表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

#8 皮肉であろう。

帝王歴三七二年、十二月。

クルィム帝王国と、南の隣国・フォンデ連合共和国は戦争状態にあった。

クルィム軍を最も苦しめた『ファウンテン要塞』は、帝王・ハーグェンの手によって、小一時間で陥落した。

最大の難関を乗り越え、クルィムの勝利は、ほぼ確実の物となったのだが。

「さぁ、帰りましょう」


太陽が、地平線の向こうに顔を隠し始めた。

冷たい風が、肌を叩く。


「…ええ」


罪悪感。一言で表すのなら。

咄嗟にヴァスキンさんを責めてしまったが、彼は彼の職務を果たしたのだ。それはもう立派に。

私が悪い。いつもそうだ。私の周りで悲劇が起こる時、必ずその原因は私にある。

未だかつて、理不尽な悲劇などなかった。

自分が悪いのだから、誰を責める事も出来ない。

私の所為で鎧の彼は死に、ヴァスキンさんは人を殺したのだ。

身に余る力を与えられながら、何一つ救えていない。


非力だ。


「…ハーグェン様!」


馬の背に跨り、いざ野戦陣地へ戻ろうとした時。

背後から、声を掛けられた。

グァリグ・アーリィ第三中隊長。

腹に包帯を巻かれている。


「お怪我の具合は?」

「大した事ありません、この程度の傷は」


そう答えた彼の声音から、何かを感じた。

ヴァスキンさんも感じ取ったらしく、こちらに注意を向けている。


「…失礼ながらハーグェン様!」


感じたのは、怒り。

私の目を真っ直ぐ見つめ、いや、睨み付け。

語気を強めて言った。


「グァリグ殿、失礼だと思われるのなら…」

「いえ」


ヴァスキンさんを制した。


「続けてください」

「…では、申し上げます。単刀直入に」


()()直入を強調して言ったのは、彼なりの皮肉であろう。

そして彼は、言った。


「何故もっと早く来て下さらなかったのですか?」


風が、止んだ。

ただ凍えるような虚無の冬が、其処にあった。

沈黙を破ったのは、


「このッ無礼者が…!!」


ヴァスキンさんだ。

馬から飛び降り、全速力でグァリグさんの元へ行き。

ショットガンを突き付けた。


「やめてください、ヴァスキンさん」

「貴様と貴様の部下が不甲斐ない為に! ハーグェン様はこの危険な戦場へ赴かざるを得なくなったのだ! 貴様等が命を賭して守るべきはずの主君が! 貴様等の為に命懸けで闘ったのだぞ! 貴様等が無能であるが為に!!」

「ヴァスキンさん!!!」


彼の怒りは、私の為に。それがまた辛い。


「……三四七名です」


第三中隊の長が、俯向きながら、消え入りそうな声で言った。


「私が不甲斐ない為に、三四七名の精鋭が、命を落としました…!」


部下の流した血を想い。

男は声を上げて、目から透明な血を流した。


部下の為に怒る者。主君の為に怒る者。


太陽が、空から居なくなった。

再来した沈黙は、再び彼によって。

今度は、ゆっくりと破られた。


「…パドヴァ首相の御指示である」


得物を収め、ヴァスキンさんは馬上に戻った。


「…最大の激戦となるまで、決して帝王の力を使ってはならぬと。ハーグェン様の力は絶大であるが、それ故に不安定でもあるのだ。そして何より危険である。そう易々と用いてはならぬ力なのだ」


三四七人の命と比べたら、何てくだらない言い訳なんだろう。


「…風が出始めました。参りましょう」


私は、何も言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ