番外編②
時間軸▶︎▶︎▶︎[学園編:11.溺愛傾向]後になります
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D side
「なぁ……、多くないか?」
「そうですか?」
殿下が、書類に署名を終えた時、ルカスが追加分を机に置いた。公務を終えたと思ったが故に、机にぐったりと項垂れる。
確かに…これは多いな
「数刻後、グレース伯爵が商会に関して-----」
「………あ、」
スケジュールを告げていくルカスを横目に、殿下は、何かを思い出したらしい。
「ルカス……、仕返しか?」
「何のことですか?」
「腹いせに、仕事 追加させたことだよ!」
……何してるんですか、
「別に、業務を追加されたからといって、署名を終えたタイミングで追加してやろう とか思ってませんよ」
「思ってんじゃねぇか!!」
「公務中に、婚約者にデレデレするからじゃないですか!!」
「可愛いんだから、仕方ないだろ!!」
「関係ありませんよ!!」
「ルカスだって、サブリナ嬢が------」
壁際に控え、第一王子と側近が、相変わらず、言い争っている様子を静観する。立場を考えれば、側近が、主に対して言い返すなど、許された行為でないが、気が知れた者〔ルカス,俺,専属護衛騎士 数名〕であれば、それが許されている。
二年前、ルカスが サブリナ・エドガー侯爵令嬢と婚約して以降、婚約者論争は、日常茶飯事となっている。
コンコンッ
「失礼します」
ガチャッ
「遅かったな」
「仕方ないだろう?此奴が緊張する って煩いんだよ、」
「ほ、本日付で第一王子専属近衛騎士団に配属されましたイーサン・エヴァンズと申します、!」
緊張で、早口に言い切った姿に、同情せずには いられない。背後で、同僚がケタケタと腹を抱えて、笑っている。
精鋭が揃った近衛騎士団。特に、第一王子を主君とする専属近衛騎士団は、騎士を志す者にすれば、花形職だ。それに、第一王子に憧れを抱く騎士は少なくない。何せ、殿下は、剣術を生業とする騎士以上に腕が立つ。騎士団長を任されている俺でさえ、互角といった所だ。
例に漏れず、この新人が提出した転属希望書からは、第一王子に対する高い忠誠心が見受けられた。
……損なわれなければ良いが、
「またか、」
「あぁ。今回は、ルカスが 殿下を揶揄ったが為に、業務を追加されたことが発端だ」
「何がです?」
呆れて、笑い出す同僚に疑問を抱きつつ、新人は第一王子室を覗いた。
「公務中に ぼーっとしないでくれますか!」
「はぁ、?ルカスに言われたかねぇよ!」
「なッ、殿下程じゃありませんよ!」
「…ッたく、…ディルク!!」
唐突に同意を求められるが、想定内だ。
「私にすれば、誤差はないと思いますが」
「んなことねぇよ、!!」「あり得ません、ッ!!」
声を揃えて、否定されたが、通常運転だ。
「なッ、何ですか…、」
目前で展開される光景に、空いた口が塞がっていない。配属以前、シオン・アルフォンスに対して、完璧王子、或いは冷酷といったイメージを有していれば、不可抗力といえようが。
主従関係、上下関係が重んじられる界隈で生きていながら、現状、殿下が取っている言動は相反している。階級にかかわらず、貴族が臣下を対等に扱うなど、考えられない。それ以前に、選民意識が根強く残っている。
それ故、当該 婚約者論争を知れば、目を疑う者が続出する。だが、憧れを失う者は一人としていなかった。却って、心酔していく一方だ。
「分かる。俺も配属された時は…」
笑い終えた同僚が、一息吐いた後、新人の肩に手を置いた。
「かっこいぃぃぃい、ッ!!」
両手をグッ と握り締めて、瞳を輝かせた。
「これは、相当だな…」
「あぁ、見込みがありそうだ」
若干 引いている同僚を横目に、室内に視線を移す。
相変わらず、論争を続けている二人だが、我が国が誇る“ 完全無欠な次期国王 ”と、彼を支える“ 傑れた参謀 ”だ。
「ディルク、」
「あぁ、そろそろ行かないと間に合わない」
開かれた扉を、コンコンッと叩いた後、声をかける。
「殿下、向かいますよ」
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