したアルフレッド。
現れる無数の触手。
触手は瓦礫を越え、周囲に広がっていった。
俺は〈枝剣〉で触手を払いながら、背後の様子をうかがった。
「〈雷槍〉っ!」
背後から爆発するような雷撃の音が聞こえる。大河の〈白雷〉だ。雷で構成されたその槍が、アルフレッドの触手を貫いていた。
「〈聖陣〉っ!」
瑠奈の〈聖光〉は聖属性の魔法だ。魔物と化したアルフレッドの攻撃に対して、特攻に近い威力を示している。触手の一つが光に包まれ、霧となって霧散してしまった。
普段は支援や回復にも使われる瑠奈のスキルだが、こうして攻撃することもできる。俺の〈森羅操々〉に似た応用力のある力だ。
「〈龍牙〉っ!」
クリームヒルトが腕にブレスを纏わせ、まるで牙のように鋭くした状態で固定した。広域のブレスと対を成す彼女の力らしい。迫りくる触手の一部を難なく貫いてみせた。
「ちぃっ!」
舌打ちするアルフレッドは、さらなる触手を発生させる。かつて魔王と戦った時のように、俺たちは休む暇もないようだ。
アルフレッドの奴、前回のように巨大化するつもりはないようだが、やはり広範囲で戦うつもりらしい。触手は俺たちを飛び越えて背後に控える亜人たちのもとへも広がっていっている。心配だが……彼らの実力を信じるしかない。俺の見る限り、以前魔王やアルフレッドを討伐したときよりも練度は上がっていると思うのだが。
そしてなによりの問題は、この戦いの決着だ。
前回の戦法は、もう通用しない。魔王を取り込んだ奴は魔力そのものであり、魔素を注入したところでそれは毒にならないから。
いくつか作戦は考えてきたが、やはりこうも苛烈に触手で応戦されると手を打ちにくいのが現状だ。正攻法で叩き物していくしかない。
「――〈緑神〉っ!」
秘技、〈緑神〉。植物の獣を生み出し、戦闘を支援させる俺の技。
俺は〈緑神〉に跨り、アルフレッドの核となる細胞まで突進した。
「アルフレッドっ!」
まずはその触手を削ぎ落すっ!
迫り来る触手を切って切って切りまくる。〈緑神〉の支援と身体強化された俺の力が拮抗している。
きりがないな。どこまで続くんだ、こいつの触手は……。
触手を生み出す巨大細胞の隙間に、またしてもアルフレッドの顔が浮いてきた。何か話すことでもあるのか?
「くくくっ、いい気になるなよクリフ。力を付けたのが人間や亜人だけだと思ったか?」
「何っ?」
「さっき偉そうに言ってたよなぁ? どれだけ努力して研鑽してとかなんとか? そりゃそうだ。時間があれば人間は成長するだろうよ。で、俺だけ馬鹿みたいに何もしなかったと思ったか? 魔物を放り投げるだけで満足したと思ったか?」
「…………」
「ま、計算違いだったことは否定しねぇよ。俺は人間と亜人がもっと醜い争いを繰り広げると思っていた。それは認めよう。だが俺は最強だ。その愚かなミスすら凌駕して勝利を掴み取ってやるぜ。なあ、クリフよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
アルフレッドの叫びとともに、周囲の触手が変化を生じた。
魔物だ。触手の先から魔物が出現してる。
「あれだけ大見得切っておいてまた魔物頼みか? 底が知れるなっ!」
「ほざけ雑魚がっ! よく見ていろっ!」
生み出された魔物は俺に向かってくるわけでもなく、かといってクラスメイトたちやクリームヒルトへも向かっていかない。なぜかアルフレッドのもとへと集まっていった。
魔物たちはアルフレッドの近くにある触手へと群がり、一個の塊――すなわち刀に収束していった。
俺はかつてこの光景を見たいことがある。魔王と戦ったときに、確か……。
「〈魔神刀〉……か?」
〈魔神刀〉。
かつて魔王が使っていた武器。自らが生み出した魔物たちを一転に凝縮させ、巨大な力を持つ刀を生成する技。今、奴の触手が握っている刀は、まさにそれだった。
やっかいな力を持つ刀だ。が、気圧されるわけにはいかない。
「魔王の真似かアルフレッド? 俺たちは昔、あいつを倒したんだぞ? 同じ手が通じると思うか?」
「くくく、この魔物は周囲を徘徊していた魔物たちとは違う。俺の体の一部であり、この〈暴食〉の力の一部を分け与えた実力者。それをこの手に凝縮させた。この意味が分かるか?」
「何?」
もし、奴が生み出した魔物すべてに〈暴食〉の力を与えることができていたとしたら、それこそ人類すべてが滅亡の危機に瀕していただろう。
だがそうはならなかった。魔物はただの魔物だった。だから俺たちはここまで魔物を倒しながらやってくることができた。
だがあの刀は、アルフレッドと同じ力を持っているのか?
「魔王ごときと一緒にするなよ糞どもがっ! 俺は英雄であり、魔王を超える魔王となったこの世界の覇者っ! 俺は魔王を超えた究極の存在っ! 我が〈覇神刀〉の威力を見るがいいっ!」
そう言って、アルフレッドが刀を振るった。斬撃を飛ばす〈魔神刀〉の力によく似ているが……。
かつて〈魔神刀〉は斬撃を飛ばしてこちらに攻撃を加えていた。それはブレスを裂き、俺の〈緑神〉にもダメージを与えた恐るべき力だった。
だが今回、その斬撃に〈暴食〉の力が上乗せされているようだ。見た目としては〈龍人族〉のブレスに近い何かが付加されているように見える。
属性は、おそらく氷。そしてクリームヒルトのブレスがそうであるように、飛ばされた斬撃はとても巨大で広範囲をカバーしていた。魔王のように剣舞と称して複数の斬撃を発生させる必要なんてない。ただ一太刀で周囲を壊滅させることのできる、恐ろしい力だった。
俺はとっさに左側に飛び、それを避けた。近くにいるから奴の斬撃の動きが見えた。だが遠くにいる仲間たちは、果たしてこれを遠ざけることができただろうか?
俺は恐る恐る背後を振り返った。
「なんて……威力だよ」
周囲を凍らせダメージを与える龍人族のブレス。斬撃を飛ばし相手にダメージを与える〈魔神刀〉の力。その二つを重ね備えたこの力が、巨大な暴風と吹雪を重ねたような被害を生み出していた。
だが俺に当てることへ集中した結果、大勢の仲間たちがその照準から逃れたらしい。クラスメイトたちやクリームヒルトも、唖然とはしているが無事だった。
やはり、仲間たちを散開させておいて正解だった。もし前回と一緒のように集団で攻撃をしていたとしたら、このアルフレッドの力によって終わっていたかもしれない。
〈覇神刀〉。
これが、アルフレッドの新たな力