第5夜
この前の花火大会の日、俺は確実に香澄の事が好きだと気付いた。
それに香澄も俺の事は悪く思っていないだろうし…
たぶん…
とりあえず、俺は香澄の事が好きだと言う事実に変わりは無い。
しかし、忘れがちだが相手は幽霊である。
…そう、幽霊…
どげんしよ!
俺、ダメじゃん!
もしかして?俺、危ない方に向かってる?
「カ〜ズ」
「ぬぉっ!!」
いきなりの香澄の言葉に現実に引き戻される。
「えっ…何?」
俺は気の抜けた返事をする。
「んっ、カズが又おもしろい事になってたから。」
「ほえ…」気の抜けた声が出る。
香澄は、俺の事をどう思ってるんだろう?
俺の気持ちに気付いてるのか、気付いて無いのか。
香澄の行動では全然解らない。
『そうや、確認したろ!』
そう思うが直接には聞けない。
『そうや、デートしてみよう。』
そう考えると行動あるのみ。
「なぁ、少し出掛けへん?」
香澄に聞いてみる。
「ホンマに〜、何処に連れてってくれるん?」
彼女は目を輝かせながら俺の方を見る。
余り人の多い場所は避けたい。
何故なら、30も過ぎた男が1人で話しながら歩いてる姿を想像すれば解るが…怖い!
「…とりあえず、外に行こか」
俺達は、とりあえず外出する事にした。
とりあえず…デートの定番…
「水族館行こか?」俺は香澄に提案してみる。
「イルカ〜!」
香澄は手を上げて返事する。
水族館なら暗いし見るだけやから香澄も楽しめる筈や。
行き先を決めたので駐車場に向かう。
これでも車位は持っている。
車に乗り込むと香澄はドアも開けずに助手席にすわる。
『幽霊って…車に乗れるんや…』
そう思いながら座席をみてみると驚いた事に座ってる様に見えたが座席から少し浮いていた。
このまま発進したら香澄だけ、すり抜けるかも知れない。
車を恐る恐る進めてみる。
すり抜けて…ない『行ける!』
無事に出発が出来て水族館に向かう。
水族館迄は車で30分位である。
それまでの間、俺の好きな曲ばかりセレクトした音楽を聞きながら2人で世間話をした。
車に乗ってて気付いたのだが、香澄は乗ると言うより助手席に居る。 といった感じだった。
車の出だしやキツメのブレーキをしてもピクリとも動かなかったからだ。
水族館に着き入場券を買って入る。
代金が1人分で良いので少し得した気分だ。
中に入って香澄と顔を見合せてクスッと笑う。
休みだからか、暑さを避ける為か、以外と人が居る。
「さて、何から見る?」
香澄に聞いてみる。
…姿が無い。
「カズー!凄いよ。魚メッチャ居てるで〜!」
明らかにテンションの上がった声で大きな水槽の前で俺を呼ぶ。
思わず返事を返しそうになる。
溜め息を吐いて香澄の傍まで行く。
香澄と俺が離れる事の出来る距離は6m位なので直ぐに見付ける事は出来る。
「ホンマやなぁ、メッチャ居てるやん。」
香澄は小さな子供みたいにキャッキャッはしゃいでいる。
俺まで自然と笑顔になる。
今日は水族館に来てホンマに良かった。
香澄の楽しく観て回る姿を見ていると心底そう思えた。
それからは2人で水族館を満喫した。
イルカショーでは2人でテンションを上げまくっていた。
帰りの車の中では水族館の話しで盛り上がった。
「ペンギンの散歩可愛かったなぁ。」
「可愛いかったけど、カズがペンギンの後を付いて行くからイルカショーの時間ギリギリやったんよ」
マンションに着いてからも水族館の話しが続いていた。
今日の俺の目的は香澄の俺への気持ちを探る事だったが俺は、どうでも良くなっていた。
俺と香澄、2人で楽しく過ごせるなら俺は十分だと思ったからだ。
「今日は疲れたから俺は寝るな。」
「うん、おやすみ。今日はメッチャ楽しかったで。」
香澄の満足した顔を見ると又、何処かに出掛けたくなる。
俺は電気を消して布団に入った。
疲れていたのか、俺は直ぐに眠りに落ちた。
『今日は良い夢が見れそうだ…』
俺は1時間位で目を覚ました。
『んっ…香澄?』体を起こして部屋を見渡すが香澄の姿が無い。
「バルコニーかな?」
香澄は夜空を見るのが好きらしく、よくバルコニーに居てる事が多い。
「やっぱり居てた。」
何だか香澄の顔が悲しそうに見えた。
俺はバルコニーに出て香澄に声を掛ける。
「どうしたん、暗い顔して?」
「カズ…起きたん?」
香澄は空を見上げたまま俺の方を向かない。
「綺麗な星空やなぁ」
「うん」
俺も香澄の隣で空を眺める。
2人で暫く静かに星空を見ている
すると、
「あのさ…カズは今日どうやった?楽しかった?」
「そら、当たり前やん、メッチャ楽しかったで。」
俺は素直に答える。
「ホンマに楽しかった?ウチと一緒でもホンマに楽しかった?」
香澄は、今にも泣きそうな顔で俺の顔を見ながら詰めよって来る。
『もしかして、俺の事を気にしてたんかな…』
そう思うと堪らない位に、いとおしく可愛く思えた。
「俺はホンマに楽しかったで。香澄は楽しく無かったん?」
「ウチはホンマに凄く楽しかったんよ!でも、…ウチ…幽霊やし…」
俺は香澄の言葉を遮る様に抱き締める様にする。
彼女は幽霊なので形だけなのだが何故か、この時は彼女の温もりを感じた様に思えた。
「カズ…?」
俺は香澄の顔を見る。
「俺は今日1日メッチャ幸せやったで!!」
俺は出来る限りの顔で笑ってみせた。
「アリガトな。」
「何でカズが、お礼を言うんよー!ウチが言わなアカンのに…」
香澄は目に涙を溜めながら言う。
「多分…香澄より俺の方が幸せやったから。」
この後、香澄が落ち着く迄少しの間2人で星空を眺めた。