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天ノ67話「各員役割を遂行せよ」

 

 

 どんなにピンチになっても諦めないことが大事。心で体は動くけど体が動いた後、心が付いてくることなんて滅多にない。

 アジサイはそう言っていた。アキーは驚くほどそれを心から理解することができた。

 

 開幕の鐘が鳴る。ウォーゲームが始まってしまった。

 

 向かいに見える城は、二十キロも離れているのに人の活気に溢れていた。対する自陣営はたった三人、もはやこの城を管理するだけでも一苦労な人数である。

「それじゃ、行ってきます」

 金髪の女、ヘムロックは六十キロの荷物を背負って、早々に城を飛び出していった。

 

 アキーとダチュラはマップ広げて、首を斜めにする。

 マップには二つの城が向かい合っている。自陣と敵陣を示している。自陣から見て五つのフィールドがあり、自陣の手前から砂漠地帯、平原地帯、森林地帯、岩石地帯、ジャングル地帯、敵陣という構成になっている。

 敵軍は千人動員してウォーゲームに臨んでいるが、実際相手にするのはせいぜい二、三百というところだ。一人でも城に入られて敵大将を狩られてしまうと負けてしまうからである。

「勝利条件のおさらい、たしか、敵大将のダウン、タイムアップで人数が多い方、敵大将の投降」

 アキーは自分に言い聞かせるように呟く。

「さて、作戦のおさらいしますよ」

「ダチュラお願い」

「まず、手前の砂漠地帯には水路を設けて水浸しにして、振動術式を大量に設置しております。森林地帯には水晶地雷をばらまき、その中に炸薬地雷を混ぜ魔術師を足止め、平原地帯には落とし穴を仕掛け騎兵対策を取っています。ミオリアさんに無理行って設置していただきました」

 二日前に、ミオリアがフィールドに入り、大量の地雷を設置している。反則と言われるとグレーではあるが、四の五の言っていられる状態ではない。

「計画通りね」

「城壁に強化魔術とエレインさんが用意したゴーレムが二十機設置されています。城内部はいつでも燃やせる準備をしているし、使わない部屋には全部ブービートラップが設置されています」

 最終防衛地点が突破された際、城を燃やして敵軍を倒す作戦である。これがダチュラたちの考案した作戦である。

「防衛面は予定通りですね。ヘムロックはどう?」

「体長は万全ですが、流石にヘムロックでも敵城まで隠密は辛いと思われます。見つかれば即アウト、森林とジャングルがどれだけ彼女に味方してくれるか次第ですね」

 ヘムロックは持ち前の身体能力と長年森と共に生きていた経験からジャングルや森林を平地同然にしかも方向感覚を狂わせることなく歩くことが出来る。

 さらに擬態のエンチャントを施した装備品を身に着け、周囲の景色と同調しながら歩みを進める。

「敵陣の兵糧攻めが成功するといいのですが……」

 アキーは心配する。

「訓練では四日程度で敵城内に潜入、食料庫に火を放ち自陣に帰還する予定です」

「四日間ここを守るということよね」

 地雷原に落とし穴、トラップは用意されているが敵陣が千人を総動員して突撃する場合、突破されるのに半日はかからないだろう。

 アキーはブリーフィングルームの中でため息を付く。

 

 アジサイならどうしただろう?

 

 何度も自分の心に問いかけている。おそらくアジサイならもっとうまくもっと効率よく敵を足止め出来る考えがあるはずだ。知識もセンスも足りない。

 しかし、ここにアジサイはいない。そしていつ帰るかもわからないのである。

 最悪、死亡している可能性もある。そんな不確定な男を考慮するほどアキーは阿保ではない。

 ライフル銃のマガジンに弾丸を込めながらアキーは入念に準備をする。

 今回のアキーとダチュラの装備は、黒い肘当て膝当てにヘルメット、服も黒で統一されており、布は二重になっており間にはセラミックの粉に魔術のダメージを軽減する魔獣の血液が充填されており、物理的、魔術的に高い強度を誇るリキッドアーマーで全身を覆っている。棍棒で一発二発殴られた程度では打撲どころかかすり傷程度に抑えることが出来る。布もアリアドネと呼ばれる魔獣の糸を織ったもので、防刃仕様になっている。それ以外にも筋力強化や瞬発力強化などのエンチャントも施されている。

 武器は軽量化のエンチャントを付与したライフル銃に、様々な属性の弾丸を用意している。この弾丸はダチュラのオリジナル作品でどれも強烈な威力を持つ。風属性の弾丸『ウィンドポイント』は弾道の安定度が飛躍的に向上し長距離の精密射撃が行える。火属性の弾丸『エクスプロードポイント』は着弾後、弾頭が炸裂して敵の内臓にダメージを与える。氷属性の弾丸『アイスポイント』は発砲後、空気中の水分を凝固させて弾丸重量を増やし重い一撃を与える。

 どれもこの戦闘で初の実戦投入であるため伸るか反るか神のみぞ知る。

 

 

 遠くで炸裂音が聞こえ始めた。

 

 

「間抜けが引っかかった」

 ダチュラはにやりと笑う。

「ダチュラ、映像をお願い」

 ダチュラは壁に術式の書かれた布を張り魔術を起動する。フィールドにあらかじめ設置した水晶球が連動して作動し、術式に映像が映し出される。ちょうどスクリーンに映像を投影するような状態である。

 無数に仕掛けた水晶球からタイムリーな映像が映し出される。

 タイムリーな情報を仕入れることに成功しダチュラとアキーは一安心する。

「この映像に気づかれるのはいつになるやら、術式妨害なんて簡単ですからね」

「数日状態が把握できれば十分です。動きは歩兵を先頭に歩かせ重装兵、騎馬兵、魔術師ですかね、基本の陣形のようですね」

「歩兵が怯えて立ち往生している。あっ、揉めてる揉めてる。これはウォーゲームが終わった後もわだかまりにあんりそう」

「もっと大揉めしてくれるといいんですけどね」

「アキーって意外に腹黒いよね」

 ダチュラはため息をつく。

 そうこうしているうちに歩兵たちは指揮官と揉め始める。敵陣の士気の低さが伺える。

 なにせアキーはこうなることを仕組んでいた。

「歩兵たちにはこのウォーゲームで功績を上げると昇進できると噂を流してましたからね。そして早々に死亡判定されたものは半年給料無しとも噂を流しておきましたからね。歩兵たちの行きつけの風俗店をリサーチしておいて何よりでした」

 ちなみにアキーは、その風俗店にミオリアを派遣して、露骨に噂を流しまくらせた。加えてアキーは歩兵の昼食に媚薬を混ぜて風俗店に行きやすい状態を強制的に作らせるという手の尽くしようである。

 現在、歩兵と指揮官で起きている摩擦はアキーが意図的に、つまり計算された暴動である。

 誤解を解くのに時間を使い、それでも残る不信感と戦いながら兵をいつ空へ吹飛ばされるかわからない道を歩まされる。

 想像したただけ士気が下がるのは目に見えている。しかも敵大将は城に引き籠って高みの見物である。おそらく現場の状態なんぞ知る由もない。

「うまく上手く行ってますね、想定通り歩兵たちのブーイングが起こってますね」

 アキーは作戦の第一段階が成功したことに安堵する。

 

 

「では私も攻撃に入ります」

 ダチュラはそう言うと、城の一番高い場所、ベルフリトへ移動する。ここがダチュラの持ち場である。

 ベルリフトの窓付近には人が大の字で寝てもおつりが来そうな四角いテーブルが設置されている。

 そしてその上にはダチュラの身長百五十センチの二倍はある大きさのライフル銃が固定されていた。対物ライフと呼ばれるもので構造そのものは通常のライフルと同じで使用する弾薬の口径が大きくなっている。

 ダチュラはテーブルの上に乗り、対物ライフルのバイポットを立て、脚部にボルトを打ち込み完全に固定する。

 一通りの動作を確認し作動不良がないことを確認すると『ウィンドポイント』を装填する。

 ボルトを引き、薬室に弾薬を装填すると安全装置を外しテーブルに寝そべる。右肩にストックをあてがいスコープを覗き込む。この時、銃に対してダチュラの体は斜めになっており衝撃に耐えられるようになっている。

 ベルフリトからスコープ越しで見える世界はまるで空から地上を見ているような気分だった。

 ダチュラはこの孤独で、静寂に包まれた空間が親しみやすかった。好きとか嫌いとかではなく、この空気に同調するのが得意なのである。

 敵は数十キロ離れた場所にいるがスコープはキッチリとその姿を捉えている。

 

 ダチュラは敵後方に居る大隊指揮官に照準を合わせる。魔術師たちに紛れて防衛されているがしっかりと見えている。

 この対物ライフルにはエンチャントが施されており、スコープは通常の何千倍も遠くが見え、そして銃本体は――

 

 

 ダチュラは引き金を絞り切る。

 炸裂音と共に弾丸はライフリングを刻みながら回転運動を取り入れる。銃口から飛びした瞬間、衝撃がベルリフトに響き渡る。

 

 それから数十秒後に敵指揮官の魔力装甲をゼロにする。その周りにいた魔術師たちも吹飛ばされて魔力装甲を削り切り一度のショットで三人ほどの敵を倒す。『ウインドポイント』の特徴である、加速と真空の刃をを生み出すことで弾丸がヒットしなくても敵に重傷を負わせることが出来る。

 そして、対物ライフルには『風避け』というエンチャントされており、この加護によって魔力が十分に充填されている間、弾丸は数十秒間風や空気の影響を受けなくなる。これによって通常では届かない距離の狙撃を可能した。

 ダチュラはボルト引き、排莢するとトリガーガードに指をかけ、次の標的を吟味する。

 薬莢が鈍く低い音を響かせながら床に転がり落ちる。

 

 ダチュラの役割は敵指揮官を徹底的に潰すこと。

 

 ダチュラはスコープを覗き込むと、如何にも指揮官という人間を次々と撃ち倒していく。相手は魔術攻撃が空から降っていると勘違いし、防御陣形を固め始める。防壁魔術を使われると『ウィンドポイント』では歯が立たなく。

 ダチュラは試しに一発打ち込むが結果は予想通り弾丸がはじかれて終わる。ダチュラは顔をしかめてマガジンを引き抜き、別な種類の弾丸をリロードする。

 

 

 肺の空気を七割程度にして呼吸を止め、心音が落ち着かせる。そしてトリガーを引く――

 


ミオリアが出て来ないミオリアの話。

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