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獣ノ57話「スコポラミン・コニイン・ヒポクリシン」

 

「んで、なんで俺も試験官なんだ?」

「暇だろ?」

「まぁね!」

「昼飯奢ってやるから」

「オッケー」

 ジークは昼飯に釣られて試験官を快諾する。すぐに試験会場に向かう。と言っても王城内にある闘技場で試験は行われる。

「そういや、アジサイ」

「どした?」

「女連れ回しているらしいな」

「あー、あの二人か、紆余曲折あってな、拾った」

「そんなイヌみたいな」

「身寄りがないんだとよ、まぁ、このままイヌみたいに飼うつもりはない、二十歳そこそこの女をほいさとほっぽるのも違うだろ」

「まぁな」

「それに……まぁ、まだ新しい女って言ってもな」

「引きづってるな」

「そうだな……時間が解決してくれるさ、大切な人を失うのはこれが初めてってわけでもねえしな」

 アジサイは表情を陰らせる。

「そうか」

「んでもまぁ、美人は見てて飽きないけどな」

「手をだしちゃうのか?」

「馬鹿言え、胸が貧相すぎる」

「たゆんたゆんと聞いたんだが」

「いや、普通にデカイ、スピカ以下ってだけ」

「嫁好きな」

「そりゃあ、世界で一番愛してやった女だからな」

「それもそうか、んでもそのうち会わせてくれ」

「んああ、大丈夫、試験に出させているから」

「そうなのか」

「万が一の期待さ、もしダメでもメイドでもやらせる予定」

「一応仕事を与えるのな」

「当然さ働かざる者食うべからずってやつだな、今回も一応仕事さ」

「ほほう……これは嫌な予感がしますねえ」

「お楽しみに!」


 そんな会話をしながら闘技場に到着する。


 

「うわぁ、結構いるな」

 ジークがため息を付きながら、ざっと見ても百人はいる受験者を一望する。

「えぇ……殺人鬼っすよ私」

「万人殺せばなんとやらってやつだな」

「と言うかジークも人殺しをよく友達扱いするな」

「まぁ、俺も先輩も殺しているからな」

「そういやそうか」

「そんなもんだ、俺もアジサイも、状況が変われば価値観が変わる」

「そっか……そうだな、よし、始めるか!」

 

 アジサイは仕事に気持ちを切り替える

 

「はーい! じゃあ試験を始めます。まず受験者は全て番号で呼びます。自分の番号を忘れないでください。それと私が許可または要求した時以外は本名を言わないでください」

 アジサイは声を張り上げ、受験生に課題を説明する。

 

「試験は尻尾取りゲームをします」

 そう言ってアジサイは事前に用意していたバックから三十センチほど切った赤色の紐を取り出し一人一人に手渡す。

 

「三十分後、尻尾をひとつも持っていない人は失格とします! 開始時に尻尾を腰に付けてない者も失格です! あと試験中は会場内を出なければ大体何しても自由です。ただし殺人は即失格です。あと特にないと思いますが、試験会場にあるものは好きに使って構いません」

 受験生はルールを確認するとズボンやベルトに。尻尾を取り付ける。

 

「尻尾の確認をするので念のため一列に並んでください」

 アジサイはそう指示して受験生を一列に並べるとアジサイとジークは列の両端から一人一人尻尾を確認する。


「アジサイ、尻尾が無い奴が二人いたぞ」

「失格にしろ」

「ちょっと待ってください!」

 青年二人が反抗的な顔でアジサイの元へ駆け寄る。

「どうした?」

「僕たちは尻尾を盗まれました。新しい尻尾を要求します」

「そうか、じゃあ聞くが、盗んだ奴は分かるか?」

 アジサイは青年たちに問いかける。

「それは……ここの中の誰かです」

「なるほど、話は分かった、出て行け」

 アジサイは親指で出口を指差す。

「なんでですか!」

「そもそも、試験に使う物をあっさり盗まれるような間抜けはいらねえんだよ」

 心底冷え切った声音でアジサイは脅す様に青年二人に言い放つ。

「それは……」

「ほら、試験の邪魔だ出て行け」

 青年二人は落ち込んだ様子で試験会場を後にした。



「他は問題なかった?」

 ジークは首を縦に振る。

「そっか」

 アジサイはそれ聞いて大きく頷く。


「それでは始めろ!」

 

 アジサイが開始の声を上げると、受験生は自分の得物を手に持ち、一斉に斬りかかる。


「うわー、血の気が多いねえ。しかし意外に女性も多いな」

「そうだな、いかにも姫騎士って感じのもいるな」

「貴族出身の奴らも名簿に載っていたな、有望そうな奴もいるらしい」

「家系採用の予定は?」

「お前んとこの子供なら」

「ぶっ殺すぞアジサイ」

「面倒見てやるから安心しろってジークパパ」

「ファッキュー」

「さて、今回の尻尾取りゲーム、言ってないけど、三本以上持って終わった奴らも落とす」

「その心は?」

「目立ちすぎる、俺らはあくまで日陰にいなきゃならない人間だ」

「なるほどな……」

「んでもまぁ、優秀な人材である可能性もあるから先輩経由で他の懐刀に斡旋させる」

「用意がいいな」

「適性を見るからな」

「なるほどね」

 ジークとアジサイは闘技場内の壁際で駄弁る。


「あのーすいません」

 声を掛けてきたのは黒髪と金髪のスタイル抜群の女性二人。ダチュラとヘムロックである。

「どうしました?」

 ジークが二人に声を掛ける。

「そのジーク様ですよね」

「ええ、まぁ」

「もしよければなんですが、私たち武器とか持ってなくって、できれば助けていただけないでしょうか?」

「はぁ?」

 ジークは思わず何とも言い難い声を上げる。

「ぶっははっはっはっは」

 アジサイは大声で腹を抱えて笑う。

「ダメですか?」

「どうするアジサイ?」

「どうぞご自由に」

 アジサイは笑いながら答える。

「まぁ、近くに来たら考えてやる」

 ヘムロックとダチュラは壁にもたれ掛かっているジークとアジサイの間に入り、壁に寄りかかり地面に座る。


「ジーク、紹介するよ、こいつらがうわさの拾った子のヘムロックとダチュラ、金髪おっぱいがヘムロックで黒髪おっぱいがダチュラだ」

「あー、よろしくな、噂に違わず中々の一品ですな」

 女性二人はジークの挨拶に対して一瞥する。

「せやろ」

「胸で人を拾ってくるアジサイくん」

「今回は胸じゃないで」

「えぇー本当でござるかぁー?」

「ほんとだよ、三割は」

「七割ィ……」


「まぁまぁ、細かいことはさておき、ヘムロックにダチュラ、どうしてジークに助けを?」


「それは、ジーク様がここで一番強いから、お近づきになれば他の受験生は手を出さないかと思いました」

「あー、なるほどな」

 ジークは感心するように頷いた。

「ちなみに紐を盗んだのも私たちです」

「お、マジか、やるねえ」

 アジサイは拍手をしながら二人を褒める。

「盗んで称賛される職場」

「ようこそブラックアジサイ隊へ」

「うわぁださい」

「センスを感じない」

 ダチュラとヘムロックは冷ややかな目でアジサイを見る。


「こいつらずっとこんな感じか?」

「こんなもん、んでもいい子だよ」

「お前がそう言うなら信じるさ」

「さて、そろそろ飽きたし、止めるか」

 

 アジサイは前に出ると、声を張り上げる。


「しゅーりょー!! 紐を持ってない人は帰っていいよー!」

 

 ぞろぞろと闘技場から人が九十人ほど出て行く。

「はいはい、んじゃ、紐を三本以上持っている人間は俺から見て右側に、そうでないのは左へ!」

 

 残った十人を集めると、そのうちの三人の青年がほぼ尻尾を独占しているのがわかった。

 三人の青年はどや顔で、アジサイに尻尾を見せつける。


「はい、じゃあ、三本以上紐を持っている者は失格ね」

 アジサイは無慈悲に言い放つ。


「なんでだよ! 納得できねえ!」

 そのうちの一人が物凄い剣幕でアジサイに歩み寄る。

「まぁまぁ、落ち着け、これには理由がある」

「理由?」

「ここで尻尾を三本以上取った人間は俺じゃなくて、懐刀直轄の部隊に入隊させる試験を斡旋させる。つまりは才能がありすぎて俺じゃお前らの才能を殺してしまう。胸を張って誇ってい!」

 内面とは裏腹にアジサイは爽やかな表情で三人を家に帰した。実際この後入隊試験を受けさせたのでアジサイは一切嘘を付いていない。

 

「さて、残った君たち五人、ここから試験本番だ。と言っても、まぁ、座りなよ」

 

 闘技場のど真ん中に受験生を座らせる。


「さて、次の試験は面談だ」

「試験官殿、質問がございます」

 若い青年が挙手する。

「君は何番?」

「六十七番、名前はセ――」

「それで質問は?」

 アジサイは遮る様に六十七番に質問する。

「は、はい、先ほどの試験なのですが、なぜ、尻尾を多くとった者は落とされたのでしょうか、たしかに試験官殿が仰られたことも一理あると思うのですが、受験生の中には家柄に力のある者もおりました。今後の発展を考えるならそう言った者たちと接点を作れる。それは落とす以上のメリットになると思います」

「なるほどね、それは私の方針さ、家柄や立場、身分では差別しない。全て個人の能力を見て判断する。良し悪しではなく私がそう言う方針っていうだけさ。だから前科持ちであっても能力次第では採用する」

「そうですか、犯罪者であってもですか? 例え悪人であっても採用すると?」

 アジサイは頷く。

 青年は思うところがあったのか立ち上がって深々と頭を下げて闘技場を去って行った。

「若いね……残り四人か。この流れだし質問タイムでいいや、他のメンバーで質問は?」

「はい」

 若い女騎士が挙手する。

「どうぞ」

「八十三番です。先ほどどんな人物でもとおっしゃりましたが、例えばエルフやドワーフなどの亜人や、特異体質のようなものを持っている人間でも採用されるということですか?」

 青年は手を挙げてから話をした。少し細身で体力面が心配であったが活気があり明るそうな印象をアジサイは受けた。

「もちろん、ただ体質上、私が行う任務に不向きの場合、落とすことはするよ。命に危険がある仕事だからね。もちろん自分の仕事に有利な場合は積極的に採用していこうと考えている」

 アジサイは丁寧な口調で一通りの説明を終える。

「なるほどわかりました。私からは以上です」

「質問ありがとうございました」

 アジサイは八十三番に頭を深々と下げる。

「そこの泥棒二人、五十六と五十七番は質問ある?」

「私たちなんでこの試験を受けさせられているの?」

 ヘムロックが金髪を揺らしながら小首を傾げる。

「同感です」

「そりゃあ、俺のところ来るのは構わねえがタダでいさせてもらえると思うな。丁度いい機会だし追い出す口実が欲しかったところだ」

 二人を追い立てるようにアジサイは答えた。

「確かにお前ら二人は俺が拾ってきた。だがずっと世話出来るわけじゃねえってことだ。試験受け合格しろ落ちたらあとは知ったことじゃねえ」

 さらにアジサイは止めの一言を放つ。二人は顔色が真っ青になっていた。

「次は……二十五番は質問ありますか?」

「いえ、特にございません」

「はい、わかりました。それでは面談を行います。まぁ、と言っても簡単な計算や知識を訪ねるだけだから安心して」

 四人は首を縦にする。

「そいじゃあ、八十三番、四則計算は出来るか?」

「はい、できます」

 八十三番の青年は元気よく答える。

「答えが1から9をひとつずつ用いて足し算を行い、合計が10になる組み合わせは何通りあるか」

 青年は三十秒ほど考えた答えが出たのか表情を変化させた。

「9通りです」

「はい、わかりました」

「あの、すいません」

 五十七番のダチュラが手を挙げずに言葉を発する。

「どうした?」

「8通り」

「うん、正解」

 アジサイは笑いながら言葉を返した。

「9通りじゃ……えっ?」

 ダチュラはそれ以上何も言わなかった。

「あ、あのチャンスをっ!」

 八十三番は必死の表情でチャンスを要求する。

 

 八十三番は表情が表に出やすく、ポーカーフェイスに向かない。アジサイはこの時点で八十三番に見込みなしの烙印を押した。

 逆に、五十七番であるダチュラの頭の良さにアジサイは驚いた。この世界では読み書きできない者も多く存在し、計算能力もあまり高くない。日本で言うところの小学校レベルの計算能力でも出来る方に入る。五十七番のダチュラには見込みがあるとアジサイは関心を示した。

「八十三番、君の採用は見送るよ」

「えっ……そんな! たった一問で!」

「そうだ、たった一問だ。理不尽と思うか?」

「そりゃあ、当たり前じゃないですか!」

 八十三番は大声で吐き散らかす。

「だろうな、私もそう思う。これで何が分かるんですか! ってね。でもね八十三番、私が見ていたところは君の能力なんだ。計算能力だけではない」

「どういうことですか?」

「うーん、よし、君は真面目そうだから今後の糧になれば幸いだ。なぜ私が君を落としたのか話そう。それでいいかい?」

 アジサイの提案に八十三番は頷いた。

「お願いします」

「私が君に出した問題は引っ掛けではあるけど計算その物は難しくはない。ただいきなり、問題に直面した時の君の表情や対応、考え方などを見たんだ。君は考えていることが表情に出やすいタイプに見えた。私の仕事ではそのタイプはちょっと仕事が難しいんだ。私が君を預かり、私の仕事を手伝わせるとなると君を殺しかねない。だから落とす。君自身の能力が私の請け負う仕事と合わなかった。ただそれだけのこと」

「……そうですか、理解しました」

「納得はしなくていいよ。無理にわかろうとしてはいけない。私が言っていることがいつか、あの時のことはこうだったのか、と思える日が来ることを祈っているよ」

 その一言を受け止めた八十三番は闘技場を後にした。


「ほいほいじゃあ、残り三人ね、五十七番は先ほどの質問に答えたからもういいよ」

「はい」

 ダチュラは返事をする。


「では五十六番、質問だ。君の目の前には親しい人がいる。家族か友人ぐらいのイメージでね。その親しい人が二人、全く同じ顔の奴が二人いたとする。そのうちのどちらかが大量殺人鬼で親しい人に変装している。貴方は目の前にいる殺人鬼をどうやって特定する?」

「自分の服を脱ぎます」

 ヘムロックはわけのわからないことを口走る。

「は?」

「私、基本的に室内では服を着ないので来客が友人または家族であることを確認した時点で服を脱ぎます。それでおかしな反応したらそいつが殺人鬼ですね」

 大きな胸に金髪、端正な顔。しかしこの女は恥じらいが無かった。しかし、日常的なこと対してことなる反応をする。しかもそれが相手に何かさせるのではなく、自分が起こした行動に対しての反応を見る。ヘムロックの自己分析と観察力にアジサイは関心を持った。ただし彼女の変態性はいささか気になるところではある。

「なるほどね、オッケー把握」

 ヘムロックは何食わぬ顔で回答する。


「じゃあ、最後、二十五番へ質問、貴方は貴族の暗殺を仲間一人と行ったが失敗し捕まってしまう。暗殺対象の貴族は言った。

 本来ならお前たちは懲役五年なんだが、もし二人とも黙秘したら、証拠不十分として減刑し、二人とも懲役二年だ。

もし片方だけが自白したら、そいつはその場で釈放してやろう。この場合黙秘していた方は死刑だ。

ただし、二人とも自白したら、判決どおり二人とも懲役五年だ。さて君はどうする?」

 

 二十五番の女は静かに考える。

 

「私は黙秘しまう」


 女は静かに答えた。

「何故?」

「暗殺に失敗した事実を依頼した人間に伝える必要があります。二年では遅すぎます能力差次第ではありますが、私は足が速くなく、馬術もそこまでありませんのでもう一人の方が早く依頼元へ行けると思います。私は死刑になったとしても結果から考えると有益かと」

 女はそう答えた。答えとしてはアジサイが考えるにほぼ最適解に近い。むしろ最適に近すぎて薄気味悪いほどだった。

「そうか……」

 アジサイは頷きながら静かに言葉を返した。

「何か不備がありますか?」

 女は不安そうな顔をしていた。

「この問題に正解はない。ただ考えを聞くことが重要なんだ。不安になる必要はない」

 

 

 アジサイは女の採用を迷った。この女からは原油の匂いがしたからだ。扱いひとつで全てを焼き払う炎にもなりかねない危険を孕んでいるがそれ以上に――。

 

 

 それ以上に面白いとアジサイは思ってしまったからだ。

 

 

「最後に三人に聞きたいのだけど、俺の下に付くと出世は望まないということでいいな?」

 三人は即答で了承した。それを見たアジサイは羊皮紙を取り出し鉛筆を走らせた。

「さてと……じゃあ明日、ここに来てくれ」

 アジサイは二十五番の女に紙を渡す。女は紙を受け取ろうと手を伸ばした。寸前のところでアジサイは手を戻す。

「最後に、君の名前は?」

「アキーです」

「アキーね、よろしく」

 

 

 アジサイのお眼鏡に叶う者がひとりだけ見つかった。


「んじゃあ、明日からが試験本番だから」

 アジサイはそう言いながら、羊皮紙をアキーに渡した。

 

しばらくアジサイの話が続くんじゃ(急なプロット改変は作者の特権)

来週の月曜日もアジサイと地獄に付き合ってもらう。

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