表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

7.最低だわ

最低な結婚式の事はすっかり忘れてしまおうと努力して数ヶ月。

ヘレナは事ある毎にサティアを連れまわし、茶会やパーティーに連れ出しては「うちに娘が増えましたの」なんて自慢を繰り返す。サティアの知らない人ばかり。皆にこにことヘレナの話を聞くばかりで、言ってしまえば、とても退屈だ。

そんな日々を送り続けてきたが、今日はとても嬉しい日。大切な友人の結婚式だ。かつて憔悴しきって引き籠っていたとは思えない程、友人は美しい花嫁としてそこに存在している。隣で微笑む新郎は、真っ白なタキシードを着て、愛おしそうに新婦を見つめていた。


「とっても綺麗よ、セレス」

「ありがとうサティア」


満面の笑み。羨ましい。すっきりとしたデザインながら、腰に大きなリボンを結んだ真っ白なドレスを着て、指にはお揃いの結婚指輪を嵌めて。セレスとアランらしい、華やかで優しい雰囲気の式だった。

厳かな結婚式から、今は披露宴替わりのガーデンパーティー。そこかしこに真っ白な薔薇と真っ赤な薔薇が飾られ、多すぎない数の客人たちは幸せそうな新婚二人を見守っている。


「私たちの式に招待出来なくてごめんなさい」

「良いのよ、今日来てくれただけで嬉しいわ」


セレスも呼びたいと何度もヘレナに頼み込んだが、セレスの髪を理由に許して貰えなかった。勝手に呼んでしまおうと思ったのだが、もしそれで当日セレスに何か嫌味でも言われたらと思うと、無理に呼ぶことは出来なかったのだ。

それでも式に呼んでくれたことが、今のサティアには嬉しくもあり、どろどろとした醜い嫉妬をさせてもいる。


「やあ、来てくれて嬉しいよサティア殿」

「ご結婚おめでとうございます、ゴールドスタイン様。私の大切な友人をどうかお願いいたしますわね」


キラキラ輝く金髪。自分の夫とは正反対。ああ、羨ましい。幸せそうな二人。幸せな結婚式。どうして、私は上手くいかないの?

そんなどろどろとした感情を必死で押し隠して、サティアは笑顔を浮かべ続けた。


「団長殿、奥方を独占していて申し訳ない」


先程から黙って隣に立ち続けるギルバートに、アランが穏やかに話しかける。アランはギルバートの部下なのだと、招待状が届いた時に知った。部下と新婦の友人なのだからと、夫婦で参加するのは構わないのだが、祝いの席なのだからもっとにこやかにしてほしいものだ。


「構わん。妻が楽しそうに話しているのを止めることもあるまい。それよりも、新郎新婦の挨拶回りを引き留めてすまんな」

「あ…そうよね、ごめんなさいお二人とも」

「良いのよ、サティアとお話したかったんだもの。でもそろそろ行かないと…どうぞゆっくりしていってね」


嬉しそうにアランの腕に掴まりながら、セレスは客人の間を歩いて行く。

羨ましい。本当は自分もこんな式がしたかった。あんなドレスが着たかった。指に嵌っているごてごてと石が付いた指輪より、もっとシンプルなものが良かった。

揉める事を恐れずに反抗しておけば、あの日の思い出はもっと幸せなものだったのだろうか。

見知らぬ人ばかりの式とパーティー。婚約指輪も結婚指輪も、ごてごてと石が多く飾られて重たいし、ドレスは全く好みでなく、ただ布に埋もれただけ。


「どうした」

「いえ、なんでもありませんわ」


そう言うしかないじゃないか。だって、夫はあの日の事は何一つ気にしていないのだから。妻が落ち込んでいたって気付きすらしない。別の部下に声をかけられ、妻を紹介して、少しの会話を楽しむ。

それを何度か繰り返し、お開きとなったパーティーから撤退する。

嬉しい日の筈だったのに。大切な友人の、人生で一番幸福で、大切で、嬉しい日を心の底からお祝いするつもりだったのに。

どうして、こんなにも心が重たいのだろう。馬車の前で手を差し出す夫の手を取りながら、友人への詫びを何度も心の中で繰り返した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ