第8夜
今回は、最近は気持ちが通じ合って来た2人。
香澄の初めての事や、大変な事が起こります。
「カズ、カズ君おはよ〜」
耳元で起こす声が聞こえる。
「今日は休みやから…寝る…」
俺は目を開けずに言う。
声の主は解っている。
元気になってホンマに良かった。
「…」
何だか静かになった。
「…べんじょー!」
俺は叫びながら布団から飛び出す。
「キャ!」
香澄は驚いて俺の方を見る。
何故か、その手には…ピンクのカバ!
香澄の手にはピンクのカバの被り物。
「にぎゃーー!!」
香澄が叫ぶ。
「うにょー!!」
俺は叫びながら又、布団に潜り込む。
「見た?」
香澄が問いかけてくる。
「…」
俺は答えない。
「今、絶対にみたやんなぁ」
「…ゴメンナサイ」
「…」
「もーっ ゴメンて!でも、そんな所で着替えてる香澄も悪いって。」
「だって、ビックリさせよ と思って起こしたのに起きひんし…だから暑いから着ぐるみの上だけ脱いでたんよ。」
「それで…起きたら香澄さんは着ぐるみを半分脱いでて、起きた俺が その姿を見てしまったと言う訳ですね…」
「…」
「それって俺が悪いん?いつもポンと着替えてたやん、何で今日に限って半端な格好なん?」
「だって…昨日の晩に…だから」
香澄なりに昨夜の出来事を気にしてるみたいだ。
「昨日の事は気にしてへんで、香澄が元気になってくれたら俺は全然かまうわへんから。」
「…かず…ありがとう…」
良かった、少し心配だったけど…
「それじゃぁ〜」
香澄がニコッと笑う。
「んっ、どうしたん?」
「昨日の事は終わって…ウチの裸を見た件は、どうしよっか?」
香澄の顔が近づいてくる。
「え〜と…スンマセン」
俺は急いで土下座する。
「冗談やって、ウチも悪かったし」
香澄は、そう言いながら空中でクルクルと回っている。
「…良かった…でも、ホンマにゴメンな。」
「もう、良いよ。」
「痛つっ…」
急に緊張が解けてホッとしたからか少し頭痛がした。
「大丈夫?」
香澄が心配そうに見ている。
「大丈夫大丈夫。」
すると香澄は少し離れる。
「それなら良いねんけど…それじゃ、ちなみにウチの裸どうやった?」少し顔を赤くして香澄が聞いてきた。
「へっ?」
一瞬、俺は意味が解らず間抜けな返事をする。
「だから、ウチの裸を見て どうやったかきいてんの!」
「…正直に言って良い?」
「…うん」
「綺麗やったで。」
言って、俺は香澄の顔を見る。
2人の目が合うと、お互いに顔を赤くして俯いた。
しばしの沈黙。
「あのさ…」
沈黙に耐えかねて俺が先に口を開く。
「んっ…どうしたん?」
「俺はさ…今のままでもメッチャ幸せやで、香澄が傍に居るだけで…」
今年の春は何処に行こうか〜♪
今年の夏は何処に行こうか〜♪
いきなり携帯が鳴る。
着信を見ると近くに住んでる友達からだ。
「ゴメンな…」
「ん〜ん、良いよ出て」
俺は携帯に出る。
「はいはい」「うぃ〜す!」
スケの携帯からだがユウの声だ。
「ほいほい、どうされました?」
「カズ〜、何処に居てるん?」
「あの…部屋でテレビを見てますが…」
俺は香澄の顔を見る。
「ほんじゃ、今から行くわ。」
「…はっ?はい〜?今からっすか?」
俺は又、香澄の顔を見る。
「それじゃ、30分後にね。」
「マジで?」
「どうせ、暇やろ」
「そんなストレートに言われると…」
「それじゃ後でね、バイバ〜イ」
「は〜いす」
俺は電話を切ると香澄を見る。
「どうしたん?」
香澄は俺の横に来る。
「んっ…」
俺は、少し頭を抑える。
「大丈夫?」
「んっ…うん、大丈夫。」
俺は、何故か最近たまに頭が痛くなる事がある。
「え〜と、6時位に連れが来るみたい。」
俺は、香澄に心配を掛けない様に笑顔で言う。
「へ〜、そうなんや」
「連れが来るけど、良い?」
「んっ、何で?」
「えっ、一応…香澄が嫌なら断るから。」
「ウチは、良いよ。」
香澄は、俺の隣で微笑む。
昼に起きた俺は、とりあえず朝昼の兼用で御飯を食べ4時位迄、テレビを見ながらマッタリと過ごす。
4時過ぎになって俺は、今晩の為の買い物に出掛けた。
6時少し前に携帯が鳴る。
「ほいほい」
「もう着くけど、何か要る?」
俺は、冷蔵庫を見る。
「焼酎を割るジュースが無い。」
「ジュースだけで良いの?」
「まぁ、そうだね」
「それじゃ、ジュース買って行くわ」
「ほ〜い、よろしく」
暫くして。
ピンポーン
俺はオートロックの解錠ボタンを押す。
少しすると。
カチャ、バタン、ガサガサ…
「お疲れ〜」
スケとユウが部屋に入ってくる。
「お疲れ〜」
俺はソファーに寝転んだまま返事する。
香澄は俺の後ろのベッドに座っている。
スケ達は、ツマミも買って来たらしくテーブルの上に出す。
俺は、冷蔵庫から缶ビールを出してユウにコップと一緒に渡し別に少し大きめのコップ2つに氷を入れて持って行く。
コップをテーブルに置くと、スケが焼酎とジュースを入れる。
これで用意は整った。
「おつかれ〜」
俺達は、いつもの様に乾杯する。
いつもの様に、たわいも無い話をする。
暫くの間、楽しい話しに酔いしれる。
俺は、香澄の方を見ると香澄も楽しそうに笑っている。
俺は2人にバレない様に少し横にズレて香澄を手招きをする。
香澄は少し戸惑っていたが、直ぐに俺の横に来る。2人からすれば3人での呑み会だろうが、俺や香澄にすれば4人での呑み会。
香澄は隣で話を聞いてるだけだが、こういう場が初めてなのか凄く楽しそうに見える。『ホンマは香澄が幽霊じゃ無かったなら、もっと楽しいねんやろなぁ』俺は、そう思わずには居れなかった。
「くっ…」
又、頭が痛み出す。
「どうしたん?頭が痛いのかい?」
スケが心配して聞いてくる。
「最近、たまに有んねん…」
「呑みすぎちゃうの?もしかして、もう二日酔い?」
ユウが冗談混じりに聞いてくる。
「なんでやねん!まだ、そんなに呑んでへんて。」
香澄も心配そうに俺を見ている。
俺は、立ち上がり御菓子を置いてる所に行く。
「ポテチは、うすしお、コンソメ、だし醤油、どれ行く?」
「ん〜っ、うすしお!」
ユウの一声で決定。
ポテチを開けて、今度は、皆でテレビを見る。
夜の1時を過ぎた頃に、見るテレビも無くなった。
「そろそろ帰る〜」
ユウが帰る宣言をする。
「んじゃ、そろそろ帰りますか?」
スケも次いで帰り支度を始める。
「忘れ物無いなぁ〜」
俺は帰る前に確認をする。
「有ったら又、取りに来るさ。」
スケは親指を立てて胸を張る。
「そだね…」
俺は、玄関まで2人を見送る。
「おつ!」
「おつ!」
おつ!とは、おつかれ!の意味で昔から俺達の中で使ってる略語である。
「おつかれ〜、ごちそうさま。」
「あんたも、頭痛が酷いなら病院に行きや。」
スケが心配して言う。
「偏頭痛やろう?まぁ、とりあえず明日にでも病院行っみるさ」
スケ達が帰った後は部屋の かたずけをして風呂から出ると2時前になっていた。
風呂上がりのマッタリタイム。
「今日はゴメンなぁ」
まだ余韻が有るのか、機嫌の良さそうな香澄に言う。
香澄はニコニコしながら俺の横に来る。
「全然、構わへんよ。」
「香澄は、呑み会とかは した事は無いん?」
「うん!お酒も呑んだ事が無いんよ。」
香澄は、嬉しそうに言う。
「そうなんや。」
「だから、さっきみたいなんは初めてなんよ。」
「それは、良かったわ。」
『ホンマは、一緒に騒げたら良かってんけどな…そしたら、もっと楽しいのに。』
「その方が俺も嬉しいねんけどな…」
思わずポツリと口から漏れる。
「んっ何?」
香澄の呼び掛けに俺は、ドキッとする。
「えっ、別に…何か酔ったかなぁ〜って。」
「ふふっ、よく呑んでたもんね。」
香澄が微笑む。
「さて、そろそろ寝るわ。」
俺は電気を消して布団に入る。
「おやすみ」
香澄は、そのままソファーに座りながら俺の方を見る。
「おやすみ〜」
翌朝、俺は激しい頭痛で目を覚ます。
枕元では、香澄が心配しながら見ている。
「カズ、カズ、大丈夫?」
「う…うん、たいした事無いって…くっ…」
「ホンマに?ホンマに大丈夫なん?ムリしてへん?」
「大丈夫やって…」
俺は、ムリヤリに笑ってみせる。
香澄は泣きそうな顔で見ている。
少しすると、痛みが少しづつマシになってくる。
俺は、とりあえず会社に電話を入れる。
「おはようっす、今日ちょっと病院に行ってから行くから。」
俺は、会社に遅れる事を連絡する。「香澄ゴメンな、心配掛けて…。」
「そんなんは、気にせんといて!ホンマに大丈夫なん?」
香澄は、まだ心配そうに見ている。
「まぁね、だいぶマシやけど病院に行くから…心配せんで良いよ。」
俺は、そう言うと病院に行く用意をする。
「んじゃ、とりあえず病院に行くから。」
「うん、大丈夫?ムリせんといてや。」
「大丈夫!」
俺達は近所の少し大きな総合病院に行く。
「初診なんですけど。」
受付で保険証を渡す。
「それでは、こちらの用紙に記入の方をお願いします。」
病院は少し混んでいたが、俺は空いてる席に座って用紙に記入する。
「大丈夫?頭は痛く無い?」
香澄が記入してる正面に来て顔を覗きこむ。
「大丈夫やって!心配しな。」
俺は、ニコリと笑ってみせる。
その時、激しい頭痛が襲った。
「ぐっ!はぁはぁ…」
俺は、心配掛けまいと頭に力を入れる。
「カズ!カズ!」
香澄が、大きな声で叫んでいる。
「大丈…夫やっ…て…」
俺は、そのまま椅子から崩れ落ちる。
意識が途切れて行く中、香澄が泣きながら叫んでいる姿が目に入る。
『そんなに泣かんでも俺は大丈夫やって…』
俺は、そのまま意識を無くした…。