01話 三大欲求について
人間には三大欲求というものがある。
『食欲・性欲・睡眠欲』だ。
人は食物を摂取してエネルギーを補給している。生命活動を維持するのにエネルギーは必須なわけで、食事をしただけで叱られるということはまずないだろう。
性欲に関してもそうだ。種を繁栄させるためには必要不可欠。愛し合った二人の間に子どもができたからといって誰が責められようか。
睡眠も必須だ。人は、動物は、魚は、寝る。いつ天敵に襲われるかも分からない野生生物もみな寝ずにはいられない。寝ない方が活動時間も伸びるし、獲物を捕らえる機会だって増えるだろう。だが、寝ない進化をした生物はいない。生物にとって睡眠とはかくも重要な要素なのだ。
そう、だから――
「始業式の最中に盛大に爆睡をかました僕を誰が責められようか、いや責めらない」
「責められるわ。バカ」
「痛い!」
ゴッ!と鈍い音が頭に響く。持っていた本で頭を殴られたらしい。
「酷いですよ先生!これ以上バカになったらどうするんですか!」
「大丈夫だ。見捨てるから」
「ふざけんな!」
ここはギルド員養成学園職員室の一角。
学園長の無駄に長くつまらない話が延々と続いた始業式で立ちながらの盛大な爆睡を決め込んだ僕ことアイル・ウィンストンは現在、血も涙もないと称されるロード・ギリッシュ先生監視の元、反省文を書かされていた。
元はといえば始業式に重要な生命維持活動をした僕もほんの少しは悪いのだが、いささかこの罰は重過ぎると思う。
「後、教師に暴言吐いたから反省文10枚追加で」
「先生!その罰はさすがに理不尽だと思いますので素直に謝りますごめんなさい」
重過ぎるとか思った僕が浅はかだった。この先生にはこれくらい日常茶飯事。こんな反省文程度ではまだまだ足りないと思っている節まである。
「分かればいいんだよ」
満足そうにうなずくと、僕を叩くのに使った本をパラパラとめくりながら大きな欠伸をひとつ。
……月夜ばかりと思うなよ。