『記憶にない?彼女』
「私がこれから、あんたらの担任教師を務める"鮫島林檎"じゃ。冗談でババアとか言ったやつは殺っ……ゴホンッ、失礼。即退学させるから肝に銘じておけ、夜露死苦」
────────((絶対極道精通してる))
眼帯を付けてる赤髪女教師か、厳つい。ババアいじりを警戒しているようだが、そこまで老いてるようには見えない。
あ、目が合ってしまった。鮫島先生は途端に、俺が座る1番後ろの席までやってきて、「やべぇ初めて幽霊みたわ」と言いながら俺の顔面をガン見してきた。
「え、俺って死んで……って、死んでません」
でもまあ、両親が俺に付ける名前の候補で、幽ってのがあったくらい俺は、この世の生き物とは思えないほど透明だからなぁ。まさしく美の権化。とうとう死人扱いされてしまった。
「ゴホンッ、失礼。でもあんた、くそイケてるぜ」
意図せずクラスの注目を集めてしまい、ありとあらゆる人間の視線を感じるが、その中でも特に強烈なのは隣の席の、三廻部沙姫という女の視線だ。そう、さきほど校門前で意味不明な発言を繰り広げていた、あの厄介な女。
外見は黒髪ロングと大人っぽい顔つきで、そこまで悪くないが、流石に虚言癖の女と仲良く出来る気はしない。俺は過去に一度も、女と付き合ったことがないにも拘わらず、俺と遠距離恋愛を続けていると、こいつは言い張る。
可能性としてあるのは、俺が幼少期とかに付き合うと認めた女が、どこか遠くへ引越し、それを今でも覚えているこいつが偶然にも再会したとか。しかし流石に、餓鬼の戯言を本気にされては困るというもの。もちろん軽率に了承した俺にも非はあるけどさ。
目を瞑ってあんなこんな考え事をしていた俺は目を開くと、そこには三廻部沙姫が存在していた。
「ん? ホームルーム中に席立っちゃ駄目だろ」
「ホームルーム終わったわよ。それよりちょっと来なさい。まだ話は終わっていないのよ」
「まじか」
俺は三廻部沙姫に無理やり手を引っ張られ、屋上に連れてこられた。ここへ来る最中、沢山の人間にカップル疑惑をかけられた。これで早くも有名人だな。初日から勘弁してくれ。
俺は孤高の存在になりたかったのに、これでは一般カップルみたいな扱いをされてしまう。
「何度でも言うが、俺は君を知らない。もし君には記憶があったとしても、俺はその記憶を既に忘れているんだ。つまり、もう君とは結ばれていない。頼むからこの辺にしてほしい」
「嘘つかないでよ! 記憶を忘れたって……中学の頃にファーストキスまで奪っておいて、よくそんな事が言えたわね!」
────────おっとぉ?