6話
裏のお山から採って来た竹を3つに割る。それぞれ中の節を取り除き、断面を炭で焼き固めてから元の形へ戻す。そして中に出来た空洞に鉄芯を入れ、隙間を埋めるようにステンレス球を中に隙間が出来なくなるまでたっぷりと入れます。
両端に布を被せキングポリエステル糸で全体を縛り、漆を塗ってあげれば出来上がり。
私が自宅の庭でDIYしているのは十兵衛杖と呼ばれる仕込み杖。
先日のダンジョン探索では血糊で刀が斬れなくなるという失態を犯しました。
どうすればより戦えるのか刀を研ぎ直しながら考えたのですが、斬撃でなく打撃系の武器ならばより長く戦えるのではと思い至ります。
そして打撃の武器として最初に思いついたのが今作っている仕込み杖。杖術よりも剣術の要領で使え、金属バットなどとは異なりしなりを加えた打撃は骨を折り臓腑を潰すのに特化しています。
ゴブリンさんを殺すだけなら脳を破壊するのが一番簡単なので、これでぺしぺしやってみようという算段です。
仕込み杖なんて使わないで刀を複数本持っていけよと思われるかもしれませんが、実戦に耐えうる刀となると数十万円以上のお値段が付き容易には買えず。それに対してこの仕込み杖なら1本作るのに1200円ほどとお買い得なのです。
ゴブリンさんから獲れた魔石の換金レートが2000円前後なので、1匹で元が取れると考えると自作出来て消耗品として使い潰せる仕込み杖は最適かと。
早速仕込み杖を持参してトネリダンジョンへ向かう。移動費や宿泊費に食費と何をするにもお金がかかります。
ダンジョンの中は今日も今日とて賑わっているので、端っこの方で実験しましょう。
気配を落として歩いて行くと人気の無い木陰でゴブリンさんが1匹無防備に寝ています。もしや罠では? と思い警戒しながら近づくも落とし穴や木の上に伏兵がいるということもなく。
たぶんこのゴブリンさんは呑気な方なのでしょう。
荷物を置き仕込み杖を1本持って忍び寄れば、寝息を立ててぐっすり夢心地のご様子。起こすのも申し訳ないのでこのまま殺します。
杖術は突き主体の護身術に近いものですが、今持っている仕込み杖はしなりを活かし剣術の要領で使う武器。正眼から大上段に構え、狙うは頭蓋で最も脆い鼻骨の辺り。反撃を想定しない全身全霊の一撃を敵へ叩き込む。
「ヴァェ」ゴブリンは口から小さい声を漏らす。
地面で固定され逃げ場を失った力はゴブリンさんの頭蓋と脳を完全に破壊したようで、鼻や耳からピンク色のタンパク質を垂れ流し痙攣すらさせず即死させました。
さて、ゴブリンさんはともかく。
今日の本題、仕込み杖ですが。
なんと1度の使用で竹がへし折れてしまいました。
「おかしいなぁ」首を傾げてしまう。
竹は若くしなるものを選んで作っているので、こんなに簡単に折れるとは思いませんでした。どうしてだろうと折れた部分を触って確認すると、なるほど、理由がわかります。ゴブリンさんの頬骨の一部が刺さっていたのです。
この頬骨が力点となり衝撃が1点に集中した結果折れてしまったのでしょう。鋼鉄製の刀とは異なりあくまで素材は竹、より硬い物質が鋭角にぶつかってくれば砕けてしまうのが道理。
修理して使えなくもないですが、いつ壊れるか分からない武器では不安だなぁ。
せっかく作ったけど仕込み杖じゃ厳しいかも。
であれば、次はあれを試しましょう。
実は試してみたいものはいくつかあるんです。
リュックからお家の蔵で見つけた武器を取り出す。
湾曲した刃と持ち手は金属で出来ており、持ち手からは鎖が伸び先端には錘が括られている。四季家65代当主が愛用していた鎖鎌です。
お家の蔵には代々の当主が愛用した武具が置かれているはずでしたが、どうやら父上が借金返済の足しに売ってしまったようで残されていたのはわずか数点。たぶん売れなかったものが残されたのでしょう、例えばこの鎖鎌とか。
鎖鎌とは鎖の先の錘を敵に投げつけ距離を取りながら戦い、近づかれたら鎌で対応する武器です。
鎖鎌術は久しぶりで習熟もかねて右手に鎌を左手に鎖を持つ。
先端の錘を軸に鎖を回していくとその回転速度はぐんぐんと増していき、人間の動体視力では捉えられない速度へ達する。そのまま錘を木の枝へ投げつけると、私の腕と同じくらいの太さの枝が弾けるように折れる。
「久しぶりだったけど問題なく使えてよかったぁ」思わずほっとしてしまう。
次は生きてる相手で試そうと探すと獲物が向こうからやってきます。
3匹のゴブリンさんたちがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべこちらへ向かってくる。たぶん、私が1人だから与し易いと見ていますね。
左手の鎖を今度は生物を殺めるべく殺気を込め回し始める。一瞬ゴブリンさんたちの足が止まりますが、仲間内で目配せをしてまた余裕そうに近づいてくる。
数は力ですからゴブリンさんたちが余裕そうなのも分からなくはないのですが。しかし、それにしても不用意に近づき過ぎでは?
敵ながら命が掛かっているのにモンスターとはそういうものでしょうか。
少し広がりつつ速度を緩めずに近づいてくるゴブリンさん。
そして私の間合いに足を踏み入れる。
しゅっと、風切り音を立て手から鎖が放たれると、中央のゴブリンさんの喉を捉える。手ごたえから舌骨を砕いたかな
中央のゴブリンさんはこん棒を取り落とし「ォォァ」声にならない声と血の泡を口から吐き出す。左右のゴブリンさんが『何が起きた!?』と中央を見つめ隙だらけなので、左のゴブリンさんの首へ鎖を投擲し巻き付けると、そのまま思いっきり引っ張る!
左のゴブリンさんとのちょっとした綱引きは私の勝ちなようで「ウギィ!」と一声残して頸椎を砕かれ首が曲がってはいけない方向へだらりとしな垂れる。
まずは1匹。
鎖をクイッと動かし手元に引き戻すと、右のゴブリンさんが突貫してくる。ただやけになっての特攻なのか、鎖の回転速度が一定の速度に達する前に攻撃しようという明確な意図があるのか。後者なら侮れないのでキチンと対処を。
戻って来た鎖を大きく一回転させ、敵の足へと投げつける。牽制のこの一発、回避されたら刀を抜いて全力で対処をと構えていましたが。
「ベゲ!」右足に絡まった鎖に驚き引きはがそうとする。
こちらから目を離した隙に全力で距離を詰めると、ゴブリンさんが迎撃の姿勢を見せる。こん棒を振り上げ私が近づいたら殴り掛かろうという腹かな。でも、鎖が絡まってるの忘れてない?
走りつつ鎖をぐいっと引っ張ると鎖に無警戒だったゴブリンさんが綺麗に転んでくれる。仰向けに転んだゴブリンさんのこん棒を持つ手を踏みつけ、右手の鎌で喉を切り裂く。バタバタと騒ぎ始めるので左右の腕の腱を切って動けなくし、肋骨の隙間を通すように鎌を入れ内臓を傷つける。
さっさと魔石だけ狙えよと思われるかもしれませんが、魔石は斬ったり砕いたりすると換金レートがグッと安くなってしまいます。いざという時は積極的に狙いますが、できるだけ傷つけずに回収したいのです。
足元のゴブリンさんが嫌な音を立てどっと血を吐くき絶命する。
問題なく3匹対処できてよかったぁ、でもやっぱり刀よりは時間がかかちゃうかな。中距離へ攻撃が可能なのは良いけど2匹目以降は警戒されるし、暗器に近い奇襲用の副装って感じで使ってみよ……ん?
ふと、右手に温かさを感じ視線を送る。
「そっか返り血か」右手には紫色の血液が付着していた。
刀と違い間合いが短い鎌では返り血は避けようがない。魚や家畜以外で初めて肌に付着した血液だからなのか、無性に心がざわめき血が付いた部分が火照る。
嫌な感じはしないけれど釈然としない違和感に思い悩んでいると『ザ、ザ』と足音が前方から聞こえてくる。
見れば初撃で喉を潰した1匹が喉を押さえつつも目に怒気を孕みこちらに向かってきます。
あれで死なないんですね。喉が潰れて普通なら窒息死するはずなんだけどな。覚えておこ。
『殺したはず』という勝手な思い込みは危険。家に帰るまでが散歩なのと一緒、死んだことを確認するまでが戦いです。
追い詰めた鼠とは怖いもの、この一撃で確実に殺します。
これまでと違い鎌の側の鎖を回していく。鎌を投擲すると刃こぼれに繋がるから避けていましたが、確実に殺すならばこっちです。
【四季流鎖鎌術 冬の勢 乾風】
鋭い薄氷の刃が鎌から飛来し瞬く間も無くゴブリンさんの首を撥ね落とす。
そうこれが四季家の乾風……え?
「え? あれ?」心の声が口から漏れる。「なんで? 何が起きて氷の刃?」
頭の中が????でいっぱいに。
氷の刃って何? どこから出たの? そんなファンタジーじゃあるまいし。
周囲に誰かいてその人が魔法でも使ったのかときょろきょろ窺うも誰もおらず。ふと右手を見ると淡く紫色に発光していた。
なんだろう、と左手で光ってる部分を触るとモンスターの血液でした。それはとても暖かくて柔らかく光っており、理由は分からないけれど良い現象なのだと分かる。
そのうち光が弱まり消えると共に、血も消えてしまう。
「モンスターの血が、何かしたのかな」
分からない事ばかりのダンジョンだけど、今回より分からないことはなくって。
けれど、よく当たると自信がある私の勘が『モンスターの血が下手人!』だと叫ぶ。
「また調べること増えちゃった」ダンジョンとは不思議なものだと今更ながら再確認する。
借金返済とはこうもままならないものかと1人愚痴りつつ、魔石を拾って帰りました。