7.唯一無二
S side
レティ…シア
・
なぁ、どこ行くんだよ…!!
・
行くな…行かないで
・
俺は…シナリオに抗えなかっ、た
・
俺は…!!君が…、
「……ハァ、ハァ」
「…殿下!おい、医官を呼べ!!」
あの後、どうなった…
レティシアが魔力を暴走させて、それを俺が…
見渡す限り暗闇で、此処に居てはダメだと直感した。レティシアが何処か遠くへ行こうとする、離れていく。追いかけたくて、声を掛けたくて。だが、意思に反して、足は動かない。言葉を紡ぎ、呼び止められない。シナリオには抗えられない、そう言われている気がした。
俺が、断罪…
誰か…嘘だと言って
◇◇◇
無我夢中だった俺は、曖昧でしか思い出せなかったが、一部始終を見ていた護衛騎士によれば、俺は暴走した魔力を鎮める為に、自身が有する魔力で相殺を謀ったらしい。護衛であるにもかかわらず、俺を止め、守れなかったとしつこい程に謝罪され、本来であれば下されたであろう重い処罰は、俺が突発的に前に出たということで、数日間謹慎ということで何とか事は納まった。
…迷惑かけて、すみませんでした
レティシアに関しては、怪我はしていないと報告を受けた。だが、“ 婚約者が魔力暴走を起こし、それによって第一王子が数日間生死を彷徨った“ として事は既に知れ渡っていた為、婚約破棄を求める声が日に日に大きくなっていた。
内定直後で、正式な婚約手続を終えていないことが仇になった。早々に交わすべきだった。
侍従達に止められ、” 第一王子とはいえ、強引だ “と非難されようが、すぐに会うべきだった。さすれば、レティシアが一人で抱え込むことはなかった。
王家が配属させたという専属侍女に、
『只今、レティシア様は試験に取り組んでいらっしゃる為、ご一緒に休憩は取れないかと』
と言われ、侍従に、
『レティシア様は魔術訓練をする為、移動なさりました』
と報告された言葉を信じた。責任は俺にあった。
知らされていなかったスケジュール変更に、違和感を覚えつつ、侍女達は王家が用意した者だと聞き、油断した。後で父に確認すれば、指導係、侍従に留まらず、専属侍女に至るまでを、アルベルト公爵に口添えされた者を配属したと言う。
父を問い詰めると、申し訳なさそうに
『だって、“ 任せて下さい ”って言い張って聞かなかったんだもん』
だと。いや、可愛くねぇよ。アルベルト公爵には好きにさせないとか言ってた癖に。大方、強引に次ぐ強引で、面倒だったんだろう。
無論、父ライオネル・アルフォンスは眉目秀麗だ。資金調達に熱心な他国に比べて、必要最低限度でしか税を徴収しない治世で、国民に慕われている。理想的な国王だといえよう。
だか、中年男性が語尾に“ もん ”は、流石に無理がある。国王として采配をする父を尊敬はするが、些か彼は第一王子ではなく、息子として対峙する俺には強く出られない。次期国王として重圧を背負い続ける息子に、どこかで罪悪感に苛まれている。その優しい性格は、時に弱点だ。
国王だろうが
しかし、アルベルト公爵が首謀者だというには証拠が足りない。“ 指導係が勝手にしたことだ ”と言われれば、それまでだ。前世で云う、不起訴処分に終わる。
「探る必要がありそうだな」
◇◇◇
意識を取り戻した翌日、ローレン公爵が、嫡男ルークと共に登城した。侍女達には、まだ安静にしていて欲しいと懇願されたが、何せ早急に方をつける必要があった。
「殿下。この度は息子が申し訳ありませんでした」
「顔を上げて下さい」
椅子に腰かけたローレン公爵が、現状を丁寧に報告してくれる。
レティシアには怪我がなかったが、心に深い傷を負い、部屋に籠りきりになってしまったこと。自己嫌悪に陥っていること。俺を傷つけてしまったと、気を病んでいると告げられた。
「これは王家に打診され、結ばれた婚約です。私達が婚約破棄を申し出ることはできません。不敬を承知した上で申します。父親として息子が苦しむ婚約など受け入れられない。どうか殿下には、」
「嫌です」
先に続く言葉が否定的だということは明らかで、当然だった。誰が、好き好んで我が子に茨の道を歩ませたいか。毒親以外にあり得ない話だ。レティシアを思えば、婚約は破棄すべきだ。
前世では、能天気な姉と妹に悩まされていた平凡な男だった俺が、今世では信じられない事に第一王子。とはいえ、これは乙女ゲームな訳であって、俺が面倒な役割にあることは、疑いようがない事実だ。
だが、レティシアが俺と生きていくことを望んでくれた。そう簡単に諦められる訳がない。
「俺は婚約を破棄するつもりはありません」
「……理由を、聞かせていただけますか」
レティシアが、恋を教えてくれた。
愛を感じさせてくれた。
「この先、彼が傷付き、嘆くことは幾度と訪れるでしょう。公爵が仰ったことを否定することはできません。ですが、手放してあげられない。彼は、レティシア・ローレンだけは諦められない。諦めたくない。どうか、婚約を続けさせて下さい。お願いします」
王家が頭を下げるなど許されたことではない。正式に婚約が交わされた訳ではないこそ、結び直せば良いと考える者が殆どだ。公爵はそれを分かっているからこそ、俺が深く頭を下げたことに対して驚きを隠せないでいた。
「………息子を守ると、約束していただけますか」
「世界を敵に回そうが、神に見限られようが、レティシアは俺が守ります」
「そこまで…、」
「えぇ、彼を愛しています」
数刻後、この件については、俺に一任するということで、話し合いを終えた。
幼いレティシアが魔力を暴走させた。魔力暴走は、精神に過剰な負荷がかかると発生する。以上を考慮すれば、アルベルト公爵が何をしたかには目星が付く。
さぁ、反撃を始めようか。
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