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沢野佳世との親睦 5

「はああああああああ!? 杉坂と秋野ちゃんに仲良くなってほしくて邪魔者を睨んでた!? 意味が分からない!!」

「今回ばかりは俺も同意する」


 一之瀬が大きなリアクションを取りながら驚く。

 当時の俺たちに憧れていたにしても、ちょっと過激な気もするのだ。


「あたしも、ちょっとよく分からなかった……」

「何? 委員長はこの二人をくっつけたいってこと?」


 呆れたように質問する一之瀬の言葉に、秋野は顔を赤くした。


「くっ、くっつく!? それってつまり、お付き合いってこと……?」

「秋野、真に受けるなって。ただ仲良くなってほしいだけだろ?」


 秋野、一応ギャルなのにお付き合いって言うんだな。

 軽いノリが多くなっただけで、完全に昔と別人というわけではないのだ。

 それが当時の秋野を思い出させて歯がゆい。


 そして沢野、確かにあの言い方だと俺と秋野を付き合わせようとしているように聞こえるぞ。


「ふふっ、杉坂くんと秋野さんにくっついてほしい……? その通りよ!!!」

「その通りなのかよ!!!」


 まさかのその通りだった。

 どうしてこの話題のときだけ真っ直ぐ、はきはきと話すのだ。それ以外は大人しそうに話すのに。

 個人的に秋野のことは好きだが、それは友情という部分が大きい。

 当時の俺も、恋愛感情よりも友情が強かった記憶がある。


 沢野の言葉に秋野はさらに顔を沸騰させ、俺と一之瀬は呆れる。

 一之瀬はそんな俺と肩を組み、沢野に背中を向けこそこそと話し始める。


「なあ、やっぱり友達になるのやめた方がいいんじゃないの」

「俺もちょっとそう思い始めてたけども、あれ以外はいい人なんだよ……」

「致命的じゃない?」


 沢野が予想以上に変な人で全員が困惑している。

 もっと真面目な子だと思っていたのに。いや、この話題以外はすごく真面目なんだけども。


「……杉坂くんと一之瀬くんも、ありっちゃありね」

「「!?」」


 背後から聞こえてきた言葉に背筋が凍る。

 冷や汗が噴き出る。振り向くことができない。これが恐怖か。


「やばい、やばいって杉坂!」

「俺は今ようやく理解した。沢野佳世はただの恋愛脳じゃない、カップル厨だ」

「カプ厨……厄介だね」


 確証があるわけではないが、俺と秋野以外にもそういう想像をするのならカプ厨である可能性が高い。

 試しに、ほんの試しに聞いてみよう。

 俺は振り向き、沢野に質問する。


「さ、沢野。俺たち以外にも、校内で気になってる二人組とかっているのか?」


 キラーンと眼鏡が光った。

 どうなってるんだ、フレームにライトでも搭載されているのか。目が全く見えないほどに光っている。


「やはり稲沢先生と山越先生はアツいわね。生徒間でも噂が立っているわ」


 ビンゴ、カプ厨である。

 稲沢先生と山越先生は男女だし、改めて思い浮かべてみれば付き合っているのではと噂されていてもおかしくない。


「な、なるほど。男同士とかも想像するのか?」

「少しだけね。男同士でべたべたしてる生徒は少ないから、女性同士ほど興味があるわけじゃないわ」

「そうですか……」


 BLはそこまでじゃないと。俺と一之瀬がターゲットにされたのは気になるが一旦忘れよう。


「あ、もちろん杉坂くんと秋野さんは特別よ? 昔の思い出もあるもの」

「……ほどほどに頼む」


 俺が大丈夫でも秋野が嫌がるかもしれない。

 秋野は顔を赤くしたままもじもじし、どこか遠くを見ていた。

 見たところ恋愛経験がなさそうだ。俺もだが、俺以上に耐性がないと見える。

 あまりいじめないでやってほしい。秋野は思った以上に純情なのだ。そっちの世界に引き込んではいけない。


「秋野さん? 大丈夫かしら」

「えっ、あっ、うん。大丈夫大丈夫! もーからかわないでよ!」

「ごめんなさいね。ふふっ、私人の恋愛が好きなのよ」


 人の恋愛が好き過ぎて、カプ厨になった委員長か。これはクラスメイトに話しても信じてくれなさそうだ。

 乾いた笑いが出てくる。どう会話に混ざろうかと思っていると一之瀬に服を引っ張られた。なんだよ。


「で、実際のところお前は秋野ちゃんのことどう思ってるのさ」

「どうって、友達だろ」

「恋愛感情は?」

「どうだろうな、多分ないと思う。そもそも、俺なんかには勿体ないだろ?」

「ふーん、どうだかねぇ」


 俺自身恋愛経験がないため判断できないが、仮に俺が秋野のことを好きになったとして告白できる気がしない。

 秋野に限らず、誰かを好きになって告白する自分が想像できないのだ。


「今更だけど、一之瀬くんはこれで納得できたかしら」

「え? あー、そうだね。いいんじゃない? 僕はもっと女子同士の妬みとかがあると思ってたからさー、認識は変わったよ」


 食堂での一之瀬の行動はやりすぎではあったが、善意によるものだ。

 それも、沢野が嫉妬深いだとか、裏は腹黒い女だと思っての行動だったのだろう。

 沢野の正体が判明した今、その心配は杞憂となった。

 ……まあ、また別の心配が生まれてはいるのだが。


「それは良かったわ。これでちゃんと友達になれるわね」

「おいおい、もう許していいのか? こいつ、食堂であんなこと言ったんだぞ? 何か罰を与えるべきだと俺は思うね」

「えっ」


 若干口角を上げながらそう言うと、沢野もにやりと口元を歪ませる。

 謝っていなかった一之瀬が悪い。昼休みが終わる前にちょっとだけ遊んでいこう。


「そうね、確かに。秋野さん、何かアイデアはあるかしら」

「あっ、あたし? えーっと、あの時周りに人がいたわけだから……周りに人がいる状況で謝る、とかかな?」

「ごめんなさい! すんませんした!!!! 勘弁してください!!!」


 一之瀬は超高速で土下座をした。

 人前で謝るよりもよっぽど恥ずかしいと思う。この土下座、あまりにも安すぎる。

 そして秋野、普通に恐ろしいことを言う。今できるちょっとしたいじりをするものだと思っていたが、まさかそんな発想が出てくるとは。


 何はともあれ、最後は笑い話で済んでよかった。

 これからも、秋野は沢野と仲良くしていくことだろう。友達が増えて、親友に一歩近づいた。

 友達作りは、無理にする必要はない。今いる友達を大切にすればいいだけだ。


 ならば後は、思い出巡りか。

 今度は、どこに行こうか。今度は一之瀬と沢野を連れて駄菓子屋に行ってもいいかもしれない。

 なんだか、それを想像するだけで楽しくなってきた。


 ああそうだ、どうやって遊ぼうかとか、みんなと一緒にどこかに行こうかとか、ずっとそんなことを考えていたのだ。

 ずっと考えていたから、ずっと楽しかった。

 そんなことも忘れてしまっていた。俺も、思い出巡りで何かを思い出すかもしれない。

 次は、俺自身も忘れてしまった思い出を探そう。

次回『一之瀬湊の暴走』

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