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幼馴染との再会 2

 あれから数日、俺たちと秋野は席が近いためそれなりの頻度で話すようになった。

 放課後になり一之瀬に帰ろうぜーと誘われる。俺もそうだが、一之瀬はさっさと帰りたがるタイプだ。

 放課後に教室に残ってる人たちは何がしたいのだろうか。

 そんなことを考えながら鞄に手を掛けたその時、俺は掃除当番だったことに気づく。


「そういや俺掃除当番だ」

「えー、マジかよ」

「あちゃー。じゃ、あたしは先に帰ろうかな」


 一緒に下校したことはないが、これはもしかして秋野との下校チャンスを逃したのではないだろうか。

 そもそもそんなチャンスを欲していないので構わないが、仲間外れにされているような気がして複雑な気持ちになる。

 俺もさっさと掃除を終わらせて帰るか。


「秋野さん、ちょっといいかしら?」


 帰ろうとした秋野に話しかけたのは、黒髪ロングで眼鏡を掛けた真面目そうな女子だった。

 確か、学級委員長をしていた子だ。名前は知らない。


「委員長だよね? どしたん?」

「私、今日掃除当番なのだけれど……委員会の仕事があるから代わってくれないかしら?」

「そうなんだ! ならあたしが代わりにやっとくよ。頑張ってね!」

「どうもありがとう。お願いね」


 委員長はそれだけ伝えると、そそくさと教室を出ていった。

 学級委員長の仕事か、想像したことないけど先生の雑用みたいなものだろう。

 俺も昔はクラスのまとめ役、みたいな立ち位置に居たっけ。楽しかった記憶しかないが、今同じことをしたら胃に穴が開く気がする。


「掃除かぁー、放課後の予定はキャンセルかなー」

「なんか予定あったのか?」

「うん。カラオケに誘われてさぁ。まあ何回も行ってるし今日くらいはいいかな」


 あら残念、一緒に帰るチャンスはそもそも存在していなかったらしい。

 悔しくなんかないんだからねっ。

 しかし放課後に友達とカラオケか、流石女子高生、ギャルと言うべきか。


「仲いいんだな」

「……うん。ほら、掃除するよ」


 ……一瞬冷めた顔をしたのは何故だろうか。

 ただ掃除が面倒だと思っただけか、それとも……いや、他には何もないか。掃除は面倒なんだから嫌にもなる。

 せっかく三人もいるのだ、二人だけで掃除なんて気まずくてできない。一之瀬も手伝わせよう。


「一之瀬、お前も手伝え」

「嫌だよ、僕頼まれてないじゃん」

「知ってたよ。言ってみただけだ」


 こいつはこういう奴だった。

 面倒ごとから逃げて逃げて逃げまくる。自分がやりたくないことはひたすらにやらない。やりたいことをとことんやる自由人。それが一之瀬湊だ。

 逃げられる前に何かエサで釣れば手伝わせることもできるかもしれないが、咄嗟には思いつかなかった。


「それじゃお二人さん、お先ー!」

「はぁ、相変わらずだなあいつは」

「杉坂くん、一之瀬くんと仲いいよねー。いつ知り合ったの?」


 勢いよく走り去っていった一之瀬を見送りながら呟くと、秋野がそんなことを聞いてきた。

 俺と一之瀬がいつ知り合ったか、か。思い出してみればそこまで運命的な出会いはしていない。

 ただ、あいつが変な奴で俺がそれに興味を持ってしまったというだけの話だ。


「高校一年の時だな。担任にプリント渡して来いって言われて、届けに行ったんだ。そこで話すようになった」

「え、まだそれだけなんだ。中学から一緒だと思ってた」

「案外馬が合うんだよ。それでふと学校サボっていいのかって聞いたらさ、出席日数と遅刻欠席の回数はちゃんと計算してるとか語り始めてな。それで勉強も家でやってるのか聞いたら、口ごもってた。あいつは頭がいいのか悪いのか分からん。自由な奴だよ」


 そこまで計算するのなら勉強も赤点を取らないようにしていると思っていたのだが、普通に勉強は苦手らしく赤点を取りまくっていた。


「なにそれー。でも、いいなぁそういうの」

「お前は遊ぶ友達たくさんいるだろ」

「え、あ、うん。確かにそうだった」


 なんだそりゃ。一瞬友達の少ない俺に対しての煽りかと思ったよ。

 俺と一之瀬の関係は本当にただの友達であり、特別なものではない。ただお互いに話す相手がいないだけなのだ。

 秋野はクラスメイトのほぼ全員と仲がいいんだから、明らかに俺たちよりも上だろうに。


「あのさ、今度遊ばない? なんだかんだよく話すけどさ、まだ遊んだことないじゃんあたしたち」

「……そのうちな」


 遊んだことない……そうだよな、忘れていたらそうなるよな。

 しかし、遊ぶといっても何をするのだろうか。俺と一之瀬の遊びと言えば二人でゲーセンに行ったり、どっちかの部屋でだらだらするくらいなんだが。

 俺の全盛期の頃はどんなことをして遊んでいたのだったか。確か……探検、だったっけ。

 外に出て、友達と集まって走り回る。ただそれだけ。

 何が面白かったんだろう。一応、虫を捕まえるだとか野良猫を追いかけるだとかの目的はあったが。


「そのうちっていつ?」

「全員の予定が空いてる日にでも行けばいいんじゃないか? お前だって、いつもいつも遊びに誘われてるんだからいつ行けるのかも分からないだろ?」


 俺と一之瀬は基本いつでも行けるのだが、とりあえず予定が入っている風にしておこう。

 秋野は……暇な日が見つからなそうだ。思い返してみれば、俺たちだけではなく他のクラスメイトとも会話をしているのだ。様々なグループと遊びに行っているに違いない。


「まーねぇ。なら、後でチャットで行ける日伝えるね」

「ん、了解」


 秋野の予定が空いている日が分かれば、その日にでも遊びに行こう。

 なんとなく遊ぶ内容を考えたが、ご飯を食べに行ったり、買い物をするくらいしか思いつかなかった。

 まあ出かけるテンプレだし、どちらか、あるいは両方になるんだろうな。


「……」


 そんなことを考えながら教室の掃除を進めていると、視線を感じた。

 廊下にまだ帰っていない生徒でもいたのだろう。流石にガキじゃないんだから、一緒に掃除をしているだけでとやかく言われることはないだろう。

 するとヴヴヴっとスマホが振動した。通知を見ると、一之瀬から早く来いというメッセージが来ていた。

 また格闘ゲームか。昨日は負けてしまったので今度こそリベンジしてやろう。

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