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勇気のカタチ それぞれ

いつからだっただろうか。

中学生の頃からだろうか。

それともそれよりももっと前から考えていたことか……


いつか自分は”完全”になると思っていた。

人生を学び、大人の考えを身に付け、分別のある人になれる時がくると…。

その時初めて自分は、心のまま自由に行動することができるようになる…そう思っていた。


だから今感じている”不自由さ”や”表に出せない感情”もいつかは報われる時が来ると思ってたんだ……


でも、果たしてそうだろうか?


分からない。分からないけど…この考え方は違う!!と心が悲鳴を上げている。


衛の傍らに立つ幼い衛がしくしくと泣いて抵抗する。


じゃあ……今までの自分はどうするの?今までの努力はどうなるの?と


その思いたくなる気持も分かる。

でも、変わるなら今なんだ。

背を向け去っていく彼女のもとへ行くためには足を動かさないと。

これまでの自分を貫いたらブランコから立ち上がらないで見送ることになる。


そうはなりたくはないんだ。


幼い衛にしっかりと伝える。

幼い衛はごしごしと腕で涙を拭うと、こくんと頷く。


”変わりながら生きていく”その生き方を許して貰えるかは分からない。

でもそうしないと大切なものを失っちゃうんだ!!!

それだけは…嫌なんだ……


会話ができなくてもいい。

夜道を歩く彼女を一人にさせるくらいなら、どんな情けない自分でも受け入れる。

さぁ、足に力を込めて前へ―――



いつもよりも少し顔を上げて外気に髪をなびかせる。

顔から耳、耳からうなじへと通って行く空気が気持ちいい。

今の私はどんな顔をしてるのかな?

ふとそんな考えが結衣の頭を過ぎった。


冷静になった私はたぶん自己嫌悪に陥ることだろう。

それは分かっている。

結局自分の気持ちを彼に伝えただけで、何の解決にもなっていないどころか、重荷になってしまったかもしれなのだ。

それでも今は高揚した気持ちで夜空を見ていたい……


怖いはずの街灯と闇が自分を見守ってくれている……そんな気がするのだから。


ふと横合いに風を感じた。



まだ心の整理が何もできていない。

それでも大切な人に早足で追いつく。

ポロポロと流れる涙で景色がぐにゃぐにゃと歪んで映る。


顔中に力を込めてなんとか堪らえようとするものの、体の中心から込み上げてくるものに逆らえない。

唇をグッと引き締めるものの、プルプルと震えがきて小さな声が漏れてしまう。

小さな涙の粒が後方へと飛んでいく。


(ああ……本当に情けないな…)


横にいる背の高い彼女は一体どんな顔をしているのだろうか?

自分の顔を見られたくないから、相手の顔も見れない。


(なんでこんな時に……こんな時に背が低くて良かったって思ってんだろ……)


両手のひらでぐしぐしと涙を拭いながら、無言で歩く自分が矮小で、まるで先を行く母を追いかける子供のようだと感じた。


「なんで?………私を家に送るために?」


公園にいた時とは違い小さくたどたどしい声だった。

一瞬立ち止まる彼女は驚きを隠せない。


「……うん、これだけは譲れない…」


「………ありがとう」


それは小さな小さな声だった。

彼女も泣いているようだ。


「…ううん、情けないやつでごめんね」


彼女の手が上がり目元を抑えている、ように感じる。

ポロっと粒が衛の頭上から降っている。


「そんなことないよ。嬉しい……。もし……暴漢が来たら私が相手するからね」


泣き笑いの声だった。


「それ……俺のセリフ……」


結衣の口からえへへと笑い声が漏れた。

衛は今日一番の涙が溢れたが、心から笑うことができた。


静かに並んで歩く2つの影を、星と街灯の明かりが優しく見守っていた。

2019/10/22 ここまでの3話をようやく出せて嬉しいです。頭の中では折返し地点かなと思っています。

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