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杉坂裕司の懐古 3

~~~~~~


 小学生の頃、俺はこの公園で放課後友達と遊んでいた。

 秋野は……ブランコに座って、俺が遊んでいるところを見ていることがほとんどだった。

 秋野が遊びに参加する時は、あまり動き回らない遊びをする時。それこそかくれんぼくらいしかしていない。


 俺はそんな秋野に、見ているだけじゃ面白くないだろ? と言った。

 すると、秋野は見ているだけでいいと言ってきた。

 嘘をついている様子はなかった。理由は分からないが、本当に遊んでいるところを見ているだけでよかったのだ。


 友達と遊び、秋野と二人きりでも遊び。そんな楽しい毎日だった。


 ある日、両親から大事な話があると言われた。

 そらが大きな病院に入院することになったのだという。

 そこからが重要だった。治るまで入院するため、引っ越しをする必要があるらしい。

 いつになるかは分からないが、早ければ数ヵ月で帰ってこれるらしい。数ヵ月友達と離れるのは寂しいが、また会えるのだから問題ない。

 それなら、友達にもわざわざ伝える必要はない。そうだ、突然いなくなって、また帰ってきたら驚くだろう。そんな意地悪なことを考えてしまった。

 その結果、関係が終わってしまうとも知らずに。


 学校でも、友達には話さずにいつも通り接していた。

 引っ越しをするまでに、何度も遊んだが、引っ越しを匂わせることすらしなかった。

 引っ越しが近づいてきたある日。放課後、公園で秋野と二人で遊ぶことになった。


 ジャングルジムに登る練習や、逆上がりをする練習をして遊んでいた。

 思い返せえば楽しいのか疑問に思ってしまうが、秋野は楽しそうにしていたことを覚えている。

 練習したことによりジャングルジムに登ることも、逆上がりをすることもできるようになった秋野を褒めると、秋野は嬉しそうに笑った。


 その顔を見て、数ヵ月でも沙織と離れることになるんだ、と思い寂しくなった。

 言ってしまおうか迷った。その時、俺は秋野に話をした。

 何の話だったか。


 当時の光景がまるで目の前に映っているかのように思い出せる。

 俺と秋野はブランコに座り、ゆらゆらと揺れている。

 そうだ、俺はこの時秋野に自分がその町から離れることを匂わせていたのだ。秋野にだけは、話したかったのだ。


「なあ、もし俺としばらく会えなくなったらどうする?」

「え……? 寂しい、よ?」


 記憶に残っている秋野は、やはり大人しかった。

 会話の端切れも悪く、一言一言を途切れ途切れで喋っている。

 自信のなさげな表情も相まって、改めて見ても地味な子、という印象が強い。


「そっか。でも、いつか俺から離れなきゃいけないだろ? ずっと一緒ってわけじゃないし」

「ずっと一緒じゃ、ダメなの……?」

「ダメってわけじゃないけど……俺がいなくても生きていけないと大変だろ?」

「そう、かも」


 生きていけないとって、大袈裟だな。

 それでも今ならわかる。近しい人は必ず必要なのだ。

 人は一人では生きていけない。人との関りが無くなってから、その意味を痛感した。

 そして、人がいるありがたさを知った。

 だから、この頃の俺の言っていることは正しい。


「だからさ、秋野も俺以外の友達を作ろうよ」

「ゆーじ以外の、友達……?」

「そうそう。ほら、俺みたいにさ。みんなと話せるようになったら楽しいぞ!」

「……ゆーじは、わたしに友達たくさんできたら、嬉しい?」

「もちろん! そしたらもっと自信持てるしさ、明るい気持ちになるんだ!」

「ゆーじみたいに、なりたい」


 ……俺みたいに、なりたい、か。


「約束だな!」

「うん、約束……指切り」

「おう、俺みたいに明るくなってくれよ!」

「うん!」


 ああ、そうだ。俺は結局伝えることはできずに、引っ越しをしたのだ。

 最後に、秋野に呪いのような約束をして、離れたのだ。

 数年後、どうなるのかも知らずに。


~~~~~~


 全てが、俺のせいだった。

 あんなことを言って、目の前からいなくなったのだ。当然秋野は、俺のようになろうと努力したのだろう。

 頑張って頑張って頑張って、俺を真似て友達を作って、頑張って頑張って頑張って。

 そして――――壊れてしまった。


「ああ……なんだ、そうだったのか」

「どうしたの?」

「いや、昔を思い出してな」


 俺自身、忘れていた。

 そんな大切な約束をしたのに、忘れていた。

 秋野に思い出してほしいと思っていたのに肝心の俺が忘れているとは思わなかった。


「秋野、その約束ってどうしても思い出せないのか?」

「まって、思い出してみる……えっと……」


 秋野は額に手を当てて思考に入る。

 思い出しそうで思い出せないというモヤモヤする感情が流れ込んでいるのだろう。うぐぐと眉間にしわを寄せている。


「約束は分かんないけど、なんか……何かに憧れてた、気がする」

「憧れ?」

「うん、誰かになりたくて、わたしもそうなりたいって、思ってたなって」


 思い出している。今まで箸にも棒にも掛からなかったのに、着実に記憶が蘇っている。

 もしかしたら……今なら、今なら思い出すのではないか。


「それは……誰なんだ?」

「誰か……誰だろう」


 思い出しかけてはいるが、俺のことはダメか。

 もう少し、もう少しヒントを出したら出てくるかもしれない。

 だが、何を言えばいい。流石に直接的なことは避けたいが……

 なんて思っていると、俺を発見した彩斗さんが駆けつけてきた。どうしたのだろうか。


「おい裕司、この後は何で遊ぶんだ?」


 まさかの遊びについてだった。

 一番大人だが、相変わらず一番子供である。

 しかしそんな彩斗さんに少し憧れていたりもする。楽しい方がずっといいのだ、人生を楽しめるのがとても羨ましい。俺もその気持ちは忘れないようにしたい。


「元気っすね……適当に遊具使ってればいいんじゃないすか」

「かーっ! 面白くねぇなぁ。沙織、どう思うよ。昔はリーダーらしく次々遊びの提案してたくせによ」


 つまんねー! とでも言いたそうに彩斗さんは大袈裟にリアクションを取る。昔の話はいいでしょうよ。

 さてどうするかと次の遊びを考える。そういえば、秋野はどうしたのか。先ほどまで話をしていたのに。父親が来ても黙っているなんて。


「秋野?」

「どした、沙織」


 秋野を見ると、何もない空間を見つめてぼーっとしていた。

 そういえば、前にもこんなことがあった。何か、また記憶に引っ掛かっているのか。


「裕司……約束……あ、ああ……ああああああああああ!」


 叫びながら、秋野は頭を抑える。

 明らかに異常な状況に、俺も彩斗さんも慌てふためく。

 叫ぶ前に、俺の名前を呟いていた。まさか、まさかまさかまさか。


「あ、秋野! 落ち着け!」

「とにかく、そこのベンチまで移動する。裕司、支えられるか」

「え、ええ。大丈夫です」


 う、うううと唸る秋野の身体を支えながらベンチに誘導する。

 強い頭痛に苦しめられているようだ。頭を振りながら苦しそうな声を漏らす。

 そんな秋野に気付いたみんなが、集まってくる。その全員が焦りながら駆け寄ってきた。


 それを見た俺は、愛されてるな。というなんとも場違いなことを考えてしまっていた。

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