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天ノ75話「天使と竜の狼煙」

 

 

 嵐が来た。

 あれほどウォーゲームで賑やかだった王城に事件が起きた。

 

「さて、我々が来たと言うことがどういうことかご存知ですね?」

 二十二人、背中から翼を生やした者たちが王城に突然押し入った。

 無礼討ちを試みた貴族たちは何もできぬまま息を絶やし、怯えることしかできなかった。懐刀、円卓七騎士たちは緊急事態を知り玉座へ招集された。

「エレイン、状況は?」

 ミオリアがエレインに耳打ちする。

「天使族だ、数は二十二、交渉の余地あり」

「わかった、ジークとアジサイは?」

「今朝から王城近辺で地鳴りがするとかで調査に出ている。夕刻には戻るが呼び戻すのか?」

「いや、ジークはともかくアジサイはまずい」

 二人は静寂に溶けそうなほど小さな会話をすると天使たちを見据える。

 アジサイが持つ天使族への憎しみは計り知れない。むしろ調査に出かけているというのは不幸中の幸いだった。

 

「貴様ら天使が何者など知らぬ」

 アクバ王は老いて更に強くなった眼光で毅然とした声音を上げる。

 

「所詮人間か、単刀直入に申し上げると、ネフィリ様の身柄を引き取りにまいりました」

 天使族の一人が交渉役として舌を回している。二十二人の天使族は全て女性であるが、アジサイ

「ふむ、ネフィリは我が国の英傑である。何より本人がよしと申したか?」

「これは至高天キリクの勅命、即ち絶対である」

「知らぬ、この国の足を踏み入れた時点で余が国長である、天使族だったか、この地ではその至高天が頭を垂れる」

「傲慢な劣悪種共め、良いように言わせておけば――」

 天使族の交渉役は眉間に皺を寄せた。

「さて、ネフィリよお前はどうしたい?」

 


 ネフィリは俯いて唇を噛んだ。

 

 それから数十秒ほどの沈黙の後、口を開く。

 


「私はここに居たいです」

 

 

 それを聞いたアクバ王は歯が見えるほど大きく笑い、天使族を威厳のある双眸で見据えた。

 

 

「天使族、イシュバルデの長としてこの言葉を手向けとする」 

 アクバ王は玉座に立て掛けてある長剣を引き抜き。天使族の眼前に迫る。

 

「来たりて、獲れ」

 

 長剣は天使族の交渉役の首をすり抜けると頭が滑り落ちた。

「アレフ!」

 天使族たちは首を斬られたアレフという天使族の亡骸と頭を拾い上げる。

 

「宣戦布告と受け取る」

 天使族は玉座の間から出るべく扉に手を掛けようとするが、懐刀のルーサーと円卓七騎士のウィナーが立ち塞がる。


「ただで出られると思ったか?」

 ウィナーはそう言い捨てるとロングソードを引き抜く。

 ルーサーも拳に炎を纏わせる。

 天使族たちは顔をしかめるが、自分たちがあたかも優位であるかのように振舞った。

 

 

 時同じくして地鳴りが起きた。

 それから次に来たのが耳をつんざくほどの咆哮が聞こえた。聞こえたというより最早肌が裂けそうなほど振動したという方が正しい。

 

 天使たちはその一瞬を見逃さず、炎やら雷やらの魔術を唱え、無理やり扉を撃ち破ると、両翼を広げて空中に浮くと飛び去って行った。

「クソッ、今の地鳴りは!?」

 ルーサーはいつもの高笑いを抜きに言葉を放つ。それだけでも今の状況が芳しくないことを物語っている。

「そう言えば、アジサイたちが地鳴りの原因調査で王城の郊外に向かっていたな」

 

「ミオリア、お前は調査に向かっている奴に話を聞いて来る。他の者たちは天使の追撃を行え、奴らを我が国の肥料とせよ、奴等こそ我が国の民を十万も殺した元凶なり!」

 アクバ王は声を怒張させているが冷静な面持ちで的確な指示を出す。

 ミオリアははいと答えると数秒で王城を飛び出す。

 

 韋駄天の如く王城を駆け抜けると空に天使の姿が見えたがこの健脚は天使ではなく、アジサイとジークのために使われる。

 

 

 城下町の屋根を跳躍し、城壁を軽々すり抜けるとミオリアは絶句した。

 

 

 それはあまりにも、

 言葉を忘れるほど、

 巨大だった。

 

 ティラノサウルスを彷彿させる外見で、口からは可燃性の体液が漏れ出しているのか液状の炎が口から滴っている。

 大地は巨竜に虐げられているように足で地面を均されている。


「なんだよ、これ……」

 

 目の前にいる巨竜が何なのか理解できなかったが、異常事態なのは明白だった。

 ミオリアはナイフを二本取り出し交戦に備えて移動する。

 平原地帯の領土リカーネの方向へ足を運ぶがミオリアは徐々に、異常性に気が付き始める。

 どれほどの距離を走ったのだろうか、既にリカーネの領土に足を踏み入れている。それでもなお巨竜に触れることが出来ない。

 それどころか、巨竜は大きさを増していくばかりで、一向に全容を掴むことが出来ない。

「なんだよ、こんな化け物見たことがねえよ」

 足を進ませるにつれて巨竜が放つ重圧に押しつぶされそうになる。

 足の爪に触れる頃には、ミオリアは絶句する他にやることが無かった。


「おーっす先輩」

「見てのとおりヤバイことになりました」

 アジサイとジークが呆れと絶望を交えた表情でミオリアと合流する。

「なんだよコイツ」

「アルスマグナの分魂、最後の一頭、逆鱗のアンフォメル」

「え、今までこんなやつ見たことねえしいたとしてもすぐ見つかるよな」

「そりゃあ、竜の爪痕の谷底からいきなり出てきましてね」

「あの谷底か……怖いから近寄らなかったわ」

「谷底っていうか元々あそこ凹んでいたのですよ」

 アジサイは淡々とわけのわからないことを言う。

「はぁ?」

「アンフォメルが眠っていた、正確に言えばビサンティンに封印されていたわけです」

「マジかよ……」

「綺麗に墓標だけを残して、眠っていたのですよ」

「人間、好きだったんだな」

 ジークとアジサイはうんうんと首を振りながら優しそうな目でアンフォメルを見ていた。

「んでも倒すんだろ」

「ええ、その通りです先輩、あるべき場所にあるべき物を戻す。アルスマグナも同じことを考えていますよ」

「ちなみに竜の逆鱗は、生殖器ですよ――」

 アジサイは楽しそうにこの世界で知り得た知識を披露した瞬間、ミオリアとジークの視界からフェードアウトした。

「えっ」

「えっ」

「アジサイ様、流石に竜の扱いがなっていないようです」

 竜殼を展開し、背中から翼を生やしているアルスマグナがすっ飛んできた。

「いや、ほんとのことだし……」

「はぁ? デリカシーという言葉をご存じないのですか?」

「ごめんなさい、アルスマグナ様」

「んでも何でアンフォメルだけこんなクソデカいんだ」

「そりゃあもう、性よ――」

 右目に漫画のような痣を作ったアジサイが再びアルスマグナの蹴りを顔面に受ける。

「アジサイ、もうそれわざとだよな」

「うん、ワザと、といっても性欲とは別に生殖器、つまり生命を生み出す重要器官、わかりやすくいうと超重要器官なのでその分魂の比重は大きいし、竜に限らず大切な部位でもあります。それが竜の体を成した。まぁ、巨大化するのも頷けると思います。違いますかアルスマグナさん?」

「合っていますが、正直、生理的嫌悪が先行して話が入ってきません。無駄に早口で長々しいのも余計に気持ち悪いです」

「辛辣だなぁ。とても良い事です」

 アジサイは微笑みながら罵倒を受け入れる。

「良い事なのか……?」

「魂を集めることでアルスマグナ自身の記憶と感情が蘇りつつあるんです。アジサイもそれは理解しているので、むしろ嫌悪を示すという感情表現が見れるというのはいいことです。セクハラ発言は別としてな」

「じゃあ、こいつはジークに任せていいのか?」

「もとより私が倒す相手です。それに――」

 

 ジークは最後に何か言うが、アンフォメルの咆哮に遮られる。アジサイは装具で空気を操り、音を遮断、ジークは竜殼を使い何とか咆哮に耐える。

 咆哮をまともに食らったミオリアは全身が裂傷を起こし、その場に膝を付く。

「クソいてぇ……」

 ポーションを取り出し自分に振りかけると、傷は即座に完治する。

「まずい、アンフォメルが動き始めた」

 ジークは顔をしかめる。

「どこに向かっている?」

「進行方向はおそらく王城です。足に迷いがないところから何か目的があると思います」

「マジかよ、先に行く、何でもいいから足止めを頼む!」

 言葉を吐き捨てると同時にミオリアは王城へ風より速く足を進め、王城に帰還する。

 二人が返事を返すころにはミオリアは数百メートル先に足を置いていた。

「速いねえ」

「速いな」

「そういや、アルスマグナさんも竜殼できたんだね」

「それどころか竜の姿にも成れるぞ」

「まじかぁ、ちょっと見てみたい」

「かっこいいぞ」

「楽しみにしておく、しかし、先輩のあの様子、王城でなんかあったっぽいな、俺だけでも戻った方が良いかな?」

 二人はミオリアが過ぎ去るのを遠目にそんな会話をしていた。

 

 

 アンフォメルはあの巨躯に似合わず俊敏に足を進めている。奴が一歩進むごとに起こる地鳴りの頻度から推察することが出来た。王城では懐刀と円卓七騎士が天使と交戦を開始している。

 この状況でアンフォメルに対応できるメンバー現状誰もいない。ミオリアも今は伝令役として動いているが、天使に対応しなければならない。

 今はジークとアジサイを信じるしかない。

 

 玉座に辿り着くとアクバ王の前に傅く。

「報告します。アルスマグナの最後の分魂である逆鱗のアンフォメルが目覚めました。進路は王城、如何なさいますか?」

「ふむ、竜狩りは?」

「既にジークとアジサイがアンフォメルに対応しております」

「天使にしてやられたな、ミオリア」

「ネフィリを渡すわけにはいかない」

「なら甲斐性を見せよ」

「はい」

 ミオリアは立ち上がると、玉座を後にした。

 外は相変わらず咆哮が大気を蹂躙している。城下町は天使たちと交戦しているのか黒煙が登り始めている。

 城下町に到着すると、アジサイの部下であるアキー、ヘムロック、ダチュラが住民の避難を行っていた。

「お疲れ、首尾は?」

 アキーに尋ねると、少し忙しそうに返答する。

「アジサイ印のハザードマップのおかげで超快適に避難できています。しかし逃げ遅れた子供がいるようでヘムロックとネフィリ様、グーラント様、レオニクス様が捜索中です。アンタレス様と円卓七騎士のヴォルス様、クライス様、イザイラ様が怪我人の治療、運搬を行っております」

「オッケー、天使は任せておいてくれ」

「はい、えっと、アジサイさんは?」

「あー……うん、あれ」

 ミオリアは逆鱗のアンフォメルを指差す。

「あー……なるほど」

 アキーは白目を剥きながら仕事に戻って行った。

 

「住民避難は大丈夫そうだな、これなら専念できる」

ミオリアは戦火の音を聞きつけて現場へ急行する。

天使は十人、他の天使は既に取り逃していた。

「救援感謝、しかしこの天使たち強い!」

 ルーサーは天使の一人とインファイトしながら叫ぶ。

「全員が神性並みの魔力、膂力もバカにできん、なによりあの翼、飛べるだけじゃない、体内の魔力を強化する仕組みになっている」

 エレインが解説しながら氷魔術を放つ。

「つまりクソ強いでいいんだな?」

「問題ない! 私の援護を頼みたい!」

「オッケー!」

 エレインが相手をしている天使を見据えると、ミオリアはナイフを構える。膝を大きく曲げ、神速を発揮する。

 数十メートルの距離をひと息かからずに詰めるとナイフを滑らせて天使を首に滑らせる。手応えは確かにあったが、ナイフは首を滑るだけで皮膚を裂くことはかなわなかった。

「防御魔術か」

 天使はミオリアに反応すると、雷魔術で電撃を飛ばす。咄嗟にエレインの傍まで後退すると体勢を直す。

「手強い相手だろう?」

 エレインは皮肉る。

「全くだ、角度が調整されてナイフが滑っちまう」

「急所全部プロテクトされて武器も魔術も通らない、それを制御しているのがあの翼なんだが、それが狙いにくい」

「なるほど、この短時間でよくわかったな」

「いや、アジサイだよ、ウィズアウトの死体を徹底的に解剖して調べ上げていた。一種の執着さえ感じるほど詳しく書いてあった」

「あいつかぁ……よっしゃ、俺が翼を獲る」

「任せる」

 エレインは詠唱を始める。ミオリアはそれを横目に体勢を低くする。詠唱が終わると同時に地面を蹴り上げ弧を描きながら天使の背後を取る。翼に手を掛けるとナイフを振り下ろし右翼を切断、その後左翼を手にかけると切り上げて両翼を切断する。背中を蹴り上げて反動を利用しながら斜めに後退すると、エレインの氷結魔術が天使を襲った。

「まずは一体目!」

 ミオリアの加勢により天使たちはじりじりと追い詰められ始める。


75話もいくと中だるみしてきましたね。すいません。今折り返しなので、もう少し辛抱ください。

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