女装、お別れをテーマに
黒煙を上げ、今にも崩れ落ちそうな城があった。城を守る兵は逃げ、残るは玉座の間に籠っている姫だけ。
俺は王から、姫を生かしたまま捕らえてこい、と命令されていた。
「我が王の物好きにも困ったものだ」
兵を引き連れ、玉座の間のドアを蹴破る。
「リア姫! 我が王の元へ参上せよ!」
長く伸びた赤い絨毯の先。玉座にすがるように座り込んだ少女の姿があった。
長い金髪で顔を隠すように俯き、恐怖からか肩が震えている。華奢な体をピンクのドレスが包み……? ここで俺は違和感を覚えた。何かがおかしい。
兵が姫を捕らえるため近づく。
「おい、待て」
刹那。
兵の首が宙を舞った。いつの間にか立ち上がっていた姫が剣に付いた血を振り払う。
雪のように真っ白な肌に、頬に付いた返り血が映える。海のように深い藍色の瞳が妖艶に微笑んだ。
その姿に兵たちが見惚れる。だが、俺は騙されない。
「何者だ!? 姫はどこにいる!?」
姫の外見は平凡以下……いや、独創的で独特な容姿をしている。こんなに美人ではない。
そこに兵たちが倒れる音がした。慌てて振り返ると、甲冑姿の騎士がいる。
「ここだ」
騎士が甲冑の兜を外す。長い黒髪を一つにまとめたゴリラがいた。
「姫だ! 捕らえろ!」
俺はすぐに命令をしたが、姫の外見に戸惑い、誰も動かない。そこに野太い声が響いた。
「この世にお別れを言いたいヤツから、かかってきな!」
その声の主はピンクのドレスを着ている人だった。