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19.恐怖心

R side


 パリーンッ


「確認して参ります」


 学園を移動中、前方で何かが割れる音がした。誘拐事件発生以降、警備体制が見直された為、外部から侵入することは不可能。誰かが、偶然割ったんだろうか。そう、楽観的に考えていた。


「レティシア・ローレン」

「…!」


 咄嗟に視線を移すと、ふわっとした桃髪が揺れた。見知った可憐な容貌とは相反し、彼女は顔を歪ませていた。…彼女が、どうして。


「さっさと婚約破棄しなさいよ」

「…それは、フォスター子爵令嬢様が決めることではない筈です。王家に申して下さい」

「な、何よ!」


 毅然とした姿勢が面白くなかったか、血相を変えて詰め寄ろうとする。


「どうかされましたか」


 刹那、静かな空間に声が響いた。護衛騎士が戻った様だ。だが、彼が立つ位置からは、彼女の姿を確認することは難しい。


「邪魔すんじゃねぇよ!テンセイシャだろ!シオンは私がコウリャクすんだよ!アクヤクはアクヤクらしく断罪されろ!!」


 理解し難い言葉で罵倒し続ける彼女は、来た道を引き返していく。


 恐怖心など、既に消えていた。



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