00.50年前
プロットを作ったのに他のネタに浮気しそうなので、退路を断つためできあがっている冒頭部分のみ公開します。
「俺ごとやれ!」
黒と赤の巨人――憑竜機ザッハークから放たれた咆哮が、邪神の内部に響き渡った。
ザッハークに乗り込み、巨大兵器と同化している甲斐智也。
つまりそれは彼自身の言葉であり、最初から決まっていた決定事項だった。
しかし、それを受け取るほうは別。たまったものではない。
「甲斐さん、貴方という人は!」
背に砲塔を背負った青い機体。憑竜機ルーグから、搭乗者の怒りが漏れ出でてオーラを纏う。
その肩を掴んだのは、白黒赤青緑。五本の腕を持つ異形の憑竜機ティアマトー。
「カレンやるしかねえ!」
「ですが、ネブラ!」
「やらなきゃ、それこそカイは犬死にだ!」
「それは……っっ」
カレン――星見花蓮が咄嗟に視線を逸らす。
彼女が。そして、一心同体である憑竜機ルーグが顔を向けていた場所。
そこでは、黒と赤の憑竜機が、抱きつくようにして人型をした影の動きを止めていた。
――その胸を、黄金色の螺旋で貫かれながら。
人であれば、即死。
しかし、憑竜機と呼ばれる人型巨大兵器であれば致命傷で済む。
今も、破孔からは魔力の火花が飛び散り、破滅を予感させながらも撃墜には至っていなかった。虚影が操る光の螺旋を巨大な手で掴み、がっちりと動きを食い止めている。
邪神。その本体を相手に、一歩も引かず。
「星見さん、あんまこういうことは言いたかないけど……ここでやらなきゃ、全部無駄になるぞ」
突如として、このルシエン大陸に現れた“名もなき邪神”。
邪神は、自らの体を裂いて生み出した使徒に一種類のモンスターを支配する力を与えた。
それは竜種の使徒であり、虚人の使徒であり、恐龍の使徒であり、魔獣の使徒であり、屍者の使徒であり、影虫の使徒であり、樹怪の使徒であった。
邪神の使徒たちは自らの配下を統率し、時に使徒同士で相争いながら大陸を瘴気によって汚染していった。
それに対抗したのが、神々が召喚した勇者である。
その使徒たちを撃破し、全長10,000メートルをゆうに超える邪神の外殻を突破し、その本体に迫っている。
あと一歩で終わり。
ためらえば、犠牲は報われない。
「選択肢はない……というわけですわね」
「そういうことだ、星見さん。――ちッ。ザイディ、やれ!」
憑竜機ザッハークの両肩に描かれている蛇の紋章。
それが光となって具現化し、墨色の虚影にまとわりつく。
抜け出そうとしていた邪神の本体は双肩の蛇に絡め取られ、動きを止める。
だが、長くは持たない。
「ネブラ、魔力を回してくださいまし」
「……すまねえな」
この場で唯一のルシエン人。
竜人の王子ネブラの言葉に、応えはない。
けれど、その信条は甲斐も花蓮も理解していた。
酒を飲む度、同じように謝られたら嫌でも分かる。
「それでいい。早く撃て」
ティアマトーの五本の腕が、ルーグの背中に突き入れられ融合する。
その二機から、虹色に輝く魔力の奔流が立ち上った。
それをすべて受け止めたルーグの砲塔が、ガチャリと音を立てて照準を合わせる。
邪神に。
ザッハークに――甲斐に。
「貫きなさい、タスラム」
花蓮が、己の意思でトリガーを引いた。
今この瞬間が、邪神戦役終結の刻。
邪眼のバロールを討ち取ったタスラム。
その名を冠した魔弾が撃ち出され、プラズマをまとった砲弾が狙いを過たず貫いていく。
ザッハークを。
甲斐を。
そして、邪神を。
最後の瞬間、甲斐はどんな表情をしていたのか分からない。
声もかき消され、本人に届いていたかも判然としない。
「悪いな、みんな……騙したままで」
かくて、邪神は消滅し世界は救われた。
甲斐智也。
勇者――異世界の学生を一人、犠牲にして。
そう、信じられている。