表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

3話

 ホテルで夕餉の後に食べようと買っておいたお団子を食べ終えます。

 講習会が終わってから1時間半ほどが経過し、中ホールには私しか残っておりません。

 もしかして忘れられてはいませんか? とちょっとだけソワソワしていると係員の方に呼ばれます。


 指示された通りに検査着に着替え身体検査へ。

 検査着がとても薄い造りになっており、男性のお医者さんだと嫌だなと心配していましたが女性の方で一安心です。


「身長171㎝、体重53㎏、遺伝子検査クリア、血液検査クリア、薬物検査クリア、心理テストクリア、オールクリアですので検査内容に問題ありません」

「……」

「四季さん?」


 呼びかけられはっとし「問題なくてよかったです。お世話様でした」としどろもどろに答えます。


「? 体調が優れませんか?」

「いいえ。問題ありません」

「分かりました。では、スフィア注入に移ります。専門医の佐藤がこの後来ますのでしばらくお待ちください」


 垂れ目の女医さんが診察室から出て行きます。

 それにしても……それにしてもですよ!

 体重測定があるなら先に言って頂けませんかね!!!


 あぁ、もう! 体重測定があるなら直前にどら焼きに草団子なんて食べなかったのに!

 分かりますとも。私が事前に調べておかなかったせいです、八つ当たりなのは分かっています。しかし、私だって年頃なのです!

 事前に知っていれば3㎏は減らせたのに、はぁ。


 検査用の大きな椅子に体を預けしばし呆然と専門医さんを待っていると。


「は~いこんにちは。本日担当します新垣といいま~す」


 検査室の扉が開くと同時に、陽気な雰囲気の白衣を着た女性がアタッシュケースを持って入ってきました。

 呆然としつつも聞くことは聞いていたので疑問を口にします。


「佐藤さんがご担当して下さると案内を受けたのですが?」

「そうなのぉ、佐藤先生のはずだったんだけどね。別の人に時間取られてあたしが代行になったのよ」

「そうでしたか。新垣さん、よろしくお願いいたします」

「かしこまらなくていいのに。あたしも可愛いお嬢さんの担当が出来て嬉しいんだから」


 年齢不詳という単語? 熟語? がありますが、新垣さんにピッタリの言葉です。

 やや化粧は濃いめですが都会の方ですし。ノンフレームの眼鏡に一重が涼しく、体型もほっそりしていてスマートな方。


 新垣さんがアタッシュケースを開けながら説明を開始します。


「スフィアについてはご存じよね?」

「実は全く存じ上げなくて」

「あら? 探索者希望なのに珍しいわね」

「お恥ずかしい限りです」


 新垣さんは注射器やチューブなどの器具と蒼く発行する液体が入った瓶を検査台に乗せ、準備を勧めつつ口も動かします。


「恥ずかしい事ないわよ。お姉さんが全部教えてあげる。スフィアって言うのはこの蒼い液体のこと」瓶を持ち上げ私に見えるように持ち上げる。「スフィアとは人工精製魔導液の略称で、簡単に言えば人間をモンスターにするお薬ね」

「人間をモンスターに?」


 忌避反応が顔に出ていたのでしょう。

 新垣さんが慌てて説明を追加します。


「モンスターにするって言っても姿形は変わらないわよ? 四季ちゃんみたいに可愛い子を醜い化物にするなんてもったいないじゃない」

「ではどういう意味なのです?」

「モンスターと人間の決定的な違いって何だと思う?」


 尋ねたのは私なのですけどと思わなくも無いですが、先ほどの講習会を思いだし暫し思案。たしか講師さんは最大の違いについて語っていましたよね。


「魔力、ですか?」

「大当たりぃ! モンスターにあって人間に無いもの、それは魔力!! ダンジョンへの入り口が世界に出現し始めて48年。人間は魔石という鉱石を求めて貪欲に研究を進めてきたわ。その結果がこのスフィア。スフィアを体内に注入し肉体に同化させることで、人間も肉体で魔力を精製できるようになるの! 凄いでしょ!?」

「はぁ」


 物凄い早口でご説明頂けるほどにはスフィアに対して熱い思いをもっておられるご様子。

 専門的なことは分かりませんが、講習会会場で他の方々が興奮されていた理由に得心がいきました。

 どのように使うのかはともかく魔力という力が得られることに喜びを感じておられたのですね。


 会場にいた方のほとんどが探索者登録に進まれましたし、企業連合体と防衛省からなるダンジョン管理委員会で実施されている行為ですから安全性は問題無いはず。

 とはいえ、ちょっとだけ怖いので聞いておきます。


「副作用などのデメリットはあるのですか?」

「デメリットねぇ? う~ん、敢えて言うなら国の管理化に置かれることかしら。この契約書を読んでみて」


 新垣さんから1枚の紙を渡されます。

 紙にはスフィア注入を受けた時点で防衛省付き自衛隊予備兵となり、戦時招集や緊急事態招集があった場合は国家命令により紛争地域への派遣を了承すること。

ダンジョン以外での魔力の行使の一切を禁じ、破った場合には厳罰に処す旨が書かれていました。


新垣さんが紙の内容について補足を始めます。


「探索者は今や国家の重要な戦力なの、前大戦以降大きな戦争は無いけど備えは重要よね。それと魔力を得るとステータス、スキル、アビリティといった超常の力を得るわ。もし街中でそれらが使われたら、大規模テロに匹敵する人的物的損害を被る危険性がある。これらの管理のためにも自衛隊所属となり、いざとなれば国家のために戦う。お分かりかしら?」


 ウィンクを交えて新垣さんが了承を求めてきます。

 少し考えれば分かることでしたが、確かに一個人が力を有するのを国家が管理するのは当然ですかね。刀狩りに始まり統治をする上で武器を取り上げ管理するのは上策。

 しかし国家間の力比べには武力が求められ、人数は多い方がいいと。

 それらを勘案した上で今の体勢なのでしょうか。


 新垣さんが「よければ契約書にサインしてね」とペンを渡してきます。


 私の答えは。

 もちろん。

 『はい』です。


 サインをしつつ想いを馳せます。

 四季のお家の使命は『護国の剣』であること。

 今や一個人の古いお家でしかありませんが、先祖が求めた願いは未だに私の中にあります。であれば、いざとなればお国のために戦うこともまた運命なのだと心が叫ぶのです。


 契約書にサインし新垣さんへお返しします。


「躊躇なくサインする姿素敵だったわよ。それじゃチクチクタイム始めましょうか」

「お手柔らかに願います」

「ふふふ、あたしは入れるのも入れられるのも得意なの」


 猥談を交えた言葉はスルーで。

 年齢不詳とは言いましたが評価を変える必要がありそうですね。たぶん、結構なお年なのだと思います。


 採血用の大きく太目な注射器で瓶から蒼い液体を吸い出しまずは右肩に注入。次に右前腕部、右手の平と注入を進めていきます。

 注入された箇所は冷たいのに熱い、氷の熱せられた針が体内に入ってくると言えば近い表現かと。


 最終的に17か所に及ぶ注入を終えたのは、施術開始から40分ほど経過した頃でした。

 比較的痛みに耐性のある私でも疲労感を覚える程度には体に負荷がかかっているのが分かります。


 しかし新垣さんからはお褒めの言葉が。


「この方法で一度も休憩や泣き言を言わずに堪えた子は久しぶりで興奮しちゃった。我慢強いのね」

「休憩って貰えたんですね」先に言ってくれと不満顔。

「敢えて言わないで我慢する顔が好きなのよぉ」新垣さんはうっとりしつつ指を立てる。「それはさておき、早速だけどステータスを確認しましょ」


 新垣さんはアタッシュケースから石板を取り出し「ここに手を当ててみて」とこちらに差し出してきます。


 おもむろに手を当てると石板が光り空中に表のようなものが浮かび上がります。


--------------------------------------------------------------

レベル1

体力 F

魔力 N

筋力 F

器用 E

耐久 G

敏捷 F

幸運 F


【魔法】

なし

【スキル】

なし

【アビリティ】

家伝具想(キンドレッドアーム)

--------------------------------------------------------------


「これは?」不思議な光景に疑問を自然と発する。

「これがステータスよ。って……んんん?」

「どうかしましたか?」

「魔力のところ見てみてぇ」


 魔力、魔力っと探して見てみると『魔力N』と表示されています。


「ステータスはS~Gで現状が表示されてて、探索者の行動や経験次第で伸びていくわ。レベルが上がるとまたリセットされるから覚えておいて」

「私のステータスだと耐久がGなのに対して器用がEですね」

「スフィアを得てすぐでEがあるのは凄いのだけれど問題は魔力のNよ」


 やや興奮気味に新垣さんが説明をまくし立てます。


「Nは理論的には存在するステータスだったのだけれど今まで確認されて無かった。端的に言えばね、0を意味するの」

「0?」

「そう! つまり貴女は魔力が存在しないってこと。レベルを上げようが、どんな経験を積もうが魔力を得ることは出来ないわけ。まさか本当に実在するとはね!!」


 謎に嬉しそうな方は置いておいて、はてさてと考えます。

 魔力が存在しないとのことでしたが、まぁ私は四季流の剣術が使えますので別に問題ないのではないかというのが最初の印象でした。

 しかし、ダンジョンとは魔力に支配された世界だと説明を受けました。

 そこへ赴こうと言うのに魔力が無いって大変なことなのでは??


 一抹の不安を解消すべく口を開く。


「もしかして魔力が無いって探索者としては厳しいのではないですか?」

「あははははは当ったり前じゃない」手を叩いて笑い出す。「厳しいどころか探索者は無理よ。悪いことは言わないから諦めなさいな」


 悪気はないのでしょうが余りに無責任に諦めろと言われ声を荒げてしまう。


「諦められません!」

「うん?」キョトンと見つめてくる。

やってしまったと息を吐き「声を荒げてすみません。ただ、私にはやらなければならないことがあるので、はいそうですかと探索者を諦めることは出来ないんです」と続ける。

「ふ~ん。まぁ人それぞれよね。別に好きにすればいいけど、諦めろと進めた理由を見せてあげる」


 新垣さんが右腕の白衣の袖をめくりあげ、ほどよく日に焼けた腕を露わにする。そして先ほど使用した注射器を持ち上げると、おもむろに勢いよく右腕に突き立てる。


「何をして——」驚いて声をかけようとするも目の前の出来事で遮られる。


 鋭く尖った注射器の先端が腕に触れた瞬間『カキンッ』とまるで鋼鉄にでもぶつかったような硬質な音を立てる。

 見れば腕には傷1つなく、むしろ注射器が砕けてしまっていた。


「魔力膜って言うの。視覚化してあげる」腕が薄っすら蒼いオーラで包まれる。「一定以上の魔力を持つとこの魔力膜が体を自然と覆うの。モンスターだと上層以降は全てこの膜で覆われていて、魔力が込められた攻撃以外通じなくなるわけ」

「つまり魔力が無いとモンスターさんへ攻撃しても意味がないと?」

「その通り! 銃火器がダンジョンで使われないのもこの魔力膜に弾かれるからなの。例外として魔石を特殊加工した対モンスター弾があるけど、量産が出来ず所持・製造を国が規制しているから自衛隊以外には配備されていないわ。他の国でも状況は一緒ね」


 今更ながらですがダンジョンで銃を使おうという発想がありませんでした。確かに銃でモンスターを倒せるなら簡単に魔石が取れますもんね。

 銃ですら通じない相手に私は刀で挑もうとしている。

 新垣さんが止める理由も分かります。


「上層以降のモンスターはと言っておられましたが、表層では魔力が込められてない攻撃も通じるのでしょうか?」

「結論から言えば『通じる』わね。でも、覚えておいてね。探索者は魔力を利用して魔法やスキルを使いこなし、肉体強化で腕力や脚力を増強させ、武器強化でなまくらを名刀に変え戦うの。それらの魔力による恩威全て無い状態で挑むのは無謀よ」 


 普段からここで新米探索者の対応をされている彼女が言うのだから相応に難しいのは承知しています。たぶん、魔法やスキルと言った単語に無知な私が思うよりも厳しいはず。

 でも、300億円もの借金を返済するのです。

 それくらいの障害を乗り越えなくては。


「ご忠告ありがとうございます。でも、やらずに諦めるつもりはありません。自分の目で確かめてみます」

 新垣さんが微笑みを浮かべ「ふふ、若い子って素敵ね。それならここの地下にある初心者向けのFランクダンジョンへ行くのがいいわ」助言をしてくれる。

「この建物にダンジョンへの入り口があるんですか?」

「むしろダンジョンへの探索者の入退出を管理するための建物なの。ダンジョンが初心者向けだったからここで探索者登録会を開いて、登録したての新米探索者の腕試しの場としてるってわけ」

「効率的ですね。早速挑んでみたいと思います」


 お辞儀で謝意を示し、いざいかんと退出しようとすると「ちょっと待って!」呼び止められます。


「もう猪じゃないんだから最後まで聞きなさいよぉ。ダンジョンへ挑むには事前予約が必要なの」

「今すぐ挑めないんですか?」じれったそうに頬を膨らませる。

「国に管理されてるって言ったでしょ。それに四季ちゃん武器持ってるの?」


 言われてみれば武器の携行は探索者登録後から可能とのことだったので持参しておらず。四季流には無刀の術理もありますが、得物も無く挑むのは確かに無謀ですよね。

 心が急いているのを感じ反省します。


「ダンジョンは逃げないし、借金返済だってまだ猶予はあるんだから」

「あれ? 私借金についてお話しましたっけ?」

「それだけ焦る理由なんて借金くらいじゃない」他にも同じような人を何人も見て来たわと笑います。「予約自体は今日やっておくとして、実際に行くのは数日開けてからね」


 子供を諭すような言い分ですがぐうの音もでません。

 しょぼくれている暇はありませんが、ここは頭を冷やすためにも一度ホテルに戻って自分なりに今日の反省会と今後へ向けた作戦会議が必要かも。


 ホテルに向かう前に和菓子屋さんでお饅頭を買って帰ろうと決心していると。

 いつの間にやら後片付けを済ませた新垣さんが、アタッシュケースを手に声をかけてきます。


「長居し過ぎたから私はこれで帰るねぇ」言うが早いか彼女の目の前に丸い入り口が出現する。「最後になるけどステータスは頭で思い浮かべれば確認できるから。あと、他人にはステータスを公表しない方が良いわよ」

「ありがとう……ございます。あの、その入り口のようなものは?」

「これは転移術」あっけらかんと言ってのける。

「ダンジョン以外で魔力の使用は厳罰の対象と聞きましたが」

「私はと・く・べ・つ・なの。それじゃあ頑張ってねぇ」


 手を振りながら入室した時と同じように陽気な雰囲気で入り口へ入ると、転移術とやらはすぐに消えてしまいました。


 何と言うか、ものすごくファンタジーな光景に脳の処理が追いつきません。お医者さんには変わった人が多いと聞きますが、新垣さんも例に漏れないのかもしれないですね。

 たぶん私が本日最後の登録者だから直帰というやつで帰られたのでしょう。


 急に静かになった部屋の空気に飲まれながら、ダンジョン探索の予約をすべく検査室を後にしました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ