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ルーズリーフとラブレター

すこし黄色みがかった光が薄く開けた視界に飛び込んでくる。

それが蛍光灯の光だと思いいたる。

そして少しずつ見慣れた自室の風景に焦点が合っていく。

もんもんと悩んでいる内に眠ってしまったことを衛は自覚した。

窓から見える空は夕日が西の空に消えていた。

そして太陽はその日最後に放つまるでグレープフルーツの果肉のような残光を、衛のもとまで届けていた。

まだ脳が覚醒しきる前の、どこか他人事のような感情でその景色を美しいと感じていた。どうやら随分と不快眠りに落ちていたようだ。

眠る直前に比べたら気持ちは幾分軽くなっていた。

いつもそうだが深刻な悩みを抱えると衛は強い眠気に襲われた。

そして目が覚めると気持ちが軽くなっているのだ。

胸を締め付け頭がパンクするほど脳を占めた問題に対して、本当に他人事に感じて冷静になれるのである。

自分がまだ制服姿なのに気付き慌ててハンガーにかけ、部屋着に着替える。

時計は17時半を指していた。

ふと視界に入った通学バックの中を漁る、

目当ては疲れの発端となった一通の封書。

改めて手紙を読み返してみようという気持ちなった。

情けなく女々しいことだが、羽柴結衣の偽らざる気持ちが書いてある手紙を読むことで、安心したい気持ちに無意識になったのだろう。

部屋にある小学生の頃からの机に座る。

手紙を読み返し今朝の結衣の告白を思い返す。

告白の最後に向けられたあの目が忘れられない。

結衣の強い意志が衛の脳に直接衝撃として伝わった気がしたのだ。

あんなに強い瞳で他人から見られたことはなかった。

その初めての相手が結衣からだとは想像もできなかった。

少なからず尊敬していた結衣のことを、改めて感嘆する。

大勢の前でああも自分の気持ちを素直に告げることができることに驚いてしまう。


(俺にそんなことができるだろうか?いや、俺にはそんなことできない!)


意識がすぐにどこかに飛んで行きつつも、手紙の一文字一文字を時間を掛けて読み進める。

ラブレターをもらったことは初めての経験だった。

例えそれが結衣からでなくても衛は何度も読み返したことだろう。

ふと衛は教室で手紙を読んだときに感じた、何とも言えない違和感を思い出していた。

そういえば結衣からもらった、古文の抜き打ちテスト用のルーズリーフのコピーがあることに思い至った。

それは本当に偶然思いついてのことだった。

机の本立てに挟まっているファイル入れてあるルーズリーフを取り出して、見比べてみることにした。


(・・・・・・・・・・・)


「まもる~ご飯の用意できたわよ~」


一階のリビングから母、弓子の明るい声が聞こえてきた。

衛は反応することができない。

その目は手紙とルーズリーフの間を頻繁に行き来している。

しばらくして再び弓子の声が聞こえてきた。


「冷めちゃうから、早く降りてきなさいよ」


弓子の声が階下から聞こえてくるものの、水中にいるような、耳に物が詰まっているような感覚で、その声はどこか不鮮明に聞こえる。

頭の大部分が別の考えに支配されており、今は弓子の要望に割くだけの脳の容量を用意することができない。


「いい加減にしなさい!」


結局叱られてしまった。

しかしそのお蔭で2枚の紙から目を離し、席を立つと部屋を出ることができた。

机に残された手紙とルーズリーフの文字は全く似通っていなかった。

衛はその謎に明確な答えを用意することができなかった。

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