表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前.

 前編です。

「大人と子供のちがいなんて、たいしてないよ」

と。高校生の少女に言った記憶がある。

 


 そのときは、本音で、そう言った。

 そう思っている。


 だが、しばらくして、その考えは変わった。


 変わらざるをえなくなったのだ。



 突然の家族の死。


 事故ではなく、病死だっため。

 半年から、一年の期間はあり。覚悟——というか、心の準備はじゅうぶんにできていたのだと思う。

 ほんとうに、突然。不幸な事故で、覚悟どころか、別れのことばすら言えなかったかたたちにとっては。これを、突然と呼ぶのさえ、不適切と思われるかもしれない。


 だが、そのひとに。

 私が、これまでの恩に報いることが、できていなく。それを返すための時間が、もういくらも残っていないのだと、知らされるのは。

 いくら不適切でも、突然、ということばを避けて語ることを。私は、いまだにできないでいる。



 悲しくはなかった。


 報いることが、できていなく。


 悔しい。


 恥じている。


 それだけだ。



 他の家族には、私を冷たいと思ったものもいるだろう。

 べつに、それはいい。


 そのひとに対する、感謝はあるし、愛情がないとか、そういう問題でもない。


 ひとつ、終わったのだ。


 そして、私はじゅうぶんな報いを、返すことができなかった。


 それだけなのだ。——やはり、冷たい、とか。人間味がないとか、いわれてもしかたないか。

 むかし、友人にも、言われたことがある。

「おまえは、人間に大切なあたたかみが足りない」

と。非難ではなく、忠告でさえなく。評価だか、分析だか、そんなところで。

「ほんとは、奥にあるんだろうけど。出しちゃえばいいのに」

 笑いながらそういった、あいつの顔を、まだおぼえている。



 まあ、ここまでは、たんなる前置きだ。


 私がまいってしまったのは、家族の死、そのものではない。


 そのひとの末期。私や、ほかの家族による介護がはじまったのだが。


 そのひとが存命中に、せめてひとめ会わねばと。

 そのひとの友人や、疎遠だった親戚などが、訪ねてきてくださった。


 有り難いことだ。


 素直に、そう思う。


 だが、私には、負担でもあった。


 親戚とはいえ。

 ひとづきあいが苦手で、疎遠にしていたばかりか。顔や名前もろくにおぼえていない、彼ら彼女らと、日常的に接することになるのがだ。


 私ではなく、両親たちと交流があるかたたちではあり。私自身は、幼いころお世話になっただけで。これでは、記憶になくても、しかたのないところはある。


 亡くなったそのひとの、古い友人など、なおさらだ。

 そのひとを通じてしか、わたしとは縁のない人間だからだ。


 だが、こうして。そのひとに、会いにきてくださったことは感謝している。そして、その想いに、きちんと礼を尽くさねばならない、とも。


 葬儀では、さらに精神をすり減らした。

 そんなかたたちのなかで、私は、きちんと「遺族」の役をふるまわねば、ならないのだ。


 もちろん、それをすることが。足を運んでくださったかたたちへの礼儀であり。私も、それをまっとうしたい、そう考えていた。


 だが、どこかで。


 私にも、無理がたたったのであろう。


 介護の疲れも、少なからずあったのかもしれない。


 会いにきてくれた、家族の友人や、親戚のかたたちは、ものすごく、よくしてくれた。私にまで、心づかいをしてくださって。こんなにくりかえすと、かえって、嘘くさい綺麗事のようにきこえるが、ほんとうに感謝している。


 だが、それゆえに、申し訳なかった。


 これまで、疎遠にしてきたことに、しかたない理由があろうとも。

 あるいは、たんに私が不精にしてきただけ、といえる間柄も。

 それなのに、私にまでかけてくださる厚意。それに、のうのうとあまえてしまうことに、ひどく恥じてもいた。




 そんななか。


 家族の死が、悲しくてではない。


 その死に、ともなう状況が。


 私に、ひとつの。考えの変化をもたらした。

 後編につづきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ