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10.やっぱり相容れません

相変わらずヘレナは苦手だ。子供はまだかとせっついてきたり、化粧が野暮ったい、髪型はこうした方がいいだの、あれこれ口出しをしてはサティアをうんざりさせた。


「ギルバートとはどうなの?」

「どう、とは…?」

「仲良くやっているの?新婚なのに夫婦仲が悪いんじゃ、孫も期待できないわ」


まだ結婚して半年も経っていない。そんなにすぐに授かれるのかは分からないが、そもそも子供ができるようなことを殆どしていないのだから、期待されても困る。

それに、最近はまたヘレナに連れまわされる日が続き、疲れ切って眠ってしまう。


「子は授かりものと言いますし…」

「あら、結局は数よ」


何て下世話な事を言うのだろう。控えているメイドたちの同情の目が痛い。


「それよりもお母さま。今日のドレスは一段と素敵ですわ」


心にもない言葉を吐いて、さっさと話題を変える。真っ赤な布地に黒い刺繍。派手すぎるデザインのドレスを着こなしているのは、ヘレナのはっきりした顔立ちと長身だからだろう。それは少しだけ羨ましい。


「この間作ったの。素敵でしょう?」

「はい、とても。黒薔薇の刺繍が赤によく映えますわ」


気に入りのドレスを褒められて気を良くしたのか、どこのデザイナーの作品だとか、同じデザイナーのドレスを何着も持っているだとか、ヘレナの話は止まらない。

それでも、相槌さえ打っていれば良いのだから楽なものだ。

お茶会やパーティーでは、気の利く嫁を演じなければならないし、また会った時に「はじめまして」なんて言ってしまったら困ると、何処の誰で、どんな話をしていたのか記憶するのに必死だった。部屋には日記帳と併せて、ヘレナの友人帳まで作ったのだ。


「貴女もドレスくらい作ったら良いのに」

「もう十分持っておりますわ」

「遠慮すること無いわ。うちの鴉たちは見た目は陰気だけれど、お金だけはあるのよ」


何てことを。その金は領民たちからの税だったり、城勤めをして稼いだもののはずだ。ドレスや宝飾品を買い漁る為の金ではない。

ぐっと拳を握りしめるが、何とか耐える。今ここで喧嘩にでもなったら、誰にカップが飛ぶか分かったものではない。


「では、ギルバート様にお願いしてみますわ」


◆◆◆


腹立たしい。腹立たしくて仕方がない。午後から友人のところに行くと言うヘレナと別れ、クラリスをお供に庭を進む。

普段よりも随分早い歩みだが、長身のクラリスは何食わぬ顔でさっさと着いてくる。

この屋敷の人間は背が高い人間ばかりだ。自分一人だけ小さくて、巨人の中に放り込まれた気分だ。


「なんなの!あのドレス一着作るお金で一体どれだけの事が出来るか!」

「奥様はああいうお方です」

「まだ戦争で荒らされたゴールドスタイン領の復興だって終わっていないのに!侯爵家の妻が無駄遣いしている場合?少し支援してやるなりすれば家同士の繋がりになるでしょうに!」

「奥様は、息子を三人も産んだのだから、私の仕事はもう終わりだと仰っております」

「意味が分からないわ!」


ぜいぜいと息を荒げ、漸くサティアは足を止める。ビルとの約束通り、舗装されている所しか歩かないあたり律儀だ。

侯爵家の妻でありながら、夫を支えることもせず、毎日のように出歩いて、その為にかなりの頻度でドレスや宝飾品を作っている。

新しいドレスが出来る度に、サティアに見せては褒められて、満足げな顔をして出かけるか、サティアを引っ張って出かけていく。

何の為にここにいるのだろう。王都で他家の奥方たちと繋がりを保つ為だと言うのならそうなのだろうが、それにしたって金を使いすぎだ。

いっそ領地に戻って夫を支えてやれば良いのにと思うが、どうせ絶対に戻りはしない。夫の事を毛嫌いしているのだから。


「何だか疲れたわ」

「お休みになりますか」


ふうと大きく息を吐いて、興奮しすぎたのか熱くなった体を冷まそうと手をパタパタと動かしてみる。全く効果が無いのか、だんだんと頭がぼんやりしてきた。


「サティア様、お顔が赤いようですが…」

「興奮しすぎたわ」


足元が少しふらつく気がする。くらくらと揺れる頭を押さえると、興奮しすぎたのとは違う熱さを感じた。


「いけません、お熱があるようです。お部屋に戻りましょう」


ふらついたサティアをクラリスが支え、ゆっくりと寝室へ歩き出す。随分と歩いてきてしまった数分前の自分を恨みながら、サティアはなんとか足を動かし続けた。

明日はギルバートとのお茶の日だったのに。早く治してしまわなければと、それだけを考えて、一歩ずつゆっくりと歩き続けた。


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