晴れのち体育祭のち
何で今俺がこんなところにいるかって?
そうだ、自分で呼び出して自分で呼び出し場所を指定してそこに来たんだったな。
何故だ?
いやいや、そもそもなぜそんなことになっているんだ。
体育祭も終わってみんなが達成感を含んだ表情をきらめかせているなか、俺だけなにやら深刻な顔をしている。
いや、自分の所為なんだが、別に体育祭のリレーで転んで最下位になったからではない。
別に騎馬戦で開始15秒で落馬して失格になったことを悔やんでいるわけではない。
ん?別にそんな徒競走で後一歩で転んでちょっと泣きそうになったからではないぞ。
何だ、俺ろくなことやってねぇじゃん。全然ダメじゃないか。
まぁ、ウチのクラスは運動神経のいい奴が多いから、別に総合優勝なんて余裕だったんだ。
でも、こんな気分は久しぶり、というか初めてだ。まぁ原因は俺にあるんだが。
でもさぁ、やっぱ何にでも集中し切れないのとか、前を向けないってのはダメだよな。
落ち込んだときとか、何か次に行かなきゃ行かないときなんかに、優しいそいつはいっつも声をかけてくれるんだよ。
いや、違う。もしかしたら自分から声をかけていたのかもしれない。
勇気付けて欲しかったのかもしれない。
元気付けて欲しかったのかもしれない。
慰めてほしかったのかもしれない。
甘えていただけだったのかもしれない。
彼女の優しさに。
次に行かなきゃいけないときにそんな甘えていたら俺は何時までも巣立てないだろう。
顔を上げなきゃいけないときに彼女と触れ合っていたら、別にどうでも良くなってしまうだろう。
そんなんじゃダメだ。そんな俺は腑抜けだ。
ではどうする?彼女を忘れるか?
不可能だ。彼女をすぐに忘れられるのならば、俺はこんなにも苦労はしなくてすんだはずだ。
彼女の暖かさがそこにあったからこそ、俺はここまで来れたのかもしれない、いやきっとそうだ。
だったら、とるべき道は一つだ。
彼女を失うと、どうなるのかは分からない。もしかしたら成就するかも・・・いや、無いと考えよう。
でも、それによって、俺は顔がようやく上がるだろう。前に進めるのだろう。
それが、どんな結果になったとしてもだ。俺は下を向けなくなる。向かない決心をつくことが出来る。
それほど、彼女の存在は大きくなっていたのかもしれない。彼女のお陰で、進路、部活、そして人生までもがある種の分岐点にたどり着いてしまったのだから。
でも、それを俺は恨まない。悩むことより、嬉しかったり楽しかったりしたことのほうが多かったから。
生徒手帳を開いてみた。
一番最初のページに、友達と遊びに行って無理言って彼女の隣に写らせてもらったプリクラが貼ってあった。
彼女の頭に俺の手が乗っかっていて、彼女は体制を崩していた。肩に手を回そうとしてそれはマズいかな、って思ったんだっけか。
下を向いて写ってしまった彼女が「もう、下向いて写っちゃったじゃん」と笑いながら言っていたのが深く記憶に刻まれている。
俺も笑っていた。友人も笑っていた。彼女も。
足音が近づいてきた。俺は手帳を胸ポケットにしまった。
少しずつ涼しくなってきた9月の夕暮れ時だが、俺の顔は熱くなる一方だった。
顔を見ずにいった。
「よう、元気か。」
「元気だよ。ちょっと疲れたけど。」
そうか、と相槌打つ。もう少しこのままで居たいな、と思った俺を誰が責められよう。
いつまでたっても何も言わない俺に痺れを切らしたのか、彼女が訊いて来た。
「ねぇ、どうしたの?」
その声に俺は振り向いた。
小柄な身体に二つ結びの長い髪が目に入る。
俺の口が動いた。
「あのな―――」
おい、覚悟してやがれ。お前が悪いんだからな。
火照った二人の顔を冷ますかのように、少し冷たい風が校舎の屋上を吹きぬけた。
FIN