第11夜
今作で最終話となります。
最後は、香澄の目線で話が進みます。
2人の恋の結末をお楽しみ下さい。
「ん…う〜ん…」
目を開けると眩しい光が目に飛び込んでくる。
「カズ…ウチは天国に来れたみたいやで…」
涙が溢れ落ちる。
目が慣れてくると白い天井に蛍光灯が点いてるのが見える。
「…まるで病院みたいな所…!」
ウチは飛び起きた。
「えっ…あれ病院?」
ウチの腕には点滴が刺されてる。
起きたのは良いが身体が重く物凄いダルさがある。
とりあえず、ベッドに横になり天井を眺める。
「…生きてる…ウチは生きてる!」
自然と涙が溢れ出す。
「カズ…ウチ…ウチは生きてるよ…」
少しすると女の人が病室に入ってきた。
ウチは身体のダルさも有り薄目で女の人を見ていた。
『あっ、母さんだ…』
そう思いながら久しぶりに見る母さんは少し窶れている。
「香澄…今日も良い天気よ。
たまには、散歩に出てみる?」
母さんは、そう言いながら目に涙を溜めているのが見えました。
「何だか身体がダルいから今日は遠慮しとく。」
ウチは身体がダルいので断る。
「そうねぇ、余り無理をしても身体にわるいもんね…」
母さんは、そう言いながら目に溜まった涙を拭っていた。
母さんの身体が固まる。
「香澄…今晩…何が食べたい?」
「何だかダルいから軽い物で良いよ」
すると母さんは、イスから立ち上がると部屋の扉へと歩みを進める。
扉を開けると。
「荒木先生ー!香澄が、娘がー!」
母さんは、病室から飛び出して行った。
「病院内は走らないで下さい!」
「荒木先生ー!」
「お静かに!」
「これなら、もう安心ですね。」
どうもウチは3年位の間意識が無かったらしい。
「明日からでもリハビリの方を始めましょうか?意識が戻っても身体は3年のブランクが有るので直ぐには元の生活にはもどれませんからね。」
なかなか厳しい事をズバッと言う先生だ。
「ありがとうございます。」
母さんは、お辞儀をしながら先生を送りだした。
母さんはイスに座る。
「何か飲む?」
ウチは首を左右に降る。
母さんは、ウチが大学を卒業して大阪の会社に入社試験を受けに行った帰りに事故に有った事。
そして、そのまま3年位の間意識が無かった事。
時々、目に涙を溜めながらも話してくれた。
「あんな…」
ウチも、信じて貰えるとは思わんけど、幽霊になってた事を話した。
「カズって言って…メッチャ優しくて…本当に良い人で、幽霊のウチの事をホンマに大事にしてくれてん…ウチ、幽霊やってんで…ホンマに人が良いと言うか…アホやねん…。」
「えらい、良い人と巡り逢ってんなぁ。」
「うん…逢えたんがカズで…ホンマに良かった。」それから、季節が過ぎ去り春を迎えていた。
「御世話になりました。」
「余り、むりを為さらないでくださいね。」
「退院おめでとうございます。」
ウチと母さんは病院の先生や看護師さんに見送られてタクシーで病院を後にする。
「あの…母さん。」「運転手さん、京都駅に行ってもらえます。」
「京都駅ですね。」
「母さん。」
「大阪に行きたいんでしょ?病み上がりなんだから無理をしたらアカンで。」
「母さん…ありがとう」
「カズさんに宜しく伝えといてね。」
母さんは微笑む。
「うん、伝えとく。」
暫くすると車は駅に着いた。
ウチは母さんと別れて電車に乗り新大阪に向かった。
カズには凄く逢いたい。
でも、夢だったのかも知れない。
…確かめるのが怖い。
自然とホームのイスに座りこんだ。
「どうしよう…もしも…もしもホンマに夢やったら」
『違う!カズは居てる!』
ウチは、強く思って新大阪の駅を後にする。
「確かに、このマンションや」
『良かった…夢じゃ無かった。』
緊張が切れてマンションの前で座り込んだ。
「後は、カズに…」
ウチは、生き返った事でテンションが上がっていたからか、嫌な事を忘れていた。
『此処まで来たけど…カズは、ウチが生き返ったん知らんし…それに…カズは…ウチとの記憶は…無くしてる。
ウチが離れる時には、もうっ!ウチとの記憶は無かった。』
絶望感に襲われた。
ウチは、そのまま塞ぎ込んで動く事が出来なくなっていた。
幾人かの人がウチの横を通り過ぎてマンションへと入って行った。
「何、あの子。」
「男に部屋から追い出されたんちゃう。」
「マジで、可哀想〜」
『アカン…泣きそう』
じわじわ哀しみが込み上げる。
帰るにも身体が動かない。
「そんな所でジッとしてたら風邪ひくで〜」
男の人が通りすがりに声を掛けて行く。
「…」
「あのさ…」
男の人が戻ってきた。
「こんな所で女の子が1人で座ってたら危ないし、せめてマンションの中で待ってたら?」
「…」
ウチは、座り込んだまま首を左右に降る。
「そっか…」
男の人は、離れて行った。
「こんな所に座って…ウチ邪魔やなぁ」
「ほい、あげる」
男の人はウチの手に 温かいココアを持たしてくれた。
「あっ」
『あったかい…凄く温かい。』
「飲まんでも良いし、持ってるだけでもマシやろ。」
「あ…ありがとう。」
ウチは顔を上げて御礼を言う。
「…カズ…カズ〜」
ウチの前には紛れも無くウチの知ってるカズの顔があった。
思わずカズに抱きついた。
「ご、ごめんなさい。」
ウチは嬉しかった、又、カズに逢えた事が本当に嬉しかった。
そしてカズの優しさも気の良い所も変わって無い事も本当に嬉しかった。
「香澄…」
「えっ…」
ウチはドキッとする。
「あっ、ごめん…俺の方こそ…ハハハ…つい、知ってる子に似てたから…」
『もしかして、カズ…記憶が戻ってる?』
「何で俺の名前 知ってんの?」
「えっ…」
ウチは、正直に話すか悩んだ。
「信じて貰えるか解らへんけど…聞いてくれる?」
「俺で良かったら。」
カズは前と変わらん笑顔で答えた。
「でも…せめてマンションの中に入らへん?」
「うん」
カズはウチの手を引っ張り起こしてくれる。
身体が素直に動く。
「さすがに、男の1人暮らしの部屋には入りにくいやろうからね。」
そう言ってカズは自分の上着をウチに羽織らしてくれた。
「やっぱり優しいなぁ…」
「そんな事ないって。」
ウチは、3年位前に事故に遭い意識不明だった事。
その間、幽霊になっていた事。
そして、幽霊の時にカズって言う優しい人に逢った事。
その人は、幽霊の自分に凄く良くしてくれた事。
幽霊なのに、その人が大好きになった事。
「えっ…それって…」
ウチは、カズの口を指で塞ぐ。
「そして、そしてね…ウチの影響で入院したの…」
ウチはカズの病院での一部始終を話した。
「それで、ウチは天国に来たんかなぁ と思ったら病院やってん…」
カズは黙って聞いてくれてる。
「それで、8ヶ月位の間そのカズに逢いたい一心でリハビリに励んで本日退院いたしまして今に至ると言う訳。」
カズは下を向いて泣いている。
「良かった…又、香澄に逢えた…」
「カズ…」
カズは、ウチを包み込む様に抱きしめた。
「香澄…おかえり…」
ウチもカズを抱きしめる。
「…ただいま…」
幽霊の時には出来なかった。
諦めていた。
でも、今はカズに触れる事が出来る。
カズが触れてくれる。『ウチは今、凄く幸せや。』
「香澄…」
「…んっ?」
「ずっと、こうしてたい。」
「…ウチも。」
「でも、さすがに此処で抱き合ってる訳にもなぁ。」
2人で顔を見合わす。
カズは、ウチの涙を手で拭ってくれる。
「時間は、まだ有る?」
カズは自分の涙を拭いながら問いかける。
「うん、まだ大丈夫。」
「それじゃ、香澄の身体も冷えてるから部屋で話せへん?」
「うん。」
「いっぱい話したい事が有んねん。」
「ウチも、まだメッチャ有るんよ。」
カズの部屋に着く。
何だか凄く懐かしい感じがする。
「どうぞ。」
「お邪魔します。」部屋に入るとウチの記憶のままの部屋だった。
変わっているのはテーブルにコタツ布団が掛かっている事だけ。
「コタツ…出したんだ。」
「そりゃ冬はコタツでしょ。」
「それ以外は変わらないね。」
「そんな事 無いで。」
「えっ?」
「少し、綺麗になった。」
「もう、ウチが居た時より汚ないんちゃう。」
「マジで!」
「あはは」
その後は、時間が許す限り話をした。
2人で居た時の思い出話。
その時の気持ち。
カズが記憶を無くしてた時の話。
ウチが、生き返ってからの事。
ウチが消えてからのカズの事。
時間は驚く程に早く過ぎて行った。
「そろそろ送るわ。」
「良いって。」
「帰りに何か有ったら嫌やし、香澄の事が大事やから。」
自然と顔が紅くなった。
「ありがとう。」
そして、ウチらは駅へと向かった。
駅へ着く迄の間に次の日曜に逢う約束を決めた。
駅の改札で別れを惜しんでいると。
「香澄、ちょっと待ってな。」
カズは、そう言いながら携帯を取り出す。
番号やアドレスは、さっき交換したばかり。
「香澄、笑って!」
カズは携帯のカメラを構える。
ウチは、笑顔でポーズをとった。
カシャッ。
「気を付けて帰ってな。」
カズは、ニコッと笑いながら言う。
「ズルイ!ウチも!」
「俺、撮られんの嫌やねん。」
「なんで〜。」
「寿命が縮むやん。」
「なんでやねん!」
カズは、ウチを抱きしめる。
「また日曜な。」
「ズルイなぁ。」
ウチは、カズに手を振ってホームに向かった。
帰宅したウチを待ってたのは心配した父さんと母さんの顔だった。
父さんが、寝た後に今日の出来事を母さんに話した。
母さんは、ただ黙って最後まで聞くと。
「良かったね。」
そう言いながらウチを抱きしめてくれた。
それからは日曜日迄の間、毎日カズと電話やメールのやり取りをした。
日曜日の朝。
「いってきまーす。」
「気を付けてね。」
ウチは母さんに見送られて家を出た。
新大阪の駅では、カズが待っていてくれた。
今日は幽霊じゃ無い生きてるウチとカズとの初めてのデート。
そう思うとドキドキが止まらない。
カズを見ると少し緊張した顔をしてる
ウチらは、今までの時間を取り戻すかの様に楽しんだ。
次第には緊張も無くなり、手を繋ぐ様に迄なっていた。
日も落ちて辺りは街灯が点き始める。
駅への帰り道。
「香澄…。」
「んっ、何?。」
「あのさ、…俺と付き合ってくれへん?」
「えっ?な…」
「まだ、ちゃんと伝えてなかったから…俺は、お前の事が大好きやねん…だから今日から、この先の香澄の人生を護らしてくれへん?」
「…ウチの気持ちは解ってるやろ…ずっと護ってなぁ。」
「よっしゃーっ!」
駅に帰る前に少し公園に寄る事にした。
段になっている所に座り雑談をする。
「香澄。」
「ん〜?」
いきなりカズの唇がウチの唇に重なる。
ウチは驚いたが、そのまま瞼を閉じた。
初めてのキス。
少し強引だけど嬉しかった。
唇が離れると、お互いに少し照れていた。
「そろそろ行こか?」
カズは立ち上がった。
ピロリン
ウチは、その姿を携帯で撮る。
「…撮った?」
ウチは無言で微笑む。
「3年縮んだわ〜…行くでぇ。」
カズは手を差し出した。
「…うん。」
ウチは、手を引っ張ってもらい立ち上がる。
駅前の交差点で信号待ち。
『まだ、一緒に居たい。』
そんな気持ちで、いっぱいになる。「ママー」
女の子が車道に飛び出す。
「危ない!」
ウチは、無我夢中で飛び出していた。
「香澄ーっ」
キキーッ!!
『ああ…ウチは結局、死ぬんやなぁ…でも、この子がウチみたいに成らずに良かった。…ごめんなぁ〜カズ せっかく生き返って逢えたのに、ホンマ…ごめんやでぇ。』
ドンッ!!
「事故や!救急車!」
「姉ちゃん大丈夫か?」
「えっ…あれ? 生きてる。」
ウチは、体を起こす。
「美羽ちゃん」
女の人が駆け寄ってくる。
「ママー」
女の子は泣きながら、その母親にしがみついた。
「おい、大丈夫か!」
走ってきた車の前で人が騒いでる。
「えっ…何?」
ウチは、異様な胸騒ぎがした。
「すいません!通して下さい!すいません!」
ウチは、その人だかりの中へ入って行く。
そこには、頭から血を流して倒れているカズの姿が有った。
「カズーッ」
ウチは人を掻き分けカズに駆け寄る。
「どうして…どうして、こんな事に…」
「…か…すみ…無事やってんな…良かった。」
カズは、息も絶え絶えに口を動かす。
「カズ!しっかりして!なんで…なんで…ぐっぅ…」
「香澄の…人生を…護るって…約束したやん…」
「…カズ…死なんといて…ウチはカズと行きたい所も、やりたい事もメッチャ有んねん!」
「死ぬ訳ないやん…やっと香澄と付き合ってんで…簡単には…死なれへんて…」
カズの息が荒くなる。
「もう、喋らんといて!ムリして喋らんで良いから!」
「すいません!通して下さい!」
救急車が着いてカズが載せられた。
「ウチも行きます。」
「あなたは?」
「カズの…この人の彼女です!」
病院には、カズの両親が駆けつけてきた。
「あなたは、大丈夫?」
両親は、ウチの事を責める事もせず反対にウチの事を気遣ってくれた。
手術中のランプが消え、中から先生が出てくる。
「先生、どうなんですか!」
カズの両親が先生に駆け寄る。
「全力を尽くしましたが…申し訳ありません…」
カズの母親は、その場に泣き崩れ、父親が肩を抱き抱えてソファーに座らした。
ウチもソファーに崩れる様に座り声を上げて泣いた。
翌々日、カズの葬儀が執り行われた。
ウチは、御通夜にも葬儀にも出る勇気が無かった。
でも、母さんの薦めも有り葬儀には参列した。
カズの両親の怒りを総て受け止める気持ちで。
だが、カズの両親はウチの両手を握って励ましてくれた。
今日、聞いた事話によるとカズはウチの事を両親に話してくれていたらしい。
「今度、彼女を連れて来るから!この写メの子」
そう言いに帰って来ていたとの事。
ウチは涙が止まらなかった。
葬儀も終わり、ウチが帰ろうとした所、1組の男女に呼び止められた。見た事のある2人だった。
スケさんとユウさんだった。
「あんたが香澄さんやんなぁ?」
「はい…そうです。」
「写メで見るより可愛い子やん。」
「えっ…」
「カズが、この前に嬉しそうに写メ見せながら自慢しててん。」
「つい半年位前からかなぁ…メッチャ落ち込んでて元気も無かったのに、この前は前のカズに戻ってたもんなぁ。」
「それ以上に元気やったんちゃう。」
「その時にカズが言うてたんよ、この子は俺の大事な子やねん…だから何が有っても護るってさ。」
「カズ…」
「だから…最後に1番大事な物を護れて満足やと思うで。」
2人は必死に涙を堪えながら話してくれた。
「そうや、後こんな変な事も言ってたで。
前にこの子に幸せをメッチャ分けて貰ったから、今度は自分が幽霊になったら幸せを分けたるってさ!だから、香澄ちゃんの後ろで幸せを分けてるかもよ!」
ウチは、何も言えずに頷く事しか出来なかった。
今年の夏を迎えた。
まだ、立ち直れていないがカズが幸せを分けてくれているのにウチが落ち込んでいられない。
「カズ…今日も見護っていてね。」
ウチは、カズの写メに今日も微笑み掛ける。
長い間、御愛読して頂き有り難うございました。
月に1話とスローペースなのに本当に沢山の方に読んで頂けて本当に嬉しかったです。
特に関西弁の文が読み辛かったと思います。
なにしろ、初めて書いたもので色々と可笑しな点やご不便な点が有ったと思いますが最後まで読んで頂き本当に有り難うございました。