一之瀬湊の暴走 1
沢野と友達になった日。
俺はいつものように放課後、一之瀬の家に向かっている。
いつもと違うところは、隣に秋野と沢野がいるところだ。
俺は一之瀬に事情を説明して、ゴールデンウィーク辺りで思い出巡りに連れて行こうと考えている。
「一之瀬、掃除したよな?」
「もちろん。したに決まってんじゃん」
「だよな、悪い疑っちまって」
もちろん、一之瀬には事前に知らせてある。
少し遅れて俺たちがやってきたのは、一之瀬に部屋の掃除をさせるためだ。
「さ、みんな入って入って。ゲームやろうゲーム」
今日は大事な話をするために四人で集まると言ったのに、一之瀬はゲームをする気満々らしい。
話さえ終わればゲームなどをするつもりだったのでいいんだが、緊張感がない。
「お前なぁ……まあいいか、お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
俺に続いて二人が一之瀬の家に入る。
一之瀬に案内されて部屋の前まで行き、扉が開かれる。
その部屋は、確かに床の埃などが消え、空気もある程度良くなっていた。
のだが。テーブルの上にある物やベッドの上にある漫画などはそのままだった。
「これ……もっとどうにかできただろ」
「ええ!? 掃除したよ! 綺麗でしょ!!」
「いつもに比べたらな」
一之瀬の部屋に、二人はかなり引いているようだった。
せめてテーブルの上くらいはどうにかならなかったのか。
「一之瀬くん、掃除してこれ……なのかしら?」
「そうだけど?」
「いい? 一之瀬くん。人を家に呼ぶときは多少なりともテーブルの上を片付けるべきなのよ」
全くもってその通り。一之瀬の部屋に比べて、秋野の部屋はとても綺麗だった。
普段一之瀬の部屋に行っているから余計に綺麗に感じたのだろう。
「えー、友達だしいいじゃん」
一之瀬の言葉に、秋野が反応する。
「友達……確かに、友達なら……」
「おい流されるな秋野。俺も普通に嫌だったわ」
「なら言えよ!」
「言ってたけど聞かなかったろお前」
俺はいつも一之瀬に部屋を片付けろと言っていた。
まあ男二人だしいいかとしつこくは言わなかったが、流石に散らかりすぎて気になっていたことも多い。
「とりあえずテーブルの上だけでも片付けましょう。何も置けないわ」
「だそうだ。ほら一之瀬早くしろ。見ててやるから」
「いや見てないで手伝ってくださいよ!?」
仕方ない。俺も片付けを手伝い、テーブルの上にあった漫画やコップを片付けた。
テーブルから物が消えただけでかなりすっきりする。やはり視界がごちゃごちゃしていないのはいい。
全員分の飲み物を用意し、四人で四角テーブルを囲むように座る。
「で、話って何さ」
準備が終わり、一之瀬が早速切り出した。
「実はな、一之瀬と沢野に頼みがあってきたんだ」
「頼み?」
「何かしら」
一応、沢野には昼に教えていたので演技をしてもらう。
話す内容は、秋野の今の状況について。
「秋野、自分から言えるか?」
「うん。えっとね、あたし記憶喪失なんだー」
「マジ!?」
秋野の言葉に一之瀬は驚き、沢野は真剣な表情で考え込んでいる。
改めて、過去の記憶などを辿っているのだろう。
「……でも、普通にしているわよね。何を忘れてしまったの?」
「小学校低学年からもっと小さい頃までの思い出。忘れてすぐの頃の記憶も、曖昧になってるよ」
「あっ、ここはどこ私は誰? みたいなのじゃないのかぁ……」
「なんで残念そうにしてんだお前」
不謹慎ではあるが記憶喪失が本当にあるのかと興味がわく気持ちは分かる。
だが今は真剣に聞いてほしいところだ。
「……確かに、あの頃の秋野さんは少し様子がおかしかったわね」
「お、覚えてるの!?」
「ええ。あまり接点はなかったけれど、突然学校に来なくなったのを覚えているわ」
一時期不登校になっていたのか。
秋野が周りと仲良くなろうとしたのは、いつからなのだろう。
沢野が覚えていないということは、大きく変わったのは高学年の頃か、中学の頃か。
あるとすれば、イメチェンできる中学か。
「そっか……それでね、あたし、どうしても思い出したいんだ」
「それは、どうして?」
「何でだろう。もちろん家族との思い出もあると思う。それ以外にも、忘れちゃいけない思い出があったような気がするの」
「忘れちゃいけない思い出……そうね、確かに、それは思い出すべきだわ」
その思い出は……俺との思い出か。
しかし心当たりはあまりない。特定の場所なんて、秋野の家か俺の家、公園か学校くらいだ。
駄菓子屋は少し行ったことがあるくらい。秋野との関わりは少ない。
「なるほどねー。それで、お願いって何さ?」
「思い出巡りに、協力してほしいの」
「思い出巡りぃ?」
それは一体何をするんだと疑問に思う二人。
「うん。杉坂くんには一回協力してもらってるよ。昔行った場所に行ったら思い出せるんじゃないかってことで、この前駄菓子屋に行ったの」
「あっ、あの時のか!」
俺と秋野が駄菓子屋にいたときのことを思い出す一之瀬。
あの時は事情を説明できなかったが、これで納得できたようだ。
「そう。そんな感じで、公園に行ったり、小学校に行ったりしたいの」
「私たちはそれについていけばいい、ということね」
「そういうこと。大丈夫かな?」
「もちろん。私は大丈夫よ」
「ま、僕もいいけどさ。小学校違うからあんまり協力できないと思うよ」
一之瀬は小学校が俺たち三人とは違う。
隣の小学校だったか、俺も当時の一之瀬のことは知らない。
「それでもいいんじゃないか? 大勢で行って楽しかったら思い出すかもしれないだろ?」
「ん、楽しめばいいのか! なら参加する!」
ちょろすぎる、この男。
実際、あの頃みたいに楽しく感じたら記憶が戻るかもしれない。
だから楽しめばそれでいいのだ。記憶喪失を治す方法なんて、誰にも分からないのだから。
「それが一つ目のお願い。二つ目はね……」
記憶喪失の話を切り上げ、二つ目の話に入る。
内容は、秋野に仲のいい友達がいなく、この前友達を信じられなくなってしまったことだ。
あの日、周りに合わせ無理をして倒れてしまったことも、全て話していた。
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