表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲しい恋愛  作者: 火華舞
4/12

第4夜

あの日から幾日が過ぎた。

香澄は何も無かったかの様に前と同じ様に過ごしている。

俺も変わらず過ごしている。

…と言いたいが、あの日から変に彼女の事を意識している。

彼女の事を意識してはダメな事も、意識したら2人ともが傷付く事も解っていた。

解っていても、彼女に惹かれているのも確かだ。

しかし、その彼女は前の事は無かったかの様なかんじである。

只単に俺の事は何も感じ無いのか、興味が無いのか、どうとも思っていない様子である。

でも、俺は彼女とは反対に意識しない様にしているつもりだが確実に以前よりもギクシャクしている。しかし!今日この雰囲気を打ち破る最高のイベントがある。

花火大会だーっ!

思わず片手が天を突く。

「どうしたん?1人で何をやっとるん?」

彼女の言葉に一瞬固まる。

「い、いえ何でも無いよ。あはは…」

「変な人やねぇ」

今は何と言われても構わん!この雰囲気を打ち破る為なら俺は修羅になる!…」

俺は握り拳で小さくガッツポーズをして天を仰いだ。

「やっぱり、今日のカズは変やわ。…でも見てるとオモロイわ」

何故か少し嬉しくなった。

大阪人の性か、又は香澄に言われての事なのかは解らない。

だが、やはり好意を持っている相手に言われるのは嬉しいものだ。まだ昼過ぎなので、花火大会迄には時間がある。

だからと言って外はマズイ…

外出をして花火大会を知られたらサプライズにならない。

「よしっ!昼寝をしよう」

俺は宣言する。

「何なん、それ!」

彼女が詰め寄ってくる。

うぉっ…今まで窓の所に居たのに…はやっ。

突然、彼女の顔が目の前に現れたのでドキッとした。

『俺の気持ち解ってんのかなぁ…』と思いながら彼女の顔に見とれていると…

「も、もう良いよ。」

彼女は頬を染めて後ろに飛び退く。

その彼女を見て俺も恥ずかしくなり、顔を反らす。

「それなら、私は…カズが寝やすい様に散歩でもしてくるよ。」

香澄は微笑みながら言う。

俺は少し胸が痛んだ。

「違うねん、そう言う意味じゃないねん!」

俺は頭の中が真っ白になる。

「そ、それに一緒に居てくれる方が安心と言うか…心が休まると言うか…」

自分自身、何を言ってるのか解らなくなる。

「俺は傍に居てくれる方が良いねん。」

香澄は俺を見つめながら顔を真っ赤にした。

俺も自分の言った言葉で恥ずかしくなり、再び顔を反らす。

「あのさ、だから外に行かずに傍にいてくれへん?」

「…うん…」

俺の言葉に短い返事が返ってきた。

香澄は俺の横にチョコンと座る。

再び、沈黙が流れる。

…気まずい…

「そうや!テレビでも見ようや。」

俺はリモコンでテレビの電源を入れた。


テレビのチャンネルを数回変えるとお笑い番組がやっていた。

俺も香澄も、お笑いは大好きで毎日見ている。

「俺、このコンビ好きやねん。」

「ウチも好きやわ〜。」

俺の言葉に香澄も同意する。

2人共お笑いの好みが似ている。

重い空気が溶けていく。

気が付くと夕方を過ぎていた。

「あのさ、近くで出店が出てんねんけど行かへん?」

俺の言葉に香澄はパーッと笑顔になる。

「行く!」

行っても香澄は見る事しかできないのだが…本人が喜んでるので良しとしよう。

「んじゃ支度して行こか?…着替えんの早いなぁ…」

俺が用意をしようとして立ち上がって振り向くと香澄は既に浴衣に着替えていた。

雰囲気作りの為か、浴衣に着替えたのか?…可愛い。

「早く、早く」

彼女に急かされて俺も慌てて用意をする。

用意と言っても財布や携帯電話を持てば用意完了である。

「さて、行きますか。」

「はーい!」

俺はサプライズに向けてドアを開けた。外は日も落ちて涼しくなり気持ちが良い。

近くに淀川が有り花火は毎年この川で打ち上げられる。

毎年この日は淀川の土手が人で埋め尽くされる。香澄の姿は他人には見えないので、俺が1人で寂しく花火大会に来てる様に見えてるんだろうな…。

何だか、内心は気持ちの良いものでは無い。

でも、隣で楽しそうに夜店を覗いてる香澄の姿を見てると何だかデート気分で他人の事は気にならなくなった。

「香澄」

俺は少し小さめの声で彼女に声を掛けた。

「んっ?どうしたん」

彼女が振り返って俺の横に来る。

「何か、欲しい物ある?」

折角、来たので欲しい物を聴いてみる。

「えっ、買ってくれるん?」

「欲しい物ある?折角、来たんやし」

彼女は少し遠くを見ながら考えていたが。

「ん〜、今は特に無いんよ…」

彼女は少し淋しそうに言った。

俺は、言った後にムチャクチャ後悔をした。

彼女は何も触れないし、口にする事も出来ない。

なのに俺は、1人で浮かれ過ぎていた。

俺はホンマにあほや!

凄く情けなかった。

「カズ?どうしたん?」

香澄が俺の顔を覗き込んでいる。

「えっ…あ…何でも、何も無いよ。あっち行ってみようや。」

俺は出来る限りの笑顔で答えると先に進む。

「うん…」

香澄は少し心配な顔をしながら後を付いてくる。

『何か、香澄が喜んでくれる物が絶対に有る筈や!』そう思いながら夜店を見て回る。

幾つか見て回っていると。

チリン…チリンチリン。

澄んだ音が聞こえて来た。

『…風鈴』

「香澄、こっち行こ。」

俺は少しテンションが上がる。

その店は夜店の列から少し離れた所に有った。

「風鈴?」

「そうっ」

彼女の質問に答えながら店に近づく。

「にいちゃん、ちょっと見さしてな。」

夜店の人に声を掛ける。

「らっしゃい、ゆっくり見ていってや。」

夜店の人は気の良い人ばかりだ。

「綺麗な音やし、可愛いのも多いなぁ」

香澄に話し掛ける。

香澄は、目を輝かせながら風鈴を見ている。

「にいちゃん、彼女に あげるんか?」

店の人の声にドキッとした。

「な、何で?」

ドキドキしながら聞いてみる。

「何でって、にいちゃんメッチャ彼女の事を考えながら選んでる顔してるで。」

一瞬、香澄の方を見る。

彼女も俺の方を見ていた。

心臓が止まりそうになる。

2人して目を反らす。

「にいちゃん、この風鈴を頂戴や。」

俺は香澄が先程まで見ていた金魚の絵の描いたピンクの風鈴を手に取った。

「まいどあり」

店の人は笑顔で言うと風鈴を受け取り小さな箱に入れた後に袋に入れて手渡してくれた。

「ありがとう。」

袋を受け取って店を後にする。

「そろそろ帰ろか?」

「うん、そやね」

お互いに少しギコチなくマンションに帰る。

少し早いが、そろそろ帰らないと花火大会に間に合わない。

「カズ、ありがとね」

香澄は買って来た風鈴を嬉しそうに眺めながらいう。

「んっ」

「凄い楽しかった。」

俺は少し照れ臭くなる。

俺は、バルコニーに出ると香澄を呼ぶ。

「香澄」

「んっ、何?」

「こっち、おいで。」

「どうしたん?」

「ちょっと、一緒に空を見ぃひん?」

「どうしたん?急に…今日のカズ、変な感じ。」

「今日は香澄と2人で見たいねん」

「またまた〜」

と言いつつも、俺の横に来て空を見る。

少しすると。

ヒュルル…ドーン!

空に火の華が灯る。

「うわ〜綺麗」

香澄の顔が一層輝いた。

「今日の空は綺麗やろ。」

香澄は俺の顔を見ると。

「うん、メッチャ綺麗。」

そのまま、2人で花火を眺めながめた。

最後の連発花火が上がって消える。

「終わってしもたね。」

彼女が口を開く。

「終わったなぁ。」俺は、部屋に入る事が出来なかった。

今、部屋に戻ると今日が終わってしまいそうだからだ。

「今日はホンマに嬉しかったんよ、何だかカズとデートしてるみたいで。」

「俺も、メッチャ楽しかったで。」

「でも、ゴメンなぁ…」

彼女が急に暗くなる。

「何で謝るん?」

俺は、彼女に問い返す。

「ウチなんかが一緒で、ウチは幽霊やから…何も食べられへんし触られへんし、折角のお祭りやのにウチが居てもカズは全然楽しまれへんやん…」

俺は、どうしたら良いのか解らなくなった。

でも、このまま香澄を放っては置けない。

俺は、堪らず彼女を抱き締める姿勢をする。

「…カズ?、何しとるん?ウチには触れられへんよ。」

「解ってるよ…でも、どうしても今は香澄の事、こうしたいねん。

俺は姿勢をやめない。

「ホンマに…カズはアホやなぁ〜」

香澄は俯いたまま

「でも、メッチャ優しいねん。」

香澄は、そう言うと俺の胸に顔をうずめる姿勢になる。

俺は彼女に触れる事は出来ないが、彼女が震えているのは分かった。

少し安心したのか彼女は声を上げて鳴き始めた。

俺は、そのまま遠くの夜景に目をやる。

夜景が、にじんで見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ