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杉坂裕司の懐古 2

 全ての隠れ場所を巡った場合、十分という制限時間はギリギリな時間になるだろう。

 故に、本気で駆け回らなければならない。木の裏、遊具の裏などを確認していき、早速人影を見つける。


「あら、見つかってしまったわ」

「よし、二人目だ」


 人影の正体は沢野だった。トイレの裏に隠れていたため簡単に見つけることができた。

 残るは三人。同じ感覚で探していけば余裕で時間内に終わらせることができる。

 スマホのタイマーを確認すると、残り時間は七分になっていた。

 つまり三分経過しているということ。三分で二人、余裕では。


 とりあえず一周、適当に公園を走り回ったが見つからず。ここからは怪しそうな場所をしっかり探していく。

 残り五分。木の多いエリアを見回していくと、木陰に座り込んでいる人を発見した。

 体が小さく子供のように見えるが、服には見覚えがある。妹のそらだ。


「いた! そらみっけ!」

「うわあっ!」


 木の後ろでしゃがみながら隠れていたそらを発見する。

 服の色で目立っていたので見つけることができたが、派手じゃない色だった場合は見つけるのも困難になってくる。


 残るは秋野親子だ。俺の予定では一周適当に走りまわるだけで三人か四人見つかると思っていたのでかなり不味い状況である。

 残りは四分。まだ余裕はある。


「次は遊具を……」


 今回のルールでは途中での移動がありになっているので、すでに探した場所に移動している可能性がある。

 急げ急げ、どちらか一人見つけることができれば一気に有利になる。


 一之瀬が隠れていたすべり台付近、いないか。

 隠れられるような遊具を確認していく。ダメだ、誰もいない。


「おっかしいなぁ」


 こんなに見つからないものだろうか。

 一度冷静になり、ふと顔を上にあげた。

 ジャングルジムが目に入る。その上には、秋野がこちらを見ながら座っていた。


「!?」

「あ、やっと気付いた」

「マジか……」


 下にばかり目が行ってしまい、そこには誰もいないだろうという先入観から認識することができなかったのだ。

 これは掛けだろう。登っている途中だったら、動きがあるため認識されやすくなってしまう。

 俺が気付いていなかっただけで、最初からそこにいたのだ。上手いな。


「やるな、秋野」

「あと誰が残ってるの?」

「お前の父親」

「お父さんかぁ……」


 残っているのが自分の父親だと知った秋野が呆れた顔をした。

 あの人、遊びを全力でやるから本当に見つからないのだ。俺たちの誰よりも子供の頃の心を忘れていないのではないか。


「なんか、ここに隠れてそうとか分かる?」

「全然。でも、少なくとも一番見つかりにくい場所を探してるはずだよ」

「だよなぁ」


 残り二分。ひたすら駆け回るがどこにもいない。

 体格は一番大きいため隠れられる場所は限られているはずなのに気配すら感じない。

 残り一分。ダメだ、本当に分からない。


「これは僕たちの勝ちっぽいねぇ? 杉坂ぁ?」

「くっ……まだ時間はある!」

「一分もないだろぉ? イェーイ! 僕たちの勝ちだ!」


 ベンチから立ち上がった一之瀬がこちらを煽りながら歩き回る。

 くっ、ムカつく。一番最初に、三十秒で見つかったくせに。

 やーいやーいと煽ってくる一之瀬だったが、突然バランスを崩して転倒した。


「どわあっ!?」

「何やってんだよ……ん?」


 転んだ一之瀬に呆れながら視線を下に向けると、そこには布のようなものが見えた。

 そこから視界を全体に向ける。人だ。人がうつ伏せになっている。

 背中には木の枝や木の葉が乗っており、地面と同化していた。


「……彩斗さん?」


 ぴくっと動いたかと思うと、その人はゆっくりと顔を上げ立ち上がった。

 枝がパキパキと音を鳴らしながら折れる。

 完全に姿を現した彩斗さんが、服に残った枝や木の葉を叩きながら笑う。


「見つかっちまったか。おい坊主、テメーのせいだぞ」

「ひいいい!! ごめんなさい!」


 そのタイミングで、タイマーがピピピっと十分経過を知らせてくれる。よかった、間に合っていたか。

 タイムアップの前に彩斗さんが見つかったことにより、最初のかくれんぼは俺の勝利となった。


「ぐああああ! 負けた!!!」


 次は俺以外でじゃんけんをし、鬼を決める。

 そうして何度かかくれんぼや鬼ごっこをし、小学生のように楽しんだ。

 しかし無限の体力を持っていた昔とは違い、今はあまり運動もしていない高校生。少し走り回るだけで体力は底を尽きてしまう。


 休憩ということで、俺は水道で水を飲む。ああ、こうして噴射型の水道で水を飲んだのはいつぶりだろうか。

 皆それぞれベンチに座るなり、自販機で飲み物を買うなりして休憩している。

 秋野は……ブランコに座っていた。あのブランコで一緒に遊んでいたな。懐かしい。

 俺は昔を再現するように、秋野の座っているブランコの隣のブランコに座る。


「疲れたか?」

「うん、ちょっとねー」


 秋野も体力が多いわけではないらしく、話しかける直前までぼーっとしていた。


「……なんかさ、ここ来た事あるなーって」


 来たことがある、確かに秋野と一緒にこの公園で遊んだことは多かった。

 思い出したのだろうか。見たところ、俺のことは思い出していないようだが。


「思い出したのか?」

「まだ、かな。でも、すごく大切な何かがあった気がするの」

「すごく大切な……?」


 大切な何か、とはいったい何だろうか。

 記憶を遡る。俺は記憶喪失にはなっていないが、忘れていることも多い。

 ここで秋野としたことを思い出す。そうだ、俺はあの頃秋野とこの公園で……

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