#6 考えずとも分かる。
【クルィム軍】
ハーグェン・ダッツァ(帝王)
メィジ・ヴァスキン(帝王警護官)
グァリグ・アーリィ(第三中隊長)
【フォンデ軍】
ギァカ・ロヴィンス(防衛隊長)
コグリィ・ザーキェー(防衛副隊長)
ロテス・ノーツ(防衛隊員)
イン・ムルァヤ(防衛隊員)
「ねぇギァ兄」
「うん?」
暑い。何故こんなに暑いのか。
「来週のさぁ、ブランモンの花火大会さぁ」
「うん」
そっか。夏だったっけ。
「行く?」
「行かない」
「なんで?」
「訓練がある」
早く強くならなきゃ。子は親を超えるもの。
お父さんのでっかい背中を超えたくて、ぼくは。
「えー行こうよぉ」
「行けばいいじゃん」
「一人で行ってもしょうがないでしょ」
「あー…」
妹は、ちょっとだけ人と違う所があって。
友達を作るのが、ちょっとだけ苦手だったりする。
「わかったよ、行くよ」
「ほんと?」
「ちゃんと言うこときくんだぞ」
「うん!」
「お兄ちゃんの手、ちゃんと握っとくんだぞ」
「はぁーい!」
そう言って、笑い合った。
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目が覚めた時、まず最初に感じたのは頭痛であった。
後頭部が、少し痛む。
…今のは?
夢ではない。確かに経験した過去であった。
十何年も昔の、他愛も無い会話。
まさか走馬灯とやらでは無いだろうな。
そう思い、倒れたままの姿勢で、自らの身体を確認した。目立った外傷はない。
…いや待て、何故倒れている? こんな所で…って、ここはどこだ? 何があった?
頭痛のせいか、よく思い出せない。
一から振り返ってみよう。
ハーグェンが降臨して、土塊兵士軍団が壊滅して、我々四人が出撃して。
三段階攻撃で、確実にトドメを刺す算段だったのだ。
まず、インさんが『不安煽動』でハーグェンの精神を乱し、その隙に、ロテスは特大の『土塊魔神』を、コグリィは巨大な『火炎翼竜』に、それぞれ召喚・変身。注意を逸らし、時間を稼ぐ。稼がれた時間で、気付かれぬよう背後から接近していた私が、ハーグェンの胴をランスで一突き! という、筋書き。
上手く行けば一瞬で終わる、筈だったのだが。
考えずとも分かる。
目の前にこうして、不変の事実が横たわっているではないか。ついでに私も横たわっている。コグリィも、ロテスも、インさんも。全員軽傷。命を気遣われた。
帝王の刀が我々の胴を貫く事は無く、ただ猛スピードで刀の頭を我々の頭にぶつけて来ただけ。
一瞬で終わったのは、我々の方だったのだ。
暑いのは、燃えているから。何がって、要塞が。
そう、落ちたのだ。陥落した。最後の砦が。
我々の、敗北である。
「お疲れ様でした。ハーグェン様」
目の前に、奴らがいる。
ハーグェンと、その従者か。
こちらの目が覚めている事には、気づいていないようだが。
「難攻不落と謳われたファウンテン要塞も、ハーグェン様の手に掛かれば、かくも脆く崩れ去るとは…!」
くそっ、情けない。何も出来なかった。
あまりにも、あっさりとした幕引きじゃあないか。
本当にこれで、終わりなのか。
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(い、いいやっ、まだだぁぁぁ……)
…インさん?
(は、反応するなっ、気付かれるぅぅぅ……)
………
(い、いいかっ…リーダァァ……これから…帝王の精神を、乱すぅぅ……さ、最後のチャンスだっ…必ず、決めてくれぇぇ……いいな…い、行くぞっ…!)
………
(す、『超不安煽動』ぃぃぃ……!!!)
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「ヴゥッ…!」
「どっ、どうなさいました? ハーグェン様!?」
「でぇいやぁぁぁぁぁ!!!!!」
ラストチャンス。
この一瞬に、全てを—————
バァン!!!