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巨大な細胞


 俺たちは魔物を掃討しながら、大森林の奥へと進んでいった。

 魔物の抵抗は進むにすれすさまじいものになっていったが、それでも集団で戦う俺たちの敵ではなかった。一歩一歩、確実に歩を進めていった。

 

 結果、とうとう俺たちはたどり着いてしまった。

 廃墟と化した瓦礫の山。すなわち……旧魔王城へと。

 かつてアルフレッドによって破壊されたこの城は、片付ける者がいないため瓦礫の山となっていた。ただ、この地域特有の毒々しい植物が瓦礫を覆っているところを見ると、時代の流れを感じることができる。


 亜人と人間、両方で攻めてきたわけだが、どうやら俺たち亜人側が一番乗りのようだ。別に手柄争いをしているわけではないが、わざわざあいつらを待つ必要もないだろう。 


 前回の戦いで、俺たちは集団で魔王を倒した。 

 しかしその後、巨大化したアルフレッドが魔王城を崩壊させ、甚大な被害を被ってしまった。

 あの時は仕方なかったが、今回も同じようになってしまうのは避けたい。


 だから今回、集団で来てはいるのだが全員で少し距離を開けて周囲を警戒するように陣を敷いている。こうすればもし前回のようにアルフレッドが巨大化しても、被害が少なくて済むだろう。


「懐かしいな、クリス。またここに来ることになるなんて」

「ああ、二度と来たくはなかったんだけどなクリームヒルト。でも、今度こそ本当に最後だ。邪魔が入らなければ、だけど」

「…………」

 

 そう、邪魔。要するに〈災厄〉のことだ。

 ただ、俺たちを妨害するならもっと良いタイミングがあったと思う。もう魔物に関して言えばほとんど解決していると言っても過言ではない。魔王アルフレッドは大敗北だ。言い逃れができないほどに。


 ひょっとして、〈災厄〉とアルフレッドはそれほど仲がいいわけでもないのか?

 思えば〈災厄〉の話を聞くのは、いつもアルフレッド側からだった。あいつが〈災厄〉に対して好ましい感情を持っていることは間違いないだろう。

 だが、〈災厄〉は果たしてそうなのだろうか?


 もし、〈災厄〉がアルフレッドのことをなんとも思っていないとしたら?

 これはとても単純な戦いになる。すなわち、亜人を含めた全人類と魔王アルフレッドとの直接対決だ。 

 もちろんそれなりに犠牲は出るだろう。だけど、前回亜人だけでも魔王なら倒すことができた。なら今、俺たちは……きっと。


「随分と気味の悪い場所だな。まるでお化け屋敷みたいだ」

「そうね。早く終わらせて帰りたい」 


 後ろで、大河と瑠奈が気味悪そうに顔を引きつらせている。仕方ない話だ。この辺の植物は本当に毒々しいからな。慣れてないと気分が滅入ってくる。


「みんな、止まれ」


 一番前に進んでいた俺は、後ろから来ていたクリームヒルトたちを腕で止めた。

 これまでは魔物が点在するだけの何もない廃墟だった。だが、とうとう俺は奴のいるところまで到達してしまったらしい。


 それは、まるで一個の細胞のようだった。


 よく、生物の教科書に載っているような細胞だ。核があって中が液体に満たされていて、それでいて細胞膜のような柔らかい皮によって覆われた。細胞状の何か。ただその大きさは俺が目視できるレベル、というか俺の身長とそう大差ないレベルの大きさを持つ……奇怪な何か。


「な、なんだこれは? 新しいタイプの魔物か?」

「いや違う大河、これはきっと……」

 

 その、瞬間。  

 細胞に変化が生じた。

 アルフレッドだ。

 ぶよぶよとした細胞の表面に、アルフレッドの顔が浮き出てきた。もはや美意識も何もない、まるでバイオテロか何かに巻き込まれたかのような気持ち悪い見た目だ。

 だが俺は覚えている。こいつが見た目を度外視して体を作り始めた時が、最も危険であるということを。


「気に入らねぇ、気に入られねぇな。お前ら、なぜここまで来た? いや来れた?」


 どうやら、話をするつもりらしい。もっとも、矛を収めて平和的に……といった様子ではなさそうだが。


「むしろ俺が聞きたい。どうしてここに来ないと思った?」

「人と亜人、兵士と奴隷、貴族と平民。互いに憎しみ合っていたはずだ。格下だの格上だのとこだわって、多くの争いを繰り返してきた。だがなぜだ? なぜ今……仲良く魔物狩りなんかしてやがる? お前ら……信じられねぇよ。女王の跡継ぎは頭が湧いてんじゃねーのか? 馬鹿なのか?」

「もし本当に馬鹿がいるとすれば、それはお前だアルフレッド」


 わざわざ気を使って丁寧な言葉で返す必要もないだろう。もう、どうあがいても俺たちは戦う運命にあるのだから。


「人間を止めて、人としての感覚を失い今日まで過ごしてきた老害。お前は何も知らないんだ。お前が去った後、亜人が……そして人がどれだけ努力をして研鑽を重ねて、そして国というものを作り上げていったか」

 

 そう、それこそがアルフレッドの敗因。


「お前の知る王国はすでに存在しない。女王だってお前が殺したようなものだ。俺たちは全員でお前という共通の敵を倒し、そして和解するっ! お前を倒し、俺たちが新しい時代を紡ぐっ! 英雄が魔王を倒し世界が平和になる。かつて女王がお前について吹聴したほら話が、こうして現実のものとなるっ! もっとも、お前は勇者でも英雄でもなく魔王役だがなっ!」

「黙れえええエエエエエエエエエエエえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ! ごちゃごちゃうるせえぇんだよっ! 来いよクリフっ! 今度こそぶっ殺してやるぜっ!」

 

 巨大な細胞が震え、触手のような突起を無数に出現させた。

 来る……。


「みんなっ! もう無駄話は終わりみたいだっ! 戦いが始まるぞっ!」 

 

 背後で武器を構える音が聞こえる。心強い俺の仲間たち。ここまで一緒に来られたことを、本当に嬉しく……そして頼もしく思う。


 さあ、始めようか。

 これが、こいつとの最後の戦いだっ!


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