64/108
1:愛されなかった
この悲劇の館で死んでいくんだ。それ以外の死に方はない。
エドガー・アラン・ポー(巽孝之訳)『アッシャー家の崩壊』
四年前の雷雨の夜。
波が浜辺の砂をさらって行くように、青年の意識は、深い晦冥の底に沈もうとしていた。
──どうして、誰も……俺のことを、愛してくれないんだ……。
落雷により瀕死の状態に陥って尚、頭に浮かぶのは同じ問いだった。それほどまでに、彼は他人からの愛を──とりわけ彼女に愛されることを、望んでいたのだ。
しかし、愛されなかった。
彼を受け入れてくれる者は、結局誰一人として、現れなかった。
──鮎子さんだけじゃなく……織部さんですら、俺を見棄てた……。
──どうして、俺はこの世に生まれて来てしまったのだろう? 誰にも望まれてなど、いやしなかったのに。
──何故、俺を生み出したのですか? 教えてください……。
──お父さん。
まるで、海中に沈みながら、小さな泡沫を吐き出すかのように。
届くことのない問いを発した直後、彼の思考は、闇に閉ざされた。




