第6話~まさかの裏切り~
小野寺あかね内閣では初の、閣僚会議が始まった。
まずは当然、国防軍についての議論となった。まず岡本副総理兼防衛大臣が発言する。
「えぇ岡本です。この度私が防衛大臣に任命されたことにより、早速会見で発言した通り、国防軍を全面廃止。そして自衛隊明記に戻す、それを内閣府令で発令するつもりです」
するとこの閣僚の中で唯一藤谷派閥の人間である新法務大臣である古山光男が手を上げる。岡本があかねを見つめると、あかねが頷く。岡本が
「なんでしょうか。古山法務大臣」
古山が立ち上がり
「あの、私事で申し訳ございませんが、もう少しその件につきましては。議論を重ねた方がよろしいかと」
どうすればいいかと岡本があかねを見つめる。するとあかねが立ち上がり
「もしかして、藤谷幹事長からの命令ですか?」
少し古山は戸惑う顔を見せてそのまま黙り込む。あかねは少しため息をつきながら話を続けて
「もしそうだとしたら。答えはNOです」
「ですが。そうしますと今まで軍事費用として使ってきた税金は全て無駄になります。そうなると野党である平和民主党から相当の批判を受けますよ」
的確な意見だったが、あかねは少し笑顔になり
「それに関しましては既に解決案を見出しています。私が掲げた3つの政策覚えてますか?」
「えっとそれは。国防軍の廃止と消費税減税と・・・あっ」
古山は思い出した。それは国会議員の給料を2割カットであった。あかねは笑顔で
「分かりましたよね。それが答えです。2割の給料をカットにし、それで浮いた予算を国民に返します」
場が騒然となる。それについては山本官房長官や岡本も真相を知らずにいたため、少し驚きの顔をした。
それもそうだ。それで浮いた予算をただ別の国会費用に使うわけにはいかない。こんな軍事費用のために、払ってくれていた国民に謝罪と感謝の意味を込めての返金だ。あかねはそこまで考えていたからだ。
あかねは椅子に座り、岡本に後は任せたという合図を出した。そのまま岡本は古山に
「古山大臣。もうよろしいでしょうか?」
古山は悔し気な顔をしながら椅子に座った。そのまま午前11時まで会議は続き、終了した後は、総理控室に向かった。その道中。共に歩いていた岡本が
「あかねさん。前から気になっていたんですが。なぜ藤谷派閥のナンバー3である古山法務大臣を任命したんですか」
するとあかねが歩く足を止めた。そのまま岡本を向いて
「藤谷派の人間を一人だけ置いといて、あえて藤谷がどう出るか確かめたいの。さっきの会議だって、私はわざと挑発めいた返事しかしなかったの。それであいつがどう出るか面白いところよ」
「そういうことですか」
「あとちょっとだけ話があるけどいいかな?」
「はい。なんでしょう」
「私の部屋まできて」
岡本が頷き、そのままあかねの総理控室に向かう。
その頃、緊急会見を控えている藤谷の幹事長控室には、先ほど会議を終えた古山の姿があった。
憔悴しきっている古山を見て、藤谷が少し微笑みながら
「あんな小娘に負けたのか」
「仕方なかったんですよ。隣には岡本さんがいますし、彼は一応党のナンバー2でもあるんですから。逆らえませんよ」
少し藤谷は怒りの顔を浮かべ
「ふざけるな!何が岡本副総理だ、何がナンバー2だ。そんなことで俺たちが必死に立ち上げた法案を潰されるのを、黙って見てろって言うのか?俺は元防衛大臣だぞ。一国の小娘総理とどっちを信じるって話だぞ」
最後に笑いながら、立ち上がりそばにあった窓に近づく。
すると秘書が入ってきて
「藤谷幹事長。会見の準備が整いました」
すると藤谷が秘書に近づき
「例の件。頼んだぞ」
凄く重圧な声でその部屋を後にした。すると気になった古山が秘書に
「あの、どうかされたんですか?」
「藤谷幹事長に頼みごとをされたので。では」
秘書もその部屋を出ていく。
その頃も総理控室では、あかねと岡本、そして後から来た山本が椅子に座り話をしていた。まず言葉を切り出したのは岡本だった。
「あのあかねさん。聞きたいこととは」
あかねは重い顔をしながら
「あのね。知ってるとは思うんだけど。藤谷の会見のことなの」
すると岡本は笑顔になり
「あぁそのことですか。それなら心配ご無用。手は打ってあります」
「え?」
「あっ山本長官。テレビ付けてください」
山本が急いでテレビのスイッチを付けた。すると丁度藤谷の緊急会見が始まったところだった。大量のフラッシュがたかれる中、藤谷が喋り始める。
「えぇ今日はお集まりいただいたありがとうございます。皆様のご承知の通り、先日小野寺あかね総理と岡本副総理が会見を行い。私が立ち上げた国防軍廃止について話がありましたが。私は断固反対をいたします」
テレビの前にいるあかねらは、そういうと思ったのように見つめていた。
藤谷は続けて
「私がまるで、法律を悪用して国家転覆をはかったような言い方をされましたが、そんなことは断じてございません。こちらにいる秘書の木下から話があります。彼がすべてを知っています。」
すると隣にいた秘書の木下が、会見用のマイクの前に立ち喋り始める。
「何故私がこの場に立っているかわかりませんが。一応喋れと言われたんで喋ります」
すると隣の藤谷が小声で
「さっさと喋れ」
「あっはい。えぇ藤谷幹事長からもありました通り、国内防衛法案につきまして藤谷幹事長は」
あかねが必死になってテレビを見つめている。しかし岡本は笑顔だ。
すると木下が重い口を開き
「小野寺あかね総理と岡本副総理が発言した内容は・・・本当です」
「は?」
藤谷は驚いた表情をした。そんなの気に留めず、木下は話を続けた。
「藤谷幹事長は、以前こんなことを言いました。国なんて攻撃しないと守れないと」
藤谷は怒りの表情で
「おい木下!」
その頃テレビを見ていたあかねと山本は驚いた表情で岡本を見る。岡本は終始笑顔で
「言いましたよね。既に手を打っていると」
「どういうことなの?」
あかねは少し動揺しながら言った。岡本は訳を話している間。藤谷と木下は無理やり会見を中止させ、袖にはける。藤谷は少し怒りの表情を浮かべながら
「どういうことだ!話と違うじゃないか」
すると木下が睨みつけるような顔をして
「どうせあんたは終わりだ。幹事長だけではなく政治人生も」
「どういうつもりだ!何が言いたい」
「覚えてないんですか。まぁ覚えてませんよね。俺だって25歳になりましたから」
すると何か思い出したかのような顔をする藤谷。
その頃、総理控室では岡本が訳を話していた。あかねが驚きながら
「え?あの秘書。木下元総理の息子さん」
「あぁ、実は木下元総理は色々と面倒にならないように、子供存在を隠してたんだ。恐らく藤谷も息子の存在なんて知るはずもない」
山本が口を開く
「でもなんで藤谷の秘書なんかに」
「それは簡単だ。木下政権がなぜ崩壊したか知ってるだろ」
「確か、藤谷幹事長の汚職」
あかねは思い出した。確かに木下守政権は岡本の父親である重村元官房長官の告発により、藤谷は副総理を辞任し、木下元総理は責任を問われ総辞職した。その後に発足したのが祖父の小野寺武政権だ。
そう思いながらあかねが口を開き
「いつから協力していたの?」
「それは3年前に木下守政権が崩壊した直後、木下元総理から頼まれたんだ」
~回想~
木下守政権が総辞職して次の日だった。当時官房長官を務めていた岡本は木下守に呼び出されていた。
木下守と岡本は椅子に座り
「どうしたんですか?」
「実はな。息子の秀幸を知ってるよな」
「えぇお元気なんですか?」
木下守が重い顔をしながら
「あぁ、それでな。少し頼みがあるんだ」
「はい。何なりと」
「実はな。息子を藤谷の秘書に付かせたいんだ」
「え?」
岡本は少し驚いた顔をしながら、少し固まってしまった。
木下守は少し震えながらも
「俺は、藤谷をどうしても許せないんだ」
「ですが、私だって謝らなくてはいけません。父がこんな大騒動を起こしてしまって、挙句の果てに木下政権まで壊してしまって。申し訳ございません」
頭を下げる岡本。すると木下守が笑顔で
「君のお父さんはある意味被害者だ。藤谷のせいで君のお父さんの人生も壊れた。だからな岡本君。俺は一つの計画を練っている」
「計画ですか?」
「あぁ。それは藤谷の秘書に息子を付かせて。彼の悪事を見させる。そして世間に公表する。それが望みだ」
「総理」
木下守が微笑みながら
「私はもう総理ではない。小野寺君を官房長官である君が支えたまえ」
~現在~
「しかし、木下元総理はすぐに持病であった心臓病で亡くなってしまった。私はそんな木下元総理の計画を引き継ぎそして実行させる。そう息子の秀幸さんに伝え、協力してもらった」
少し岡本は涙目になりながら言ったのを、山本とあかねは黙って聞いてるしかなかった。
その後、見事にメディアで藤谷の悪事が取り上げられて、藤谷は結局幹事長を辞任せざるを得なくなった。
~終わり~