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幼馴染との再会 4

仮タイトルから変更しました

 結局、秋野と出掛けることはなく日々は過ぎていった。

 委員長が度々秋野に掃除当番の交代を頼むため、二人で話す機会は多いがやはり思い出す気配はない。

 それにしても、忘れすぎているような気がした。何かすっぽりと抜け落ちているようで違和感が消えない。

 思い出させるつもりはないのにモヤモヤする。変な気持ちだ。


「ん、飲み物買ってくる」


 昼休み、昼食を飲み物を買い忘れていたことに気づき席を立つ。

 秋野は早々に教室を後にしていた。食堂で友達と食べるのだろう。


「お茶でいいよ」

「水でも飲んでろ」

「酷すぎません?」


 こいつには楽をしたいという選択肢しかないらしい。

 俺は成長を施す優しい親友なので楽はさせない。最大限苦しませていつか殺す。

 階段を降り、外にある自販機へ向かう。学校の自販機ってなんでこんなに安いのだろうか。


「紅茶~……っと」


 ペットボトルに入った紅茶を買うため、財布から小銭を取り出す。

 すると、遠目に男女が目に入った。二人で立っているが、カップルだろうか。

 ……よく見たら秋野じゃないか。男は……先輩だろうか、ネクタイの色が三年生のものだ。

 秋野は苦笑いを浮かべている。ふむ、別に付き合っているというわけではないのか。

 むしろ、困っている? 助けるか? いや、もともと仲が良くて少し雰囲気が悪くなっただけかもしれない。様子を見よう。


「チッ……ビッチのくせに気取ってんじゃねぇよ!」

「え……?」


 おっと。

 声を荒げた先輩に、秋野は何が起こったのか分からないという様子だった。

 秋野はそんな奴ではない。俺はそれなりに話す仲なのでそれを知っている。

 しかし、誰にでも優しくしていると嫌な噂も流れるのだろう。女子ならば、自分の好きな男子と仲良くしていた、とか。


「お前のお友達から聞いてんぜ? いろんな男に話しかけてるんだってな」

「ち、違……わ、わたしそんなつもりじゃ……」

「んだよ泣くのかよ。はぁ、気分悪いわ。じゃあな」


 これはまずい、と向かおうとしたが先輩から立ち去った。

 見つかったらさらに面倒なことになるかもしれない。女子を泣かせたままにしておくのは心苦しいが、仕方ない。

 完全に立ち去ったのを確認した俺は、陰から出て秋野に駆け寄った。

 秋野は、地面に座り込み嗚咽を漏らしていた。


「大丈夫か?」

「ひぐっ……あ、ぇ……?」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、秋野は俺の顔を見上げてくる。

 転んで泣いていた昔の秋野も、よく大声で泣いていたっけ。

 ティッシュを持っていれば渡せたのだが、残念ながらそんなものは持ち歩いていない。


「さっきの人は?」

「ぁ……ああああああああ!!!」

「ちょっ!?」


 あの先輩について聞こうと思ったのだが、なぜか秋野は俺に抱き着いてきた。

 突然のことに周辺を見回す。だ、誰も見てないよな……?

 女子に抱き着かれてあまり焦らないのは、子供の頃、同じように泣いていた秋野に何度か抱き着かれたことがあったからか。

 他の女子ならばもっと焦っていたに違いない。いや、これでも内心ドキドキだけども。


「ゆーじ……」

「……沙織?」


 名前を呼ばれ、思わず俺も下の名前で呼んでしまう。

 ゆーじ、昔の秋野は俺をそう呼んでいた。思い出したのか?

 なんてことを思っていると、秋野はぐたっと身体の力を抜いた。

 俺が身体を支える形になる。軽い……じゃなくて、え?


「さ……じゃない、秋野! おい、どうした!?」


 秋野は息を荒くさせながら顔を赤くしていた。

 明らかに様子がおかしい。内心謝りつつ額に手を当てると、突き刺すような日差しに負けないほどの熱を感じた。

 これは、保健室に連れていくべきか。肩を支えると、意識があるようで秋野は俺に身を委ねながらもなんとか立ち上がった。


「歩けるか?」


 幸いにも保健室は一階にある。そこまで長い距離ではないが、今の状態の秋野にはきついかもしれない。

 俺の声を聞いた秋野はぐったりとしながらも、チラリと俺の顔を見た。

 しかし返事は帰ってこなかった。息は荒く、余裕もない。


「はーっ……はーっ……」

「無理そうか……」


 肩を貸して歩けないとなると、手段は限られてくる。

 まずお姫様抱っこ。却下。人の目がある。今更だけど。

 次に保健室に行って先生を呼んでくる。これが妥当だとは思うが、この状況で秋野を一人にするのは避けたい。

 他に選択肢があるとすれば……おんぶ、か。


「よし。離れんなよ?」

「……」


 俺は秋野の身体を支えながら前にしゃがむ。

 そのまま流れで秋野が俺の背中に体重を預けた。いろいろと当たっているが後で謝ればいい。

 意識は失っていないので最低限俺の身体に捕まることはできるらしく、首元に手を回された。

 俺も太ももを持ち、固定する。これで落ちる心配はないだろう。

 足に力を入れ、持ち上げる。やはり軽い。


「このまま行くぞ」

「……」


 おんぶした状態で保健室に向かう。それにしても秋野がやけに静かだ。

 力は入っているので意識を失ったわけではないようだが、ここからでは顔を確認できない。

 まあ、気にしていても仕方がない。今は急いで保健室に向かうだけだ。


* * *


 周囲の生徒からの視線に耐えながら保健室に入ると、中にいた先生は驚きながらも迅速な対応をしてくれた。

 まず、熱を測る。やはり体温が上昇しているようだ。危ない状態ではないが、風邪にしても高いほうらしい。

 ひとまず早退のため親への連絡、次に少しでも休ませるためにベッドに寝かせた。

 秋野はベッドに横たわるとすぐに眠ってしまった。疲れていたのだろうか。


「ふぅ、これでよし。ええと、杉坂くんだよね? 仮病で早退しようとする一之瀬くんと一緒にいる」

「はい、杉坂です」


 覚えられていないと思っていたのだが、まさか保健室の先生が俺を知っていたとは。

 確かに何度か証人がいれば早退できる確率が上がると言われ一之瀬の仮病に付き添ったことがある。無論、邪魔しまくった。


「秋野さんに、何があったの?」

「……どうして分かったんです?」

「分かるわよ。涙の跡があったんだから」


 なるほど、涙を流した跡があったからただ倒れて保健室に来たわけではないと推理したのか。

 多くの生徒を見てきたから分かるのだろう。おそらく一之瀬の仮病も毎回バレているに違いない。


「あんまり詳しくは言えないんですけど……嫌なことを言われていました」


 秋野のこともある。いくら先生とはいえ、今の段階で誰が何を言ったかまでは言わないほうがいいだろう。


「……そう。その時杉坂くんは?」

「たまたま会話が聞こえて、終わってから声をかけたんです。そうしたら泣き出して、倒れてしまいました」

「へぇ、教えてくれてありがとう」


 その時の状況をなるべく簡単に説明すると、先生は顎に手を当てて考え事を始めた。

 時折俺の顔を見てくるのが気になる。まさか……


「もしかして俺が泣かせたと疑ってます?」

「そんなことないわよ。でも、杉坂くんが来たから安心して気が緩んじゃったのかもしれないじゃない?」

「ははは、どうですかね」


 俺が駆け寄る前に、秋野は泣いていたので俺が原因で泣き始めたわけではない。

 だが、俺が現れてから声を出して泣くようになったので、もしかしたら、もしかしたらそこは俺が原因なのかもしれない。

 ひとまず、秋野は無事に早退することができそうだ。俺は先生に礼を言うと、教室に戻り急いで弁当を食べ授業を受けた。


* * *


 放課後、いつものように一之瀬とだらだら遊んだ俺は、家に帰りスマホをいじっていた。

 すると、画面上部に通知が表示される。チャットアプリからの通知だ。一之瀬は通知をミュートにしているので他の誰かだろう。

 名前も内容も確認せずに通知を押すと、チャットアプリに移動する。そこに表示されていたのは、秋野からのメッセージだった。


『明日の放課後、少し時間いい?』


 どう返事すればいいのか少し考えた俺は、短く『了解』とだけ打ち込み画面を消した。

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