杉坂そらの嫉妬 4
半分が地面に埋まったカラフルなタイヤや、同じくカラフルな謎の丸太の遊具、雲梯を軽く回り体育館にやってきた。
同じように体育館倉庫にバスケットボールを取りに行き、そこにあった跳び箱などを見て懐かしんだ。
倉庫に閉じ込められるという恒例のイベントは起きなかった。連絡手段もあるので閉じ込められたところですぐに出れるのだが。
早速、一之瀬はバスケットボールを構えゴールに向けて放った。
「よっと、ありゃ……入らねぇ」
「下手くそか? 見てろって。ほっ……あれ?」
「下手くそか?」
同じく外した俺は何も言い返せなかった。
悔しい。こればかりは実力勝負だ。
「私もやってみようかしら。ふっ……」
沢野は床に転がったバスケットボールを拾い、ゴールに向かって放る。
それっぽい構えでシュートをするが、枠に弾かれてゴールにはならなかった。
「あら、難しいわね」
「あたしもー」
「そらもやるー」
落ちた二つのバスケットボールを秋野とそらが持つ。
二人とも構えは素人で、両手を使ったシュートだ。
二人そろって届かない。枠にすら当たらない。
この場にいる五人が全員外した。全員下手くそである。
「よし! みんなでシュート対決だ!」
「お兄ちゃん頑張って!」
「お前も頑張るんだよ」
「えー!」
頑張ってじゃなくお前も頑張るんだよ!
そらがある程度運動ができるようになって嬉しいが、無理はさせたくない。
シュート勝負はちょうどいい運動になるので、ぜひそらには頑張ってほしい。
「ルールは五回投げた中で一番多くシュートを成功させた人が勝ち! 以上!」
「おーけー。絶対勝つからな」
一之瀬が簡単にルールを決めたが、悪くない。五回ならば運よく入ることもあり、経験の少ない女子組も勝てる確率が高くなる。
一之瀬のルールに全員が賛成し、一之瀬、俺、沢野、秋野、そらの順番でシュートを打つことになった。
「まずは僕からぁ!!!」
最初に一之瀬がシュートをする。
先ほどと同じようにシュートを構え、放つ。
綺麗な弧を描きながら、一之瀬の放ったボールは枠に当たり、ぐるぐると回転する。
入るか……! と思われたが、回転しながら外側に落ちてしまった。
「なんでさ!!!」
「これは勝ったな」
二つ目のボールを持ち、ゴールを見据える。
さっきは上手くいかなかったが、今度こそ入れて見せる。
「よっ……っと」
シュートし、ボールが弧を描く。
そのまま、パスッとネットを揺らした。
枠にも当たらないゴールだ。やった!
「杉坂くんすごい!」
「お兄ちゃん流石!」
「ふはは、まあな」
内心めちゃくちゃ喜びながら、次のシュートを打つ沢野に位置を譲る。
沢野は、先ほどと同じようにシュートをした。
「ダメね……難しいわ」
「あー、でも惜しかったよ!」
「ですです! 届くだけでもすごいですよ」
俺たちが打っているのは、スリーポイントシュートだ。
それなりの距離があるので、ある程度筋力がないと厳しいだろう。
「お前らはもう少し近づいていいぞ」
秋野とそらは遠くに投げることができなかったので、近づいて打つことになった。
バスケの試合で指定の場所からシュートする位置よりも少し前進した辺りから投げるくらいがちょうどいいか。
「そいっ」
秋野がシュートをする。一之瀬と同じように枠をぐるぐると回転した。
外れるか、と思いきやボールは回転しながら内側に入っていく。
そのまま、ボールは輪をくぐり落下した。秋野もゴールだ。
「やった! 入ったよ!」
「いい感じだな。これは誰が勝つか分からないぞ」
次にそらが投げる。
「りゃー!」
相変わらず両手で投げるが、今度は距離が足りたようで黒い枠にボールがガンっとぶつかる。
そのまま赤いゴールの枠にもゴンっとぶつかり、回転することなくネットを揺らした。
入った。入ったぞ。そらがゴールを入れた。入った!!!!!
「おおお!! すごい!!! やったなそら!!!」
「うん!!!」
俺はそらに駆け寄り、ハイタッチをした。
自分が入れた時よりも嬉しい。そらが運動している、バスケでシュートを入れた。それが本当に嬉しい。
「そ、そらちゃんの時だけ喜び過ぎじゃない?」
「秋野ちゃん、あれがいつも通りだよ」
「シスコンね。まあそれもありだわ」
「委員長何言ってるの!?」
ごちゃごちゃ言っているが、そんなにおかしいだろうか。
確かに他の兄妹よりも距離が近いことは自覚しているが、そこまでじゃないと思っていた。
まあ、気にしても仕方ない。これが俺だ。
これで全員が一回投げたことになる。
入れたのは俺、秋野、そらの三人。それぞれあと四回あるため、まだまだ勝負は分からない。
この戦い、絶対に勝つ!
* * *
五回目のシュート。パスッとネットを揺らし、落下する。
一度シュートが入ればある程度感覚は掴めた。まあこれが実際の試合で動きながら入れるとなったら難易度は一気に跳ね上がるのだろう。スポーツは難しい。
続けて沢野、秋野、そらが連続でゴールを決めた。
結果発表。
俺、四ポイント。
沢野、三ポイント。
秋野、二ポイント。
そら、二ポイント。
一之瀬、一ポイント。
「ちくしょー!!!!!!!」
「よっし、飯おごれよ」
「そんな話出てなかったでしょおっ!?」
結果、ボロ勝ちである。
沢野は最初こそ外したが、構えがしっかりしていることもあり三回も入れていた。
秋野とそらは最初と最後だけゴール。たまたまかもしれないが上手く入り、同点で三位だ。
一之瀬は……うん、なんで入らなかったんだろうか。分からない。
「でもどうせだし飲み物買ってきてくれないか。コンビニが近くにあったはずだ」
「まあ、そのくらいなら。というか僕も杉坂に行かせるつもりだったし」
「こいつ……」
結果的に一之瀬が全員分の飲み物を買ってくることになった。
その間、ボールを片付けて倉庫にカギを掛ける。
「いやぁ、楽しかったな」
「そうね。たまには運動もいいものだわ」
「疲れたけど、楽しかったよー」
沢野とそらは楽しんでくれていたようだ。特にそら、本当に良かった。連れてきてよかった。
勝負を振り返っていると、俯いている秋野が目に入った。どうしたのだろうか。
「……」
「秋野?」
「……あ、ご、ごめん。ぼーっとしてたかも」
「そうか? 汗かいたからな。しばらく休むか」
五月に入り日差しも強くなってきた。梅雨で暑かったり寒かったりするので体調管理に気を付けなければならない。
一之瀬が帰ってくるまで、風通しのいい場所で座っていよう。
一之瀬が帰ってきてからも、しばらくは雑談を続けた。
そのタイミングで、そらに秋野の思い出巡りについても軽く話した。
もうほとんど察してくれていたので長々説明する必要がなく助かった。
「明日どうする?」
「公園に行こう。ほら、ここの近くにあるだろ」
「あー、あそこかぁ。僕も昔あそこで遊んでたね」
一之瀬も例の公園で遊んだことがあるようだ。
しかし一之瀬の住んでいる地域の小学校付近にも公園はあったはず。何故ここまで来て遊んでいたのか。
「なんで? もっと近い公園あっただろ」
「占領されてたんだよ」
「……いたよな、そういうやつ」
少人数で公園を占領し、他の子供を遊べなくする害悪小学生。どこの学校にもいるらしい。
何はともあれ、明日は公園に行くことになった。それこそ学校よりも遊具があるため暇も潰せそうだ。
次回、杉坂裕司の懐古