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通学路にて

衛と結衣の間に生じるぎこちなさがなくなることはなかった。

それは歩幅であったり目線であったりふとした仕草に表れていた。

それでもお互いがお互いを尊重し合いながら会話を続けることができた。

衛はそんな結衣に集中するあまり、気が付いた時にはいつの間にか最寄り駅の改札の前に立っていた。


(景色を楽しんでたはずなのに……)


夢から覚めたような気持ちに衛はなった。

視野が狭くなり結衣のことばかり目で追っていたと後から気付いた。


いつも利用する駅のホームへと差し掛かる。

階段から望める景色にはちらほらと同じ制服を着た生徒が、スーツに混じって並んでいることが窺える。

登校時間なのだから当たり前の話だ。


当然そこには知り合いがいるかもしれない。

好機の目に2人は晒されることなるだろう。

それは火を見るより明らかなことだ。


果たして隣にいる結衣はそれをどう思うだろうか?


(注目されることを結衣は望まないだろう)


別々に降りて登校することを結衣に提案しようかと躊躇(ためら)いがちに衛の口が開く。

そんな衛の姿を結衣は首を傾げて見ている。

口元にはほんのり笑みが見える。


(…っ!!まだ話していたいな……)


衛の胸に自分でもよく分からない高鳴りと熱が込み上げてくる。


――このまま一緒に学校まで行く


知らない内にずっと募っていた想い。

”結衣とまた会話をする”それが今実現しているのだ。

それを自分から手放すようなことを衛はしたくなかった。


目的の駅で電車が到着する。

同時に多くの人がまるで雪崩のように吐き出される。

そこは紺のブレザーを着た学生たちで溢れかえることとなった。


衛と結衣の通う学校は都心から離れている。

その上2人は下り電車を利用して向かうため通勤ラッシュかち合うことはなかった。

それでも近隣の高校よりも在籍者が大勢いるため、上り下りの合流地点となる改札口は毎日混雑することとなった。


2人が在籍する私立丘陵高校は比較的偏差値の高い進学校であった。

最寄り電車の沿線上にある他高校の中でも上位に位置し、辺鄙な場所にあることでも有名な学校であった。


そのため周囲には民家や住宅街が多いものの、登下校の時間帯は丘陵高校に向かう生徒が歩道の大半を占める。

付近の通行人や駅に向かう通勤者は時間帯をずらすことでこの混雑を回避するほどであった。


そんな登校する生徒たちでごった返す中には当然男女で向かう者も大勢いた。

しかしそれでも、これは衛の自意識過剰かもしれないが、結衣との登校は妙に周囲の注目を集めているように感じられてならなかった。


やけにザワザワと周囲の音が大きく聞こえる。


(やっぱり結衣は身長が高くてスタイルいいから目立つのかな……)


コンプレックスから来る被害妄想で衛の胸がチクリと痛む。

衛と結衣の知り合いも登校しており、驚いていたり、ニヤニヤ笑っていたり、ヒソヒソと会話していたりと様々だ。

中には血の涙を流すような形相の男子生徒もいた。


「……。なんか皆の目が妙に気になるね?」


好奇の目に耐えきれず衛が口にしてしまう。


「まも…い…いしだ君もそう思う?私もさっきから気になってた……」


そう答える彼女が若干緊張しているように感じられた。


「俺たち目立つことしてないよね」


「……たぶんしてないと思う」


そうは言いつつも、結衣も心のどこかでこうなるのは予想していたように感じられた。


「……何も悪いことしてないのに、時々居た堪れない気持ちになることってあるよね。不思議だよね。俺たちは堂々としていようね」


自分を鼓舞するつもりで言う。

言いながら本当に可笑しな気持ちになってしまうのだから驚きだ。

衛は思わず笑ってしまう。


「……ッ!?……そのセリフ!」


そんな衛の脳天気な反応とは対象的に、結衣は弾かれたように驚愕の表情を衛に向ける。

そんな結衣の様子に何か変なことを言っただろうかと衛は急に不安になった。

前にも似たようなことを言ったことがあっただろうかと考えようとするも思い出せない。


「……??」


結衣の言葉の意味が知りたくなり顔を窺う。

偶然にもお互いに見つめ合う格好となった。


「「ッ!!?」」


結衣は急いで前を向き、顔を赤らめ俯いてしまう。

衛も彼女のそんな仕草に触発され顔が熱くなつていくのを自覚した。


(あれ、なんかこういうシチュエーションってマンガみたい)

ふと逆上せる頭にそんな考えが浮かんだものの、自分が見上げる側だったことにチクリと衛の胸が痛んだ。


そんな彼らのよそよそしい反応に対して周囲の生徒たちはどこか白けた空気を出していた。

敏感にそれを察知した衛と結衣の2人はそんな視線から逃げるように、口数も少なく早歩きで通学路を歩いた。


学校に到着し昇降口の前に来た時、結衣は突然思い出したかのように古文の抜き打ちテストの話題を口にした。

衛のクラスがまだ実施前だと思い至り教えてくれたのだろう。

テストのことを知らず驚く衛に結衣は快くテスト範囲が書かれているルーズリーフを手渡してくれた。


渡す際に”人に見せる予定がなかったから汚い字でごめんね”と言われた。

衛はバックにしまう際にチラと文字を見たがキレイな字がそこには並んでいた。

自分が知っている小学生の頃の結衣の文字とは違っていた。


――ひょっとしたら結衣はずっと口にするタイミングを見計らってくれていたのかもしれない。

ふとそんな考えが頭をよぎった。

そう思うと無性に嬉しくなった。


それを悟られまいと意識して結衣にお礼を言った。

結衣は今日一番の笑顔をしてくれた。

つられて衛も思っいっきり笑ってしまった。


抜き打ちテストが終わり次第すぐにルーズリーフを返すことを結衣に約束した。

結衣は”焦らなくても大丈だから”と微笑んだ。


靴を履き替えると2人は階段を上り2学年の教室へと向かう。

2年A組の教室の前で結衣と別れると衛は隣のクラスへと向かった。

2019/8/27 一部加筆・修正を行いました。 サブタイトルを変更しました。

2020/11/5 途中まで加筆・修正を行いました。

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