5.魔力暴走
S side
正式に婚約が結ばれ、それに伴い、妃教育が開始された。父に” レティシア・ローレンをどう思っているか “と尋ねられた際、俺は迷いなく“ 彼が好きだ ”と伝えた。年相応な言動を取った俺に、驚かれはしたが、喜んでくれた。
一般的に妃教育と云えば、長時間に渡って机に向かい、指導を受け続けるというイメージだが、実際は違っている。集中力が途切れ、身体的精神的に負担をかけない為に、適度に休息が与えられ、次期王妃にとっては必要性が低い体術は、最低限で済まされることが多い。
そして、月に数回は、婚約者だけで過ごす時間が設けられている。最優先事項だ。誰に邪魔されることなく、二人で紅茶を飲んで、菓子を食べて、時々見つめ合ったりなんかして。最高かよ。と呑気に妄想してたが、彼と過ごす機会は何故か減っていく一方で。
「レティシアを迎えに来たんだけど、」
「只今、レティシア様は試験に取り組んでいらっしゃる為、ご一緒に休憩は取れないかと」
「そ、っか」
レティシアと過ごすと予定されていた。優先事項ということは、知らされている筈だ。にもかかわらず、試験が実施されている。
……臨機応変に、ってことか。違和感を覚えはしたが、それ以上踏込みはしなかった。だが、
「レティシア様は魔術訓練をする為、移動なさりました」
「え、またか」
幾度となく、スケジュールは変更される。偶然か、必然か。誰かが意図的に俺と会わないよう、仕向けている。そう直感した。
「予定変更だ」
積み上げられた資料を早急に片付け、第一王子室を護衛する騎士数名に声をかけ、部屋を後にした。
◇◇◇
ドゴーンッ ゴーッ ゴーッ
王宮内に、鼓膜を突き刺す様な爆音が響き渡った。異常事態が発生したことを物語っている。
「レティシア!!!」
居合わせた騎士達は呆然と立ち尽くし、侍女達は悲鳴を上げ、壁際に座り込んでいる。
室内は荒れ、暗闇と化していた。壁が、天井がバキバキと音を立てて崩れていく。これは、
「……魔力、暴走、」
魔法によって幾分か便利な世界だが、それ相応にデメリットは存在する。
魔力は精神状態によって左右される。それ故、冷静で居られれば、魔力を巧みに操ることができ、一方でストレスなど、精神が不安定になると、魔力を制御できずに暴走させる。その被害は大きく、過去には死傷者が出たケースも。
「……レティシア!!!」
暗闇に、レティシアを見つけ、飛び込んだ。護衛が制止する声が聞こえたが、関係ない。無視だ、無視。
「で、んか……、」
「大丈夫、俺を信じろ」
魔力には、それぞれ相性がある。
炎と水、土と風、闇と光が対抗属性とされている為、闇属性に優れたレティシアには、光属性だが、聖女でない限り、タイムラグなしで発動することは不可能だ。
それ故、魔力を魔力で相殺する他なかった。
頼む、間に合ってくれ…!!
全属性を同時発動させ、魔力相殺を図る。意識が朦朧とし、手足が痺れ、呼吸が乱れる。
やべ...、
色彩が入り交じった淡い光が、黒々とした魔力を覆った瞬間、轟音が消え、暗闇に光が戻った。
短時間に魔力を酷使し、一時的に魔力量が枯渇した俺は、レティシアが傍に居ることを確認した直後、意識を手放した。
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