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天ノ71話「炎陽」


「ルールは簡単、各陣営、一名ずつ代表を決め、戦う。それとミオリア殿の部下が行っているウォーゲームは継続して行う」

 聖光の騎士シャルルは壮健な面持ちでミオリアと打ち合わせする。

「連絡通りだな」

「魔道騎士のプライドにかけて約束は守ります」

 シャルルは淡い金色の髪に、青い瞳、如何にも英雄というのが似合う。身に纏っている甲冑も派手さはないが独特の気品がある。

「そうだな、じゃあ始めるとするか」

 二人は自陣に戻ると作戦会議を始める。

 

「クハハハハ、一番槍を努めるのはこの俺が適任であろう?」

 高笑いが五月蠅いルーサーは金色の髪を靡かせ、赤い目は今にも燃えそうである。


 

「さて、相手は貴様か」

 ルーサーは一息ついて、目の前に相対する男を見据える。

「ルーサー、ここで貴様を倒し、私は真の王位継承者として名乗りを上げる」

 火炎の騎士ウィナー、アクバ王の二人居る息子の一人である。

 黄金の髪に、端正な顔立ち、そして紅蓮の瞳。誰が見てもルーサーに顔が似ている。

 それもそのはずである。ルーサーもまた王位継承権を持つ、アクバ王の息子だからだ。二人は、同じ日に生まれ、同じ父親を持ち、同系統の能力を持つ。ただひとつ違うとすれば母親が違うことである。

 ウィナーは正室の子でルーサーは側室の子、そこから生まれたのは大人たちの大きな確執であった。

 しかし、ルーサーはそれら一切を気にも止めず、己が成したいがまま自由に生きた。対して、ウィナーは周囲の期待へ応えるべく己を鍛え上げた。そして二人は奇しくも、同じ、民の守護者となることを夢に誓った。

 同じ夢を持った彼らは、残酷なことに大人たちに権力争いの象徴として祭り上げられた。しかし、ルーサーは、齢十二にして王位継承権を放棄、それどころか、全ての地位も財産も母親に譲渡し、一人王城を去った。

 それからルーサーは髪を黒く染め、名を変え、王城の一兵卒としてゼロから己だけで全てを積み上げた。

 その結果が、懐刀である。着任と同時にルーサーは己の正体を明かし、貴族たちを震撼させた。

 そして、ある者たちはルーサーをこう評価した。


成すべくして王になる男と――。

 

 対して、ウィナーは貴族たちに英才教育を施され屈強な騎士としての威厳を備えていた。己の力に奢ることなく、日々鍛錬を積み、ルーサーにない教養を身に着けていた。

 だが、ウィナーは、ルーサーが懐刀に返り咲いたとき、絶望した。自分よりはるか下の地の底に落ちた人間が己の血肉ひとつでこの国の頂に手を伸ばしたのだから。

 だが、それこそがルーサーを強くした。庇護の献身と柔和な性格だった彼に、ルーサーという唯一無二のライバルであり、超えねばならぬ仇敵が目の前に現れたからだ。ウィナーの心に王として必要な苛烈さが芽生えたのだ。

 その信念が今のウィナーの地位である円卓七騎士の席である。 

 ある貴族たちはウィナーをこう評した。

 

 生まれながらにして王になる男と――。

 

 そして、今まで、裏でしかなかった小競り合いが表舞台のウォーゲームで繰り広げられる。

 

「クハハハ、王位? そんなものとっくの昔にお前にくれてやった。王になりたければ王に成ればお前が勝手に継承すれば良い」

「それでは意味がない。王とは、継承権を持つ誰よりも強く、誰よりも大きな器でなくてはないならい」

 啖呵を切る様にウィナーは言い放った。

「フム、貴様の話に微塵も興味はないが、誰よりも強くか、それはダメだ。ナンセンス過ぎる。そもそも、これはウォーゲーム、個人の戦いではない。私情を持ち出すことそのものがナンセンス」

 堂々正論を放ち、ウィナーの神経を逆撫でする。さらに止めの一言を付け加える。


「仮に、円卓七騎士が強者であったとしても、最強は懐刀である。未来永劫、何代変わろうとなっ!」

 絶対の自負と、矜持を懐刀の一番手は声高に叫ぶ。


「我らが騎士の侮辱と受け取る!」

 ウィナーはツーハンデットソードを引き抜くと自身に肉体強化魔術を行使し、鎧と剣に炎を纏わせる。

「好きにしろ、事実だ」

 対してルーサーは背負っていた槍を手に取ると、槍に炎を展開させる。


「「勝負!」」

 

 ウィナーはツーハンデットソードを振りかぶるとルーサーの懐に飛び掛かる。大振りの一撃は避けるに容易いが、ルーサーは大げさなくらい距離を開けた。

 ウィナーのツーハンデットソードが大地に突き刺さると、地面はひび割れ、溶岩が溢れ出した。

 ツーハンデットソードを起点に十メートルほどが溶岩の海となり、コポコポと音を立てて沸騰している。

ルーサーは体勢を立て直すと、左腕に力を入れ脇に槍の柄を挟み込むと右腕をウィナーとは逆方向に突き出した。足を屈めて力を溜めると、右手から爆炎を噴出させた。

その勢いのままルーサーはウィナーの胸を突く。人間にジェットエンジンを直結させたような軌道を描き、槍はウィナーを襲った。

 ウィナーは冷静に腰に装備している湾曲した短剣をとりだす。逆手で構えると、槍の穂先に短剣をあてがい軌道を僅かにずらす。ツーハンデットソードから炎を噴出させてその推進力でルーサーの首に円を描きながら刃を滑らせる。

 通常、この攻撃なら防御を取るか体をそらして急所である首を守るが、意外にもルーサーはそのどちらも取らなかった。

 

 この男が選択した行動は加速であった。

 

更に炎を巻き上げ、噴出させ、轟音と爆炎に包まれながらさらにその熱量を肥大化させる。恐れを知らない、敗北することを一切考えていない行動であった。

 

挑まずして勝ち得るくらいなら、挑み負け損じる方が良い。挑むことそのものが進化には必要であるから――。

 

ルーサーの哲学である。幾千幾万の敗北の災禍に飲まれてもなおその焔は暗夜を導く松明であった。


炎の嵐が止む頃には、ウィナーの喉元に槍が突きつけられていた。平原地帯の草花は焼け枯れ、地面は溶けて冷え固まっていた。


勝者、ルーサー。


 まさに火蓋が切られるというのが言い得て妙な一戦であった。

 

 

 

「クハハハハ! まずは一勝、流れを作っておいた」

「ナイス、良かったぜ」

 ミオリアはルーサーを激励する。他のメンバーもルーサーを讃えた。

「さて、次はどうする?」

「あのー、私が行ってもいいでしょうか?」

 アンタレスが手を上げる。

「動けるか?」

「準備はしてきましたので大丈夫だと思います」

 アンタレスはおっとりとした雰囲気でマシュマロの入った袋を片手に戦場へ踊り出した。

 

 

 相対するは草花の騎士イザイラ、彼女もまた強者である。草木を従える姿は茨の女王とも比喩される。それに付随して植物の毒も自在に操ることができるトリッキーなファイトスタイルを取る。

 本人も植物好きで、アジサイの盟友であるアルラウネの魔獣アンラに興味を持ち、アジサイに接触しようとしていたらしい。ただ、当のアジサイは裏の仕事で王城に居ないことが多くイザイラの植物愛好家としてのアプローチは不発に終わっている。

 そう考えると、貴族と言う面倒な矜持と立場が無ければ円卓七騎士と親しい間柄になれたかも知れないとミオリアは内心で残念がった。

「なにしてるの始まるよ」

 ネフィリの言葉でミオリアは空想から現実へ引き戻される。

 

「初めまして、厄災のパンドラです」

 アンタレスは公の場では自分のことをパンドラと名乗るようにしている。

 さらに言うと、普段は老婆姿であるが今回はそれもない。彼女なりに心境の変化があったらしく老婆姿はやめたと本人が言っていた。

 おっとした目にクリーム色の髪、食べることが趣味なところもあって適度に脂肪がついているが、どうやらその脂肪は全て胸に吸収されている。同じ懐刀であるネフィリやエレインと比較してもその大きさは雲泥の差である。

 対してイザイラは確かにスタイルがよいがアンタレスのわがままボディの前では歯が立たない、ただ宝石のような無機質さと女王と呼ばれる厳しさがあることからそれはそれで男性から需要のある人物である。

「初めまして草花の騎士イザイラです」

「ご丁寧にありがとうございます。さてと……始めましょうか、私、おなかが空いてしまってすぐに食事に向かいたいのです」

 マシュマロを次々と口に入れながらアンタレスは言う。

 それに少し苛立ちを覚えたのかイザイラはレイピアを引き抜く。

「では、参ります――」

 そう言い放った瞬間イザイラの地面から大樹がうねりを上げて地面から無数に飛び出す。森が生まれる勢いで生い茂る草木は枝を破竹の勢いで伸ばし地面を侵食しイザイラの領域を増やした。イザイラの生きた城とも言われる創樹魔術が冴え渡っていた。

 

 アンタレスは暢気にそれを眺めていると足元に蔦のように伸びた木の枝が巻き付いた。


「捕らえた!」

「あらあら、まぁまぁ、これは凄いですね」

「こうなれば後はあなたを締めあげてチェックメイトですね!」

 さらに樹木を伸ばしアンタレス体に枝を巻き付かせようとした瞬間、アンタレスはマシュマロを飲み込んで、戦闘モードへ心をシフトさせた。


それからアンタレスは手を叩いて柏手を一度する。

 

 次の瞬間、空が闇に包まれ、イザイラの築き上げた樹木の城が焼け落ちた。炎上げる間も無く、灰となった。

 

 アンタレス・シャウラ――。

 その正体を知る者は少ない。彼女は人間と空神の血を引く者である。そしてその権能は太陽の独占である。彼女が思うだけで太陽は決まったところを焼き払い、燃やし、焦土と化すことも、日差しを自在に決める裁量を持っている。

 先ほど繰り出した技は太陽の光をイザイラの城に集中させて焼き払うというものである。

 

 ただし弱点もあり、技を出すまでに本来であれば何十分、長い時では一時間前後時間が必要とすることである。今回はあらかじめ攻撃座標を知っていたため速攻の攻撃を仕掛けることが出来たが、本当の戦争であればこうはいかない。

「降参します?」

 アンタレスは柔らかな笑みを崩さずにイザイラに問いかけた。

「はい……」

 完敗であった。


 

 勝者、アンタレス。

 


「勝ちました」

「おう」

 ミオリアは次元倉庫からテーブルを出し、その上に料理を並べていた。テーブルの上の料理はどれも高級食材を贅沢に使った物ばかりである。

 アンタレスは席に着くと、食べ物に感謝を述べた後、マナー良くそれでいていた牛飲馬食のように次々と料理を胃袋に収めて行った。


 

「さてと、じゃあ三戦目やりたいやつ」

「私が行こう」

 エレインは静かに前へ出た。

 

 彼女の青い髪を横目にミオリアは首を縦に振り頷いた。

 

 

 三回戦の相手は流水の騎士レルゲン、読んで字の如く水を操る騎士である。対してエレインは氷を操る魔術、似た者通しの争いとなるが、この一戦から波乱が始まった。

季節の変わり目、風邪などにはお気を付けください。

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