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最悪の魔女スズラン2 四季の帰り路  作者: 秋谷イル
旧スズラン編

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三章・スズランの魔法(4)

 私達が例によって社長室の窓からビーナスベリー工房社内へ戻ると、アイビーさんの姿を見つけた社員さん達が一斉に集まって来ました。皆さんなんでここに?

「しゃ、社長! どこに行ってたんですか心配しましたよ!」

「ご無事ですか!? もっとよく見せて下さい!」

 上司というより我が子を心配するかのような面持ちで入れ替わり立ち代わり彼女の前に立つ彼等。普段は敬意を持って接していても、内心この小さな社長さんをどんな風に見ているのかがよくわかる光景です。

 もちろん怒られました。

「ええいうるさい! 私がどこにいようと私の勝手でしょう! 君達こそ就業時間中だというのにどうした!? なんで社長室に集まっている!」

「え? いや、だってそれは」

「あんな竜巻を見たら誰だって心配になりますよ、天変地異の前触れじゃないかって」

「ほんとほんと、なんだったんでしょうね、あれ」

「人気の無い場所だったし、すぐに消えたから良かったものの、なあ……?」

「竜巻……ああ、なるほど」

 皆が集まって来た理由を知ってこちらを見るアイビーさん。

 ちょ、やめてくださいな。今はこっちを見ないで。つられてこの場にいる全員の視線が私に──というかクルクマのお腹に集まりました。

 ツナギがポッコリ膨らんでいます。

「えっ……クルクマさん、それ……」

「ご懐妊、ですか?」

「スズちゃんですよ! もう、いいかげん出て来てよスズちゃん!」

「だ、駄目です、顔が見えてしまうでしょうっ」

 実は私、ここに来るまでの間ずっとクルクマのツナギに隠れてお腹にしがみついていたのです。結局着ぐるみの頭部が見つからなかったため暫定的な処置として。

「えっ、そこにいるのスズランさん!?」

「わあっ、白い髪だったんだ?」

 この声は先程廊下で話した女性社員さん達? 他の方々の気配も好奇心にかられて近くへ寄って来てしまいました。

 まずい、囲まれた。

「わあっ、綺麗な髪」

「単に白いだけじゃなく虹色に輝いて見えるな、どうしてだろう?」

「いいじゃないですかスズランさん。私達もう同じ会社の同僚なんだし、顔くらい見せてくれたって」

 と、私に向かって手を伸ばす何人かの社員さん達。流石にクルクマも慌てて両腕で私を隠します。

「あっ、やっぱ、顔出しはまずいんでこの子!」

「ええっ、なんでですか? こんなに綺麗な髪なんだし、きっとお顔だって──」

「いや、本当に駄目なんですって!」

「ノー! ノーですわ!」

 顔を見られまいと私もさらにきつくしがみついてクルクマのお腹に自分の顔を押し当てました。すると何故か彼女はビクビク痙攣し始めます。

「あっ駄目スズちゃん! そこまで密着されると、ふあっ!?」

 突如脱力してその場にへたり込んでしまう彼女。何事かと思う間もなく尻餅をつく形になった私は、勢い余ってツナギの外へ放り出されました。

 呆気に取られた顔でコテンと仰向けになった私に、社員さん達の視線が集まります。

 次の瞬間──


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

「び、び、び、美少女!? 想像の百万倍美少女ッッッッッッ!!」

「かわいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

「あううう」


 あっという間に女性社員達に抱き上げられ揉みくちゃにされる私。ま、まだ魅了の魔法も使ってないのに、自分の容姿が恐ろしいですわ。

 でも、当然すぐに何人かがある事実に気付いて眉をひそめました。

「あれ? オレ、なんかこの顔、どこかで見た気がする……」

「たしかに割と頻繁に見かけるような……」

「──あっ」

 どういうことか察した方々から順に青ざめていきます。まあ、そうですよね。そういう反応になりますよね。だから隠していたのに。

「さ、ささささささささささっ」

「最悪の魔女!?」

「そうだヒメツルだ! あの最悪の魔女にそっくりだぞ、この子!!」

「あああ……ご、ごめんスズちゃん」

 まだ腰砕けのクルクマが目をぐるぐる回しながら謝ります。もう遅いですわ。というかなんでそんなになってますの貴女?

「えっ、ヒメツル?」

「さ、最悪の魔女……って、死んだはずじゃ……」

「待って、まさかスズランさん……」

 私を揉みくちゃにしていた女性社員達も恐れをなして離れて行きます。予想はしていたけれど割と傷付く反応ですわね。

 次の瞬間、混乱に陥りかけた空間へ鶴の一声が放たれました。


「娘よ」


 アイビーさんがキッパリ言い切ったのです。再び皆さんの目は彼女へ向けられました。

「娘……? あの最悪の魔女の?」

「社長はご存知だったんですか?」

「ええ、当然知っていて連れて来たの。その子は“最悪の魔女”ヒメツルの娘。でも別に悪い子じゃないから落ち着きなさい。ここへ来てから今日までの間その子が何か一つでも悪さをした?」

「い、いえ……」

 顔を見合わせて首を横に振る皆さん。

「言われてみれば、まあ、そうだよな……」

「むしろついさっきまで礼儀正しい良い子だと思ってたし……」

「というか良い子なのよ」

「あたしったら、なんて失礼なことを……」

 反省の色を浮かべて再びゆっくり近寄って来る女性社員の皆さん。目の前で深々と頭を下げて謝られました。

「すいませんスズランさん、取り乱してしまって」

「スズランさんはスズランさん。お母さんとは違うんですよね」

「え、ええ、まあ……」

 実は謝られる筋合いなど無いのですが、まさかヒメツル本人ですなんて名乗るわけにもいかず適当に相槌を打ちます。

 するとクルクマがすかさず話に割り込んで来ました。

「皆さん、スズちゃんは実の母親と会ったことはないんです。父親もわからず、タキアの小さな村で捨て子として拾われて以来、優しいご両親に育てられて成長しました。なのでどうか怖がらないであげてください。スズちゃん自身はごらんのとおり、とっても純粋で優しくて可愛い女の子なんですよ」

 ちょっと、演技のハードル上げるのやめてくださる!?

「そ、そういうわけですから、私は実の親みたいに悪いことはしませんよ?」

 両手を持ち上げ手の平を見せ、ぎこちない笑顔を浮かべて精一杯無害をアピール。その甲斐あってか皆さん徐々に警戒心を解いて下さいました。

「そうだったのか……」

「事情も知らずに酷い態度を取ってしまった」

「ごめんなさいスズランさん! 本当にごめんなさい!」

「い、いえいえ」

 女性社員の皆さんから熱烈な抱擁と頬ずりを受ける私。こんな着ぐるみを着ているから本物のぬいぐるみにでもなった気分ですわ。

 ハァハァと呼吸を荒くしながら彼女達はアイビー社長に問いかけます。

「しゃ、社長、この子うちで育てましょう」

「なんでしたらご両親も招いて」

「いやいやいや」

 私、あの村を離れるつもりはありませんわよ。今のところはまだ。

「そういうわけにもいかないでしょう。馬鹿なことを言ってないでそろそろ皆それぞれの職務に戻りなさい。

 それと、当然だけれどスズランの母親については社外秘。絶対に誰にも口外しないこと。家族だろうと友人だろうと漏らした子にはお仕置きするからね」

「ひっ……」

 アイビー社長に睨まれた社員の皆さんは、私をそっと床に下ろして大慌てで出口へ殺到しました。

「りょ、了解です社長」

「絶対に秘密は守ります」

「社長、可愛いけどやっぱり怖っ」

 などなど口にしながら社長室を出て行きました。残ったのは私とクルクマと社長、それから社長秘書の女性だけ。たしかお名前はナナカさんでしたかしら?

「ナナカ、貴女も少しの間、外して」

「かしこまりました」

 疑問も異論も挟まず一礼して言われた通りに退室する彼女。さっきの騒ぎにも一人だけ全く関心を持たず黙々と仕事を続けていましたし、クールな方ですわね。

 で、人払いをしたということは……。

「まだ私達に何か?」

 問いかけたクルクマには答えず、社長は椅子に座りながら私の方を見つめます。

「用があるのは彼女の方よ。そうでしょ? スズラン」

「ええ、例の報酬の件でお願いが」

 アイビー社長は言いました。今回の一件で成果を見せたらそれに応じた報酬も支払うと。彼女が何をくれるつもりだったのかは知りませんし、私としてはさほど興味もなかったのですが、昨夜事情が変わりました。

「単刀直入に言います。モミジを──」

「わかってる」

「あ……」

 そうか、森の中での出来事は全部彼女に伝わっているのでしたわ。だから人払いをしてくれたんですのね。

「その要望は受け入れましょう。元々こちらとしてもあなたが手を加えた彼女は異物だと認識していたから問題無いわ。けれど私が認めたところで、それだけではあの子の願いは叶えられないでしょ?」

「うっ、たしかに……」

 方法まではまだ考えていませんでした。なんかこう力技でどうにかなりそうな気はするのですけれど。

 悩む私にアイビー社長は的確なアドバイスをくれました。

「ロウバイとナスベリを頼りなさい」

「えっ?」

「普通なら無茶な話だけれど、貴女の出鱈目な魔力ならロウバイの術さえ習得すれば十分可能だわ。

 ただし、あの術を操るには繊細な制御技術が必要よ。今の貴女に最も欠けているものね。私が教えてもいいのだけれど、その点に関してならナスベリの方が上。あの子には社員の技術指導も任せてあるの、教え方は私より上手よ。それに彼女のいる場所からならココノ村にもすぐに顔を出せる。貴女にもその方が都合が良いんじゃない?」

 そうですね、そろそろ一度くらい村に戻っておかないと、父はともかく母の様子が心配です。あとついでにモモハルも。

「クルクマ、例の素体をロウバイと適合させるまでどのくらいかかる?」

「そんなことまでお見通しですか……まあ、急げば五日ほどかと」

「別に急がなくていい。しっかり調整してあげて。彼女には私も何かと世話になったもの、親しい者達との別れの最中に器が崩壊するなんて悲しい目には遭って欲しくないわ」

「となれば、一週間から十日ほどになると思います」

「そう──ではスズラン、貴女は先にナスベリのところへ。貴女は師を持たず独学で魔法を身に着けた。だから技術が伴っていないだけで学習能力自体は高いわ。ナスベリの指導を受ければすぐにあの術をある程度使えるようにはなるでしょう。向こうにはすでに連絡してあるし、いつでも行っていいわよ」

「は、はい」

 とんとん拍子に話が進められて、私は感謝するより先に舌を巻きました。この方、もしかして最初からこうなることを読んでいましたの?

「えっと、じゃあ着替えたら行って来ます……」

 そう言って出口に向かって振り返る私。

 ところが、

「は? 何を言っているの?」

「駄目だよスズちゃん」

 アイビー社長とクルクマの二人に同時に呼び止められてしまいました。行けと言ったり行くなと言ったり、なんなんですのもう?

 二人とも窓の外を指差して怒ります。

「もう夕方よ。今夜はここにもう一泊しなさい」

「そうだよ、子供が夜に出歩くなんて危ないでしょ」

 いや、昨日は貴女達同じ時間帯に私を送り出したでしょう?

 けれどもたしかに急いては事を仕損じると言います。今日はここでゆっくり体を休めて行くとしましょう。どうせ私の飛行速度ならタキアまで大した時間はかかりません。

「それに、どうせなら皆で送別会も開きたいでしょ」

「失礼します!」

 嫌な予感がして逃げ出す私。すかさず社長が指示を出します。

「捕まえて!」

「はい社長!」

「裏切りましたわねクルクマ!?」

 着ぐるみのせいで動きが鈍くあっさり捕まってしまった私は、その晩、予想通り社員の皆さんも集められた送別会の場にて女性社員達のおもちゃになり散々いじくり回されたのです。着せ替えられたり頬ずりされたり、恋話を根掘り葉掘り問い質されたり。

 おかげで大変疲れました。すぐにタキアまで行ってた方がマシでしたわ!

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