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羊の群れにいるライオン

夕食をいつものように母と2人で済ませ、自室に戻りる。

部屋に入り真っ先に目に飛び込んで来たのは、机の上にはスマートフォンのランプが点灯している光景だった。

なんらかの着信を意味するものだが、この時衛は何か嫌な予感を覚えた。

スマホを手にするとベッドの端に腰を下ろし画面を表示させる。

通話履歴には伊藤志信と映し出されている。

一分ほど前に電話をくれたばかりなので折返し電話してみる。

もしもしと志信から応答があった。

どうやら部活帰りで家に向かっている様子なのが電話越しの騒音で分かった。

志信の性格なら家に帰り落ち着いてから電話をしてきそうなものだ。

それをせずに帰宅途中に電話をするとなると、よっぽど自分に伝えたいことがあるのだと衛は思った。

嫌な予感が的中した気がした。。

志信と簡単に挨拶を済ますと直ぐに本題に入った。


「帰りに弓道部のやつと話したんだが、川越・阿部・柳の3人が見学と称してヤジを羽柴さんにしているようだ」


「・・・・・・え」


言葉が出なかった。

絶句するとはこのことかと思った。

まさか結衣にそこまで執拗に狙いを定めるとは思っていなかった。

衛の胸の中心には急速に気持ちの悪い塊が広がっていく。

結衣が手の届かないところにいってしまうのではないか?という気持ちと、柳たちの下衆な笑みが脳裏によぎる。


「俺もその話を疑ったんだが、丁度部室から出てくる羽柴さんに3人が寄って行くところを目撃してしまってな。部員たちに守られているようだったから大丈夫だとは思うが・・・」


「そっか、それを聞いて少し安心できたかな」


志信の第一声を聞いてから熱くなっていた頭はひとまず落ち着いたものの、依然として胸の不快な塊は広がるばかりであった。


「お前が思っている以上に柳は羽柴さんを狙っているのかもな」


「そのことなんだけど俺にはあいつの考えが分からない。あれだけ顔が良ければいくらでも相手がいると思うんだけど。何で羽柴さんにそこまで執着するんだろう?」


衛には本当に謎であった。

柳はこの学校に来てから注目の的となっている。

本人が望めばいくらでも異性と付き合える可能性はあると思える。


「俺も少し気になってな・・・あくまでも推測だがお前も十分に顔が良いだろ?柳はお前から羽柴さんを奪うことで優越感を覚えたいんじゃないか?」


「そんなっ!?」


志信の考えは衛には到底理解できるものではなかった。

そんな利己的な目的で・・・一時の感情で人は行動するものかと考えてしまう。


「これも推測だが柳にとっては衛の行動は癪に障るんじゃないか?」


「・・・・どんなところが?」


「上手くは言えないが、・・・同じカテゴリーに属さないことで返って目立ってしまうことってあるだろ?この場合目立つのはお前だ。憶測だからあまり自信はないが」


「それは俺があの人達と一緒に行動してないからってこと?」


「柳の言葉を借りれば本来スクールカーストの上位にいるはずのお前が、俺や悟たちと一緒にいることや個人でいることが、気取った様子に見えるんじゃないか?もしくは腹の中でバカにしていると柳は考えているのかもしれん」


「俺が群れから外れていたり、違う種族の動物と仲良くやってるから異端に見えるってことかな?」


「あぁ、お可笑しな例えだがそういうことだろう。あいつらにとってはお前は本来”あちら側”なんだろう。」


「・・・・・・・」


「誤解するなよ?俺や悟・・・そして出口もお前をそんな風には見ていないからな!。ただ、・・・そうだな柳という目立つピースが現れそれ自体は上手く目立つ所にはまった・・・・すると今度はお前と言う浮いたピースが際立ってしまっている状態なんだろう。そこに羽柴さんのラブレターと告白で・・・今やお前は1等星ばりに輝いて周囲には見えるということだな。大人しく納まった柳からしたら気に入らないだろうな」


「・・・・なんかうまく例えることに一生懸命になってない」


言っている内に閃いてしまったのだろう。

志信にしては軽薄な言い方だった。


「・・・済まん。真面目な話をしているんだったな」


「ううん、正直分かりやすかったよ」


「だろ!」


「・・・・・・・」


「・・・済まん」


なんとなくだが志信の言っていることは的を射ているように思えた。

思えば昨年の一年生の時、部活動への勧誘や教室での誘いなどクラスのお調子者や体格の恵まれた生徒と同じように上級生から声を掛けられることが多かった。

思い返してみれば自分は小学生の頃から”そういう扱い”を受けてきたのだ。

ただ衛にはそれが苦しく辛いことであり快く受け入れることのできない。

・・・・なぜなのか?それはやはり外見から生じる期待に応える自信がないからだろう。期待した通りじゃない自分の姿を知った時の落胆した彼らの顔を想像することで苦しくなってしまうのだ。


「・・・あの?もしもし・・衛君?・・・あれ・・・怒ってらっしゃる?」


長いこと沈黙してしまったので、志信も不安になったのだろう。

衛が本気で怒ったと誤解したようだ。


「ごめん!考え事してた。俺も考えてみたんだけど、志信の推測が当たってるように思えた!」


「そうだったのか。ふ~~~肝が冷えたぞ。お前の性格で沈黙されると迫力があるな。普段温厚なやつが怒ると恐いっていうのは受けての思い込みだとしても、説得力のある言葉だな」


「え、俺って怒ると恐いのかな?」


「お前が怒ったところなんて見たことないんだから俺に分かるか。ただ、”想像できない”っていう恐さと”こいつを怒らせるほどの何をやらかしたんだ”という周囲の人間から向けられる”白い眼”への恐れがあるのかもな。特にお前みたいに周りから信用されてるようなやつはさ」


「そんなことを言ったら、俺が頼ってる志信の方がよっぽど”恐い”ってことじゃん」


「ふふ・・・・・嬉しいこと言ってくれるじゃないか!!だが俺はそういうキャラじゃないからな」


「そんなもんなの?」


「そんなもんだ」


話はたびたび脱線したが返って衛にはありがたかった。

内心の動揺は大分ましになったものの、一人で抱え込むには悩ましい問題になったことだろう。

なぜなら到底衛一人では導き出すことが出来なかっただろう、光流の結衣に対する行動の理由は。

推測ではあるものの納得のいく理屈を志信から聞けたことは大きかった。

それだけで未知の生物に思える光流への恐怖が薄れ、霞がかる人物像に輪郭が見えるように思えた。

・・・光流も自分のことをそんな風に感じているのだろうか?ふとそんな気持ちになった。

だからと言って光流たちの行動に共感などは一切できなかったが。。


「それでこれからの話なんだが衛はどうする?」


「そうだね。羽柴さんにこれから連絡をとって今日一日の様子を聞いてみるよ」


「それがいいな。俺が遠くから見て分かることなんてたかが知れているからな」


「そんなことないよ。俺にとっては志信がA組にいてくれるだけでもありがたいことなんだから」


「そうか。そうかもな」


「うん、これが俺一人で抱える問題だったら今頃パニックになってるよ」


「まぁ、お前の場合は俺じゃなければ代わりの誰かが助けてくれると思うけどな」


「それなら志信で尚更良かったよ。俺も何か志信にできることがあればいいんだけどな」

「負い目みたいに感じるなよ。やりたくてやってることなんだからな。ただ・・・・そうだな、もしその気になってくれるなら定期テストを全力でやってくれ」


「・・・・・え。今も試験前には一生懸命やってるよ」


「そうなんだろうけど、一位を目指して欲しいってことだよ」


「確かにそんな風に考えたことはなかったかも」


「まぁ、頭の片隅にでも覚えておいてくれればいいよ」


「・・・・うん、そうする」


そう約束し志信との通話は切れた。

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