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最悪の魔女スズラン2 四季の帰り路  作者: 秋谷イル
新ナスベリ編

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終章・故郷の友人(1)

 ──次の日の昼、大人達が二日酔いから立ち直るのを待って、私達は揃ってお墓参りへ出かけました。

「うう……飲み過ぎた」

「クルクマさんから貰った酔い覚まし、まだあるわよ……飲む……?」

「オメエ、さっきそれ飲んで七転八倒してたじゃねえか。オレは絶対飲まねえぞ……」

「うぷっ、思い出させないでよ。たしかに酒は抜けたけど、薬の味を思い出すだけで吐きそうになるわ……」

 そんなになるなら、お酒なんて飲まなければいいのに。私とノイチゴちゃんは呆れ返ります。

「おとなってばかだね」

「ねー?」

 実はヒメツル時代に一度だけ飲酒してみたこともあるのですが、だからこそ不思議です。皆さん、どうしてあんな苦くて不味いものを飲みたがるのでしょう?

 挙句、呑み過ぎると二日酔いまで待っているのですから理解に苦しみますわ。

「まあ、ほとんどの人は憂さ晴らしとか酔って気分を盛り上げるために飲んでるんだよ」

 苦笑して友人達をフォローするナスベリさん。この人はアルコールの分解機能も優れているらしく、酔い覚まし無しでケロリとしています。

 ちなみに今その顔にはメガネが。突然のイメチェンですかと訊ねたところ、なんとアイビーさんのアイディアだそうです。


『ナスベリに暗示をかけたの。メガネをかけたらうちの社員。外した時にはココノ村でのあの子になれるようにね』


 それによって二つの人格の衝突を防ぎ、ゆっくりと統合させていくのだそうです。長く生きてるだけあって色々できる人ですね、あの人も。

 教会は村の北側にあり、先月の戦いでも被害を受けずに済みました。裏の墓地へ回ると、他にも何人かいらしてます。

「あ、クロマツさん。もう大丈夫?」

「おう、スズちゃん。それに皆。ワシャ酒には強いからの。もうなんともないよ」

 来年六十歳だったはずですが、健啖ですね。

「奥さんのお墓参り?」

「ん? ああ……」

 質問したナスベリさんは、微妙な顔のクロマツさんにさらに問いかけました。

「カラマツは帰って来ないの?」

「……ふふ、安心せい」

 一転、ニヤリと笑い、うちの両親を見つめるクロマツさん。

「そこの二人のおかげで、今年はとうとう顔を見せに来るそうじゃ」

「どういうこと?」

「カズラとカタバミはね、ずっと手紙を出し続けてるのよ。村から出て行った皆に」

 レンゲおばさまが説明を引き継ぎます。そうです、うちの両親が毎年この時期に大量に手紙を書くのは、そのため。

「行方不明だったあなたの消息を訊ねたり、たまには故郷へ顔を出してって頼んだり、筆まめなんだから、この二人」

「紙代も切手代も馬鹿になんねえのになあ。貧乏だった頃から続けてやがんよ」

 おばさまもおじさまも、呆れ半分感心半分の笑顔。

「そんなこと、してたんだ……」

「本当にありがとうな二人とも。おかげで、やっと孫達の顔が見れる」

 そういえばクロマツさんには、私達と同じくらいの年頃のお孫さんが三人いるそうです。私も会うのが楽しみ。

 何度も感謝するクロマツさんと別れ、私達もそれぞれの家のお墓を回りました。父の家のお墓、それから母の家のお墓へと移動します。

「あっ」


 突然、母が何かに気付いたような声。

 何事かと首を傾げる私に訊ねました。


「スズって、もしかして幽霊が見える?」

「え? う、うん」

 怖がらせてしまうから今までずっと秘密にしてきましたが、たしかに私には幽霊が見えます。おそるおそる頷くと、母は「じゃあ」と言ってお墓に視線を移しました。

「おじいちゃんやおばあちゃん、それとスイレンおじさんは来てない?」


 なるほど、そういうことですか。

 父と母は私がこの村に来る以前の大地震で家族を喪いました。父は両親とお兄さんと妹さん。母は両親と弟さん。

 今日は、そんな死者の霊が返って来ると言われるボンですものね。いるかもしれないと考えてもしかたありません。

 でも、残念です。


「ううん……誰もいない」

「そう、きっともう、次の人生を生きてるのね」

 死者の魂は罪深ければ地獄へ落ち、清ければすぐにでも輪廻の輪に還って新たな生命を得ると言われています。だから会ったことの無い祖父母も、伯父さんや叔母さん、それに母方の叔父さんも今頃はきっとどこかで異なる人生を歩んでいることでしょう。

 母は悲しそうではありませんでした。むしろ、どこか吹っ切れたような表情。その横顔が私にはとても眩しく見えます。


 私達は最後に、一つのお墓の前で集合しました。

 ナスベリさんがその前に屈み込み、メガネを外して合掌します。


「ただいま……じいちゃん、ばあちゃん。遅くなってごめん……帰って来たよ」

 彼女の祖父母も、やはり大地震で命を落としたそうです。いなくなってしまった孫娘のことをずっと心配していたと、先程クロマツさんから伺いました。


『あの二人も後悔しとったよ。お前さんをこの村に繋ぎ止めてやれる最後の砦だったのに、そんな自分達が馬鹿なことを言ったせいで居場所を奪ってしまったと。無事戻って来たらそれでいい。あの時のことを謝りたい。リンドウとトリトマにも詫びて、お前さんと村にいてくれるよう頼み込むってな』


「皆にも言ったけど、謝ることなんかない……むしろ、アタイら親子が馬鹿やったせいで悲しませて、寂しい想いさせてごめんな。いつか村に帰って来たら、必ず二人と同じ墓に入るよ」

 そう誓ったナスベリさんは最後に「ありがとう」と言って瞼を閉じました。

 この人は明日にはビーナスベリー工房があるオサカへ戻ってしまうそうです。いきなり仕事を放り出して故郷へ戻るような無責任な真似はしたくないのだとか。

 それでも、いつか果たすべき責任を果たして自由になれたなら、その時には絶対ここへ戻って来ると誓いました。


「スズ、いこうよ!」

「あ、コラ!」


 まだナスベリさんが祈ってる最中だというのに、突然走り出すモモハル。私はノイチゴちゃんの手を引いて後を追いかけます。背後からは大人達の苦笑する気配。

「どうしたのよ、いきなり!?」

「だって、はやくもどったほうがいいもん!」

「えっ?」


 ──その瞬間、私の脳裏にも映像が浮かび上がりました。


「なるほど、そういうこと……」

 アルトライン、貴方もたまには気の利く予知をくれるのですね。今回せっかくの協力を無駄にしてしまいましたから、しばらく干渉して来ないかと思っていましたが。人間とはやはり感覚が違うのかもしれません。あるいはそういう性格なだけか。


 でもね、モモハル。


「私達が先に行っても意味無いでしょ! ナスベリさんが来なきゃ!」

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