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流浪園殺人事件  作者: 若庭葉
第三章:薔薇の下
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3:結果はご覧のとおりだ

 軍司さんが退出したことにより、自然と集まりはお開きとなる。みな席を立つ中、緋村と僕だけはすぐには動き出せずにいた。

「大丈夫か?」

 倒れた椅子を戻しつつ、緋村に声をかける──が、反応はない。彼が口許に手を当て、その場に立ち尽くしていた。

 と言っても、軍司さんの剣幕に萎縮してしまったのではなく、思考を働かせているのだろう。

「そう言えば、衣歩ちゃんの様子はどないや?」

 楡さんが東條さんに尋ねるのが聞こえた。

「もう大丈夫そうですよ。さっき目を覚ましたんですが、正常に会話できていましたから。もちろん、かなりショックを受けている様子でしたけど……」

「そうか。そら辛いわな。──今は、幸恵一人で付き添ってるんか。あいつも休めてないはずやし、私が行って交代したるか」

 二人は連れ立って、食堂をあとにする。

 また、織部さんは昼食の支度をする為、厨房へと引っ込んだ。気付けばもう十二時を回っている。すぐに出せるよう準備をしておくので、食べたい人はのちほど声をかけてほしい、とのことだった。

 最後に僕と緋村だけが残る。他の人の耳がなくなったところで、何を考えているのか緋村に尋ねようとした。が、そうするよりも先に、彼は動き出す。

 部屋に戻るのかと思ったが、そうではなかった。緋村は何故か、まっすぐに厨房へと向かう。

 慌てて僕が追うと、彼はドアを開け、中に声をかけた。

「織部さん。一つ質問したいことがあるのですが」

 冷蔵庫の扉を開けた使用人は、驚いた様子でこちらを振り向く──途端に、奇異な物でも見るかのように、目を細めた。軍神様に恫喝された直後だと言うのに、こいつはまだ捜査を続ける気なのかと、呆れているのだろう。

「……なんでございましょう?」

「薬品室のコレクションの中に、()()はありませんでしたか?」

「い、いえ、そのような物はなかったはずです。もちろん、人体にとって有害な薬品は幾つかございますが……摂取した途端死に至らしめるような物など、収蔵してはおりません。繭田様が亡くなったのは、お二人が部屋を出てから引き返すまでの、ごくわずかな間なのですよね?」

「ええ。ほんの何分か──長くとも四、五分ほどでしょう。となると、やはり犯行には、強力な毒物が用いられたと考えるべきですね」

 礼を述べ、すぐさま踵を返しかけた彼を、織部さんは呼び止める。

「お待ちください。差し出がましいことを言うようですが、あとは警察に任せた方がよろしいのではありませんか? 先生の堪忍袋もそろそろ限界のご様子ですし、お二人も朝からずっと調査を続けていてお疲れでしょう。事件のことはもう考えずに、お休みになるべきかと……」

「……そうですね。では、もう少しだけ調べてから、休憩することにします。心配してくださり、ありがとうございます」

 聞きわけがよすぎて、かえって信用できなかったのだろう。まだ何か言いたげな織部さんの視線を黙殺し、彼は扉を閉めた。

「どう言うことなんだ?」

 二人のやり取りを聞いていた僕は、堪らず尋ねる。

「君の推測どおりなら、犯人の動機は誉歴さんの遺産を盗もうとした三人を誅殺すること、なんだよな? つまり、殺意はこの島に来てから芽生えたわけで、犯行は計画的な物ではなかったはずなのに……犯人はいったいどこから、毒物を調達して来たんだ?」

「……わからねえ。薬品室の中にあった可能性も考慮してみたが、結果はご覧のとおりだ。そもそも、事情聴取の時点で、持ち出された物は何もなかったと言っていたしな」

「となると、やっぱり犯人は、ここへ来る前から犯行を企てていたことになるのか? そして、凶器の毒物も、事前に用意していた?」

「かもな。もしかしたら、犯人はもっと以前から三人の企みに気付いていて、彼らを一網打尽にする為に、この流浪園を事件の舞台に選んだのかも知れねえ」

 しかし、それでは犯人は何故、彼らの悪巧みを察知することができたのだろうか?

「ここで考えていても仕方ない。この件はあと回しにして、ひとまず繭田さんの部屋を調べてみようと思う」

「やっぱり、捜査をやめる気はないんだな。それはいいけど、今朝から働き通しでさすがに疲れただろう。そろそろ休んだらどうだ?」

「あとでちゃんと休憩するさ」

 本当だろうか? もしそこで何か新たな手がかりが見つかれば、余計に休むどころではなくなるのではないか?

 彼が無理をしすぎぬよう、見張っておくべきかも知れない。そんな風に考えつつ、僕も第三の事件現場へ同行するのだった。

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