1夜
「お疲れ〜」
高校からのツレのスケと、その彼女のユウとで、今日もユウのマンションで、今週…水曜日にして早くも2回目の乾杯…
部屋にはユウの子供が3人、静かにテレビを見ている。
ユウの家は母子家庭でスケが転がり込んでいる状態で、そんな空間に俺が入って乾杯をしている。
「いや〜、今日も1日頑張った!」
毎回、話す内容は同じ様な事だけど、楽しいものだ。ユウのスケに対する愚痴、その日の出来事、外せ無いのは、2人の、のろけ話。そんな話に夢中になっていると時間が経つのは早いもので…気が付くと…12時半過ぎ。
「ぬぁ!1時前やん」
「うぉ〜!マジで、こんな時間やん」他人事の様にスケの返事が返ってくる。
「他人事みたいに言うけど…他人事か?でも明日は休みかい?」
『仕事〜』
と、2人から即答。
「他人事ちゃうやんけ!」
等と掛け合いをしてる内に1時は過ぎ…
「ヤバイ、マジで、そろそろ帰るわ」
『お疲れ〜』
2人に見送られて家路に着く。
自転車で15分位走れば自分のマンションに着く距離なので、毎回ほろ酔い気分で自転車を漕いで帰っていた。帰り道には墓地が1箇所有り、いつもは何も無く通り過ぎるのだが今日は何故か墓地の方を見つめた。
「何か居てるなぁ」墓地を通り過ぎる時に墓地の隅の方に確かに何か居た。
でも、
「それ」を見る事は昔からタマにあった。
だから、余り驚く事は無く気付かないフリをして通り過ぎる。
あの手の類いは自分が見えていると気付かれると憑いてくるからだ。
余談だが、小学生の時に実家で
「小豆磨ぎ」らしき爺さんがミシン台の上に座っているのを見てから時々見る事がある。
…友人にはバカにされるが、本当の話である。
それは良しとして、今のは女の人みたいだったが…
そういえば、おれも今年33歳になる。
彼女も居ないなんて寂し過ぎる。
先程迄スケの所で呑んでる時にも家族って良いなぁ等と思っていたが、やはり帰り道や部屋に入る時には1人は寂し過ぎる。等と1人でブルーになっている間にマンションに着く。
「ただいま〜」
真っ暗な部屋に寂しく響く声。
やはり淋しい!
とりあえず明日も仕事なのでシャワーを浴びサッパリした所に少し一息する。
「さて、寝ますか」電気を消し布団に入る。
最近、ソファーベッドにしてから何故か寝やすくなった。
しかし、事件が起きた。
『居る…』
『居る居る居る居る居る居る居る居る〜っ!!何か居てる〜っ!!!』
部屋の隅に確かに居てる。
今までも何回か居た事はある。
こんな時の対処法は寝る!何も考えずに寝る。
翌朝、携帯のアラームで目が覚めた。
その日から2日が過ぎ土曜日の夜。
またもやユウとスケとの呑み会に呼ばれ、ほろ酔いでの帰り道、例の墓地を通り過ぎる。ヤバイ、又居てる!
いつもの様に知らん顔で通り過ぎる。
マンションに着き、いつもの様にシャワーを浴びて一息。
『今日は出ぇへんやろな〜』等と思いながら電気を消し布団に入る。誰かの視線が突き刺さる。
『やっぱり居るよ』
いつもの様に無視して仰向けに姿勢を代えた時、心臓が止まりそうになる。
目の前に女性の顔が有り、俺の顔を覗き込んでいる。
「ウチの姿…みえてるんちゃうの?」
彼女が一言、話し掛けてくる。
しかし、少し拍子抜けした。
幽霊の声は昔から低音で怖いイメージがあったが、目の前の幽霊は何故か高いと言うより可愛い感じの声だった。
その声を聞いたら恐怖は何処かへ行っていた。
しかし幽霊は幽霊である。
『ヤバイ!バレてる。』
咄嗟に目を瞑り、心の中でお経を唱える。
暫くして目を開けると彼女は消えていた。
「うわぁ、危なぁ 〜憑かれたかと思った。」
安心して横向きになり、目を瞑ろうとした瞬間。
幽霊が正座していた。
『お経…効いてねぇーっ!』
彼女は微笑んだ。
「やっぱり見えてるんやね、声まで聞こえてるみたいやし。」
万事休す。
『お父さん、お母さん、もう僕は永く無いみたいです。』
「ちょっと聞いてくれる?」
突然、幽霊が喋り出す。「みんな、私の事を話し掛けても無視するしさ」
『そりゃ、幽霊だからムリだって。』
言いそうな所を我慢する。
見て逃げるとか、通る人への不満を小一時間喋り終えると彼女は満面の笑みを向けてきた。
「聞いてくれて、アリガトね。」
一瞬、その笑顔に見とれた。
「どうしたん?」
彼女の言葉にみとれたまま…
「おまえ…可愛いな。」
言って我に返る。『ヤバイ!幽霊相手に俺は何を言ってんねん』
どう繕えば良いか考えるが頭は真っ白のままだ。
「ありがとう。」
俺が呆けていると彼女がポツリと言った。
「初めて言われた…幽霊になる前にも言われた事無かったのに。」
少し悲しい笑顔を見せながら彼女が言った。
「えっと、あの、何て言うか…」
あたふた困っている俺を見て彼女は
「今日は楽しかった。初めて私の話を聞いてくれる人が現れて、しかも…」
少し彼女が恥ずかしそうに俯きながら、
「生まれて初めて可愛いって言われたしね」
『幽霊になってからだけどね』
俺はツッコミたい衝動を堪えた。 ツッコミは関西人の性だ。
「あっ!幽霊になってからだ」
思い出した様に彼女が言う。
「自分で言うんかい!」
ここでツッコマ無いのは関西人じゃ無い!
「これで私も成仏出来そうやわ、アリガトねバイバイ」
彼女は嬉しそうに笑うとスゥーときえてしまった。
俺は何だか嬉しい気持ちになりながら布団に入る。
「何か良い事したんかな?」
天井に囁く。
助かって良かった〜。と思いながら眠りに落ちた。