七章・小さな結実(1)
翌日、私とクルクマはビーナスベリー工房へ戻りました。結界の修復が思ったより遅いとのことでアイビーさんは森にもう数日留まるそうです。今度はついでに例の“聖地”へ顔を出すと言っていました。
『頑張ってみなさい』
別れ際に言われた一言を思い出します。どうもあの方は、私が新しい案を思いついたと見抜いているようですね。もしかしたら内容まで? それで止められなかったのですから見込みのあるアイディアなのかも。
いえ、そんな風に油断してはいけません。とにかく今は、この発想をとことんまで突き詰めてみるべき。
私とクルクマは早速ビーナスベリー工房の皆さんの力を借りて試作品を作り出し、それを基に改良を重ねました。
「磁石を使うとは考えましたね。冷蔵箱をはじめ多くの製品に使っているパーツですから、いくらでも在庫があります。それにこのサイズなら端材を再利用してもいい。この部分で大幅にコストを削減できる」
「へえ……面白い。たしかにこりゃ俺みたいなオジサンには考えつかないな。女の子ならではって気がするよ」
「でも大丈夫かね? あの社長を納得させなきゃいけないんだろ? 動力を内蔵して馬がいなくても走れる車にNOを言った人だぜ? あれ自信作だったのに」
「私は良いと思いますよ。スズラン様らしい可愛い発想です。こういったものはらしさを出すことも大切なのではないでしょうか? どれだけ利便性に優れていようと、無個性な商品では手に取ってもらえません」
何人かは否定的でしたが、ナナカさんのように肯定的に受け止めてくれる方もたくさんいました。おかげで私も次第に自信をつけ始めます。
もちろんこのアイディアがすでに出願されているなんらかの特許に触れないかも調べてもらいました。
結果はクリア。
初めて、全く新しい発明だと認めてもらえたのです。
そしてさらに三日後──すでに会社に戻って来ていたのに、それでも一度も私達の元へ足を運ばなかったアイビーさんの前へ、ついに試作品を持ち込みました。
「早かったわね」
もっと時間がかかると思っていたのでしょう。覚悟を決めた表情で来訪した私達に対し、社長の椅子に腰掛けたままそう語りかける彼女。
「本当にいいのね?」
失敗したら二度とココノ村へは戻れない。
それでも挑むのか。
問われた私は、しばし迷いました。
けれどクルクマが背中を押してくれます。
「大丈夫。スズちゃんならできる」
『……そうですね』
失敗なんかしません。私には貴女と、協力してくれた皆さんがついているのですから。
アイビーさんは不意に苦笑しました。
「聞くところによると、けっこうな数の社員に協力してもらったようね。そのせいで今や私と工房の対決みたいな図式になってると聞いたわ」
『ええと、すいません……』
「いいのよ。貴女に協力するように言ったのは私だから」
そうなんですよね。あちこちで質問したり、助言を求めたり、あるいは試作品の製作や実験を手伝ってもらったりしているうちに、いつの間にやら多くの方から応援をいただくようになっていました。
「皆さん、スズちゃんの虜になってましたよ。素顔も晒してないのに」
『ナスベリさんの着ぐるみのおかげでしょう』
この愛らしいデザインが大いなる助けとなってくれたようです。あの方には改めて感謝しませんと。
「弟子は師に似ると言うけれど、たしかに貴女、クルクマと良く似てるわ」
『え? どこがです?』
「自分で考えなさいな。それより覚悟が決まっているなら見せてちょうだい。どんな物を作って来たの?」
実際にはすでに知っているのでしょうが、私達に向かってプレゼンを促すアイビーさん。
私とクルクマは頷き合って彼女の前まで進み出ました。そして大きな机の上に試作品を並べ、紹介します。
『これが私達の考えた“新製品”です』
「ごらんください」
さあ、ここが私の天王山。




