座席で思うこと
衛の座席は3列の中央後方窓側にあった。
梅雨も明け日差しの降り注ぐこの時期には机と椅子は既にポカポカと温められていた。
時刻は8時5分頃。
30分にホームルームが始まるため登校時刻としては十分に余裕がある。
それでも教室には10名ほどの生徒がいた。
衛が教室に顔を出した時それまでザワザワと聞こえてきた話し声がピタリと止まった。
席に着くまでの時間がやけに長く感じた。
(なんか注目されてる気がする)
クラスメイトたちの中に衛が結衣と一緒に登校するのを見の者がいたのだろう。
座席に着けたものの衛の心は一向に落ち着いてはこない。
遠巻きに視線を感じながらここに来るまでのことを考える。
幼馴染の結衣と一緒に通学できたこと。
それが原因で今注目を集めているということ。
――結衣も同じよう目に合ってるのかな?
ふとそんなことが頭に浮かぶと衛は自分の短慮な行動を呪いたくなった。
少なくとも自分はあの時程度の覚悟ができていたのだ。
しかし結衣はそうではない。
せめて高校の最寄り駅で降りる時には別れてあげるべきだった。
一度は口に出そうと思ったのにもっと話がしたいという気持ちを優先させてしまった。
彼女はこんな自分の古文の抜き打ちテストの心配をしてくれていたのというのに……
急に居ても立ってもいられなくなった。
スマートフォンを取り出すと衛は交換したばかりの連絡先に完結な今朝の謝罪を送った。
何度も何度も誤字脱字がないかチェックをして。
しかし送って暫くすると今度は優しい彼女のことだから内心どう思っていようとも、こちらの気分を害するような返事は来ないだろうことに考えが及んだ。
文章からじゃ相手の真意はつかめない。
(結局俺は徹頭徹尾自分のことしか考えていない……っ!?)
しかしそう思う一方で
(伝えたい気持ちに素直になることは悪いことではないのでは?)
という気持ちにもなる。
そして結衣の向けてくれた笑顔を思い返すと嬉しい気持ちで一杯になる。
そんな感情にふと冷静な自分がスッとメスを入れる。
――今日の俺は一体どうしてしまったというのか?
(何を考えているのかよく分からないやつというのが俺の心情ではなかったか?
そう人から見られるのことを期待していたはずだ。
世界を斜に見て所謂中二病の延長のような性格が自分ではなかったか?
周囲の目を気にするなんて男らしくない!
見た目で判断しない!されたくない!というのを忘れたのか?
それなのに少しでも結衣に良く見られようとばかり考えてしまっている。
全てを晒すことで受け入れてもらえないようなら、こちらから切り捨てればいいだけの話ではないのか!!
簡単な話なのだ。
孤高を目指していた俺は一体どこにいってしまったというのか……)
(……少し冷静になれ、俺!
心臓の鼓動に煽られるようにして考え過ぎだ……
そんな極端な考えを今することはないんだ)
周囲から見ればいつも通りに見える衛の頭の中は、しばらくの間目まぐるし速度回転し続けていた。
2019/8/27 一部加筆・修正いたしました。 サブタイトル省略いたしました。